「バイオ」とついていてカタカナ語で、なんとなく環境によさそう、かっこよさそう。そんな第一印象のバイオガス・ダイジェスター。
簡単に説明すると、家畜の糞尿や生ごみなどを嫌気性状態(無酸素状態)において発酵させ、その過程で発生するバイオガスをエネルギー源・熱源として使う、その施設がダイジェスター(digester)。
そのうちmono-digesterとは、家畜の糞尿100%で発酵させる施設。co-digesterとは、家畜の糞尿を、その重量が5割以上の割合で、植物性もしくは動物性の材料と合わせて発酵させる施設。(定義は異なることがあるが、今回はこのレポートを参考にした)
2017年の報告によると、オランダには110ほどのバイオガス・ダイジェスターがあり、うち5つがmono-digester、80が運転中だ。残りの30が運転停止中である主な理由は、農業分野におけるバイオガス発電にとって不利な現状。エネルギー価格全般が下がっているうえに、バイオガス・ダイジェスターの投入物の価格が上がっているらしい。
家畜の糞尿処理・生ごみ問題やエネルギー問題の解決策として注目されているバイオガス・ダイジェスター。オランダを代表する酪農協同組合も、設置を支援している。しかし、つい最近のドキュメンタリーによると、ブラックな側面もあるようだ。今回の記事では、「ブラック」をテーマに技術的・市場的・政治的観点から、オランダのバイオガス・ダイジェスター事情についてまとめてみた。
何が起こっているか曖昧、ブラックボックス
嫌気的発酵では、空気(酸素)を必要としない微生物の働きによって有機物が分解されるが、この代謝を行う微生物は多種多様らしい。
ある研究は、バイオガス・ダイジェスターの中での微生物の働きは複雑かつ多様であるため、「ブラックボックス」のようだと述べている。ある施設を調べたところ、124科・137属の種類の微生物が検出されたそうだ。施設内の場所によっても多様性が異なる。しかし全体で見ると、種類に関わらず同じような代謝活動が行われていた。(メキシコでの研究であるため、オランダには必ずしも当てはまるわけではないかもしれない)
なんでも吸い込まれていく、ブラックホール
バイオガス・ダイジェスターがオランダで普及した理由の一つに、あふれる家畜の糞尿の処理・有効活用がある(オランダの家畜の糞尿問題については以前の記事を参考にしていただきたい)。
しかし糞尿はスラリー(家畜のふんと尿、敷きわらなどの混合物のうち 水分が87%以上のもの - 定義はこのサイトより)として集められるため、水分がほとんど。これだけではエネルギー変換効率が悪い。実際に、ある文献によると、 生ごみ1トンからは150Nm3のバイオガスが発生するのに対して、乳牛排泄物1トンからは15~30Nm3しか発生しないらしい。
そこで、冒頭の統計にもあったように、糞尿100%のダイジェスターは一握りで、残りの施設では生ごみ等別の資材も使われている。Co-digestionに使ってよい資材は肥料法の施行に関しての規定の、附則AaのリストGに、155ほど列挙されている。通称「Gリスト」うち半分は環境に与える影響に関する検査済みだが、もう半分は未検査で、検査依頼があった時に環境安全性を証明できればいいらしい。
以下のように、Gリストでの資材の定義はとても細かい。
G1 植物性のもの
1.ジャガイモの加工中に得られ、主にジャガイモ(Solanumtuberosum. L.)とジャガイモの残留物からなり、包装材料を含まない残留物。 (ジャガイモの残り物)。
2.食品用の野菜や果物の切断、洗浄、漂白中に得られる残留物(野菜や果物のくず)。
3.ヒマワリ(Helianthus annuus L.)の種子の処理から得られ、選別された種子からなる残留物。
...
50.ジャガイモを食品用のフライに製造する際に得られる残留物で、フライドポテトの残留物(揚げたジャガイモ)で構成されるもの。
...G2 動物性のもの
...
7.ジャガイモの加工中に得られる残留物で、主にジャガイモ(Solanumtuberosum. L.)とジャガイモの残留物で構成され、包装材料は含まない。 動物性脂肪が存在する可能性がある(動物性脂肪を含むジャガイモの残留物)
...G3 その他
(廃食用油や漂白土)※ジャガイモ好きだなーと思った方、そう、オランダ人はジャガイモを沢山食べます。もっと知りたい方は以前書いたこちらの記事をぜひ。
ここまでは法律で認められている資材だ。
しかしそれでは終わらない。ドキュメンタリーで行われた聞き取り調査によると、資材には価格が高騰しているものもあること、法律で認められていないものでも嫌気発酵ができ、その方が安い場合もあることなどを受け、不法投棄の場になったダイジェスター施設も存在するとか。医療廃棄物やその他廃棄が高額なものを安く処分したい団体と、安く資材を手に入れようとしているダイジェスター施設のニーズがかちりと当てはまった。
なんでも吸い込むバイオガス・ダイジェスターの姿は、まるでブラックホールのようだ。
しかし光さえも外に逃げることができないブラックホールと違うのは、バイオガス・ダイジェスターからはメタンガスに加えて副産物「消化液」が出てくるということ。消化液は主に液肥として畑にまかれる。家畜の糞尿や生ごみ等を発酵させてできたものなら、良い堆肥になりそうだ。でも忘れてはならないのは、それ以外のゴミもダイジェスターに吸い込まれているということ。
そうしたら残りかすにはもれなく、不法投棄物由来の成分が含まれる。特に重金属は問題視されている(もっとも、重金属など有害物質の原因は不法投棄物には限られないが)。
ちなみに、オランダ食品消費者製品安全庁(NVWA)による、バイオガス・ダイジェスター施設の監査レポートを見つけたが、2018年には7件の施設を監査し、うち1件で違反が見つかったそうだ。その場合は罰金やそもそも監査数が少ない!と思ったら、このレポートの結論で「監査が行われたのは産業部門のほんの一部で結論を出すことはできない」と書かれているのを見つけた。
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政府も平然と支援するブラックマーケット
このような問題があるバイオガス・ダイジェスターだが、政府は補助金などで支援をしている。
2003年に補助金制度ができたのち、オランダでこの産業部門が成長した。2010年から13年までの補助金交付額は年間平均で5.5~6千万ユーロ(日本円で70-80億。1EUR=130JPY)。利益団体の活動により、2017年には小規模のmono-digesterに予約済み入札が行われ、1.5億ユーロ(200億円弱)が当てられた。2019年からは、mono-digesterとco-digesterの線引きがあいまいになったため、区別・特別扱いはなくなったようだが。
再生可能エネルギー導入支援制度について補足説明をしておこう。オランダには、持続可能なエネルギー生産に対して、「Stimulering duurzame energieproductie en klimaattransitie」(通称SDE++、直訳すると「再生可能エネルギー生産及び気候転換インセンティブ制度」)という入札制度があり、バイオガスもその対象である。詳しくはレポート(日本語)を見つけたので参考にしてほしい。
なぜオランダ政府はバイオガス・ダイジェスターを推進しているのか。それは、国が掲げる方針の複数に貢献する、という考えがあるからだろう。
まず、オランダは国として家畜の糞尿に頭を悩ませている。単純に、狭い国土に家畜が居すぎるのだ。家畜を育てて輸出した後にも、糞尿はオランダ国内に残るため、オランダは世界のトイレだと言っても過言ではないだろう。糞尿に含まれる窒素が過剰に環境に放出され、問題となっているのだ。
また、オランダ政府は温室効果ガスの排出量に関して、1990年の水準と比べ、2030年までに49%削減、2050年には95%削減という目標を掲げている。さらにエネルギーに関しては、有限資源である化石燃料から再生可能エネルギーに方向転換し、かつエネルギー生産・消費による温室効果ガスの排出も抑えるという方針である。
バイオガス・ダイジェスターは、これらの目標にどれだけ貢献できているのだろうか。
家畜の糞尿の3%がバイオガス・ダイジェスターによって処理された(参考)。また、co-digestionはオランダのエネルギー消費量の0.2%を占め、そのおかげでエネルギー生産からの温室効果ガス排出量がCO2相当量で0.21%減少したそうだ(参考)。まだまだ効果は限られているようである。
ブラック・ホワイトがはっきりしないから難しい
もちろん、ブラックな施設だけではない。
世界最大の酪農共同組合で、世界トップ5に入る酪農企業でもあるフリースランド・カンピーナ(FrieslandCampina)は、組合員が自分の敷地に施設を整備し、糞尿を処理することを進めるプロジェクトJumpstartを2016年に開始した。もともとは整備資金の提供を行っていたが(つまり組合員が購入)、あまりにも初期投資額が高く参入障壁となっていたため、設備のレンタルも可能になった。
組合員の発電量を計測するサイトまで用意されている。フリースランド・カンピーナが軸にしている3つの再生可能エネルギーは、太陽光・風力・そしてバイオガスだ。天気にもよるが、バイオガスは発電量の4分の1から3分の1を占めている。酪農家にとって重要な施設となりつつあるのかもしれない。
しかし課題は残る。
家畜の穀物消費量が多すぎると問題視され、牛の消化吸収・代謝効率をよくしようと品種改良がおこなわれている。しかし食べる量が少なくなると、糞に含まれるエネルギー量が減る。するとそこから発生するバイオガスの量も少なくなる。
また、動物福祉の観点から規制・需要が高まっている放牧だが、放牧地に散らばった糞尿は、牛舎内のように集めることができず、ダイジェスターに投入される量が限られてしまう(参考)。すると無駄な収容力ができる上に、投入物が施設内にとどまる時間が短くなり、メタン発生が最大化されない。
このような挑戦がありながらも、バイオガス・ダイジェスターの可能性を信じて、技術開発や市場開拓に励む人々・団体がいるわけだ。
臭いものには蓋をする、そんな一面もあるオランダのバイオガス・ダイジェスター部門。いや、ことわざだけではなく本当に臭いを嗅ぎたくはないけれども(というか、蓋を開けたら嫌気発酵ではなくなってしまうな)、政策や支援制度、糞尿問題・気候問題が変化していく中、これからどう発展していくかは目の付け所であろう。



