ケアファーム先進国の一つともいえるであろうオランダ。
オランダのケアファームに関して、保険制度・事業内容・視察などに関しては日本語でも記事が見つかるが、認証制度について聞いたことはあるだろうか?今回は全国的な品質保証制度・Kwaliteit laat je zien! (kljz) (直訳すると「品質をあなたに見せてあげよう!」)を紹介する。
ケアファームについて初めて聞いた方のために、簡単に説明しておこう。オランダにおけるケアファームとは、補助・介護・指導を必要としている人々に、居場所を提供する農業生産者・法人のこと。事業運営や発展においては、サービス利用者(deelnemer「参加者」と呼ばれる)の能力や目標が尊重される場所。日本の「農福連携」では就労に焦点があるのに対して、ケアファームは福祉が主軸だ。
ケアファーマーをまとめる連盟 Federatie Landbouw & Zorgについて
オランダ全国のケアファーマーは、16の地方団体を通して組織化されている。さらにこれら地方団体が加盟しているのが、Federatie Landbouw & Zorg (Federatie L&Z)・和訳すると「農業介護連盟」。800以上のケアファーマーが登録されていて、未登録のものも加えるとオランダには1000以上のケアファームがあることになるらしい。
農業介護連盟の役割として、アドボカシー活動(政府や産業部門にケアファームへの理解を求めたり政策提言をしたりする)・知識の普及と養成(ネット上における情報公開やワークショップ、会合など)・品質管理(ウェビナーや保証制度の管理)がある。品質の保証制度に関しては、独立した品質管理局が行っている。また、地方団体は地方レベルでアドボカシー活動や知識の普及、養成、品質向上などを行うほか、連絡窓口と広告塔の役割も担う。
ケアファーマーは、地方団体に加盟してから2年以内に、kljz認証を得なければいけない。ただしそれ以外に、ISO規格の認証やPREZO(介護ケア・在宅ケアの品質証明)HKZ(介護と福祉の品質証明)も有効だそうだ。
認証が必要な理由には次のようなことが挙げられる:
一番大切な理由は、保健サービス提供者は、「保健施設品質法」で、品質向上に努め報告する義務があると定められているから。
また、品質保証があれば、保険会社によって保健サービス提供者と認識され、保険の対象となる。つまり、サービス利用者は保険会社から、ケアファームでのサービスに対して保険金を受け取ることができる。
労働監督署・オランダ食品消費者製品安全庁(NVWA)・健康厚生スポーツ省(VWS)・個別ケア予算(PGB)受給者の組合Per Saldoは、kljz認証を各々の分野から是認している。
さらに品質保証はサービス利用者やその家族にとっての安心材料にもなる。専門的な補助・指導が得られること、意味のある仕事ができるということ、人として成長できる場であること、透明性があり一般にも公開できる誇らしい場であること。
そもそもケアファームの品質とはいったい?
「品質」と一口に言っても、人やサービスの種類によって指すものは異なる。2013年に出版されたオランダのケアファームに関するレポートでは、次のような研究結果を説明している。
素行や登校拒否などの問題を抱える若者にとって大切なのは、まず作業等がわかりやすく安全な場所。担当者が大人の事情でころころ変わるのは不安の種にもなるため、指導の一貫性も重視される。自分の仕事に誇りを持っている農家さんがロールモデル的な存在となるのもケアファームの魅力だ。「サービス利用者」ではなく「働き手」として農園に関わり、責任を持つことで自信がつく。そして結果が見える学びの場(種を蒔いたら発芽する、など。教室では結果が見えず目的を失うことがある)で様々な作業をすることで、自分の可能性を知ることができるだろう。
精神障がい者にとって、普段とは違う環境でやりがいがある仕事をすることは、問題の引き金を減らすことにつながる。生活リズムを取り戻すきっかけにもなる。また、農園が社会との接点となり、農家さんやそこで働く人など社会に受け入れてもらうことで自信が持てるようになるかもしれない。大人数だと問題行為を引き起こしやすいため、小規模で支援を受けられるのも大切だ。
これら二グループとは異なり、認知症高齢者のケアに求められるのは「普段通りの生活」だ。料理をしたり、掃除をしたりできる場所。そして少人数でケアを受けることも、非日常的な要素を取り除く配慮である。
※補足説明をすると、このレポートには15種類の対象グループが列挙されている。2013年の時点で、各グループを受け入れているケアファームの数は以下の通り:
対象グループ 受け入れ対象としているケアファームの数
知的障がい者 508
精神障がい者 429
身体障がい者 219
前歴のある人 40
高齢者 301
高齢認知症患者 215
燃え尽き症候群患者 256
...
対象グループによって必要としているケアが異なるがゆえに、適切な施設や資格、書類、補助があることが問われる。今までは複数の対象グループを受け入れていたのだけれど、対応がややこしくて全体の質が落ちてしまうため、2グループほどに絞った、という例も聞いた。
何をもって品質保証をするのか:審査の内容と費用
Kwaliteit laat je zien!はオランダ全国のケアファームの品質を管理・認証する制度で、2002年に導入された。Federatie L&Zの関連かつ独立団体「品質管理局」が運営している。ケアファームとして登録するにはこの認証が必要となるわけだが、その内容や費用はどのようなものなのか。
2021年度の費用は以下の通り。2020年度と比べてすべての項目で約3%の値上がりとなった。(参考までに、1EUR=130JPYで日本円換算の値段も表示した。また、品質認証は活動の種類ごとに行われる。活動には、日帰りサービスと入居サービスの二種類がある。費用も活動が一つの場合と二つの場合で異なる。)
まず、一番最初の登録費用は、515ユーロ(6.7万円。活動が二種類の場合は770ユーロ≒10万円)。
専用のサイトに、様々な資料をアップロードしてOKを貰う必要がある。資料の一覧をさっと見たところ、内容は一日の活動、トラブルが発生した際の対処法、新規利用者の迎え入れ方など、多岐にわたっていた。対象グループによっても必要な書類は異なる。
その後は毎年レポートを提出、その審査と更新費用が合わせて155ユーロ(2万円)。
レポートにはその年の取り組みや利用者数とその変化(&理由。就職・別の施設に転居・死去・健康上の理由等)、今年の目標と5年後の目標、利用者からのフィードバック、出来事(徘徊、暴力等)などが20-30ページほどにわたって書かれている。このレポートに基づいて、改善点が会員サイトの「やることリスト」のページに足されていく。
やることリストに書かれていることも多岐にわたる。例としては、指導者が養成講座に参加すること、農園のウェブサイトを改善すること、利用者とフィードバックセッションを開くこと、農園の5年事業計画を書くこと、救急箱の点検、そして今年度のレポートを書くこと...ケアファームの担当者が自分で決めるものもあれば、品質管理局が決めるものもある。
費用最後の項目は、3年ごとに行われる現地審査。活動が一つの場合は825ユーロ(10.7万円)、二つだと1335ユーロ(17万円)。
(kljzの費用のほかに、Federatie L&Zの会員費として年間約440ユーロ(もしくはそれ以上。一団体が管理する場所の数による。約5.7万円)を払う必要がある。)
登録やレポートの内容を見てみると、組織運営そのものの質が問われていることがわかる。ケアファームの品質は、実物そのものではなく過程・活動に現れるため、取り組み内容とその仕組み、改善努力が重視されているというわけだ。
ひととおり認証の条件を確認したところで、ケアファーマー本人が感じる品質保証制度のメリットを紹介しよう。企業研修でお世話になっている、オランダ南部のケアファームの農場主さんにお話を聞いた。
「一団体としてすべての法律や制度、そしてその改正を追うことは困難だから、kljzのガイドラインとやることリストに従うことで、決まり事に沿った運営ができているのだと安心するね。また、サービス利用者さんからのフィードバックを頂くきっかけでもある。だから、より高い質のサービスを提供できるようになっていると思うよ」
次ページ:認証制度から見えてくる、オランダケアファームの特徴 & 私の考え
=====
認証制度から見えてくる、オランダのケアファームの特徴
ここまで調べてみて、オランダのケアファームは福祉サービスとしてかなり洗練されている印象を受けた。
これだけ組織としての質が問われると、お金目当てで上辺だけの団体や本気でない団体は排除されるだろう。ケアファーム部門全体の透明性が保たれ、品質と信用性が向上する。利用者やその家族にとって、施設を選ぶ際の判断材料ともなる。本気で取り組んでいる団体にとっては、努力の証、誇らしいことだろう。このような枠組みと品質改善に向けた取り組み・支援は評価されるべきものだと思う。
しかし、kljzの費用とFederatie L&Zの会員費を合わせて年間約14万円、現地審査のある年には約25万円という出費は、小規模農家にとっては決して小さいものではないのでは(むろんここでも本気度が問われるのだが)。
また、対象グループを絞って特化した施設は、サービス内容を特定のニーズに合わせ、専門的な支援をすることができる。しかしそこに集まる人の多様性が限られ、それはそれで孤立した社会になってしまうような気もする。
このような制度が、新たな試みには縛りとなる可能性もある。例えば高齢者施設と保育所を合わせた多世代交流の場所をケアファームとするなど、複数の取り組みを掛け算する場合、手続きがややこしい・手数料が高いという問題がありそうだ。
品質の保証は不特定多数に訴えかけるときには役立つけれど、お互いの顔が見える、透明性のある場所では不要だろう。極端な例かもしれないが、いつもお世話になっている近所のおばあちゃんに子どもを預けるとき、そしてお礼をするとき、「あなたの子守りの品質に保証はありますか」なんてことは聞かないと思う。地域のケアファームの事を住民たちが知っていて交流がある場合、そこでのケアの質が良いものか、信頼できるかどうかの判断材料は普段のやり取りの中に溢れているはずだ。農家さんの人柄や働く人の話し声・笑い声・挨拶、野菜を買いに行った時の対応、噂話など...
対して今の社会、集団よりも個人が重視されるようになり、かつ個人が「無名化」した中で、信頼性を普段のやり取りから判断するのは難しい。普段の交流がないのかもしれないし、あったとしても表面的・部分的なのかもしれない。日本の障がい者雇用施設での不祥事は、障がい者雇用という部門そのものの透明性が欠けていることや、社会がタブー視しているところから来ているのでは、と感じてい。
私自身にとって魅力的なのは、年齢・障がいの有無や種類などに関係なく地域のあらゆる人の居場所となるソーシャルファーム。オランダの品質管理制度の一部である品質向上支援・アドバイス等は重宝するだろうが、あまりにも仕組みに縛られるのは勘弁してほしい。今までにない取り組みを自由に行える環境にいたい。
それでも、オランダの障がい者雇用制度に関する記事でも書いたように、現代社会ではしっかりした仕組みで弱者を守ることも時には必要なことは理解している'。だがやはり、人間の直感や感覚による信頼性の判断が消え、何でもかんでも規格に当てはめなければいけない社会はどこか虚しい気もする。
おまけ:オランダのケアファームの歴史に興味がある方は、こちらの動画も参考にしていただければ幸いだ。





