◼︎久々に『Toquio』の文字を見た

 3月20日、日本国政府、東京都、オリンピック組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)と国際パラリンピック委員会(IPC)から、東京オリンピック開催期間中の外国人受け入れを禁止(選手、関係者除く)するとの発表があった。

 この発表から5日後、25日には福島から聖火が出発し、日本全国を周る聖火リレーがスタートした。

これらを受け、ブラジルでも久々に東京オリンピック関連のニュースが流れ、TV、ネットや誌面にて「Toquio」の文字を見る事ができた。

これまで、Covid-19関連の日本のニュースが流れる事はあっても、オリンピックのニュースが流れる事は無く、ここにきてやっと話題に上がってきたという感である。

これらの発表についてのコメンテーターや、各分野の方々のコメントは、概ね3つのグループに分かれていた。

①外国人の受け入れ断念、観客制限について

・とても悲しい判断

・自国民の応援がない、空席がある状況での開催は選手のモチベーションに影響が出るだろう

・もはやこんなものはオリンピックとは呼べない

・全く何もないよりはTVがあるだけでもまだマシである

・日本開催で良かった、ブラジルであれば無観客であれ開催すらできていないだろう

変わった意見としては、日本開催で良かったという事だ。

ブラジルから見ると、日本のCovid-19対策、対応は素晴らしく管理されている様に感じているのだ。

累計30万人の死者数を出ているブラジル。

人口がそれほど変わらないにも関わらず、9,000人以下の死者数で収まっている日本の状況に対して、驚きと尊敬の念を持っている。

②開催は延期するべきである

・この時期の開催は無理がある

・誰もが平等に参加できる様になるまで待つべき

・何故日本はそこまで開催にこだわるのか、開催しなければいけない理由があるのか

③実力だけでなく、運任せの大会になる

・いつ誰がどこで感染するかも分からない

・大会直前、期間中に陽性になった場合、それまでの苦労が一瞬で水の泡になる

・本当の実力での勝負だけでなく、そこにギャンブル的要素が入ってくる

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◼︎オリンピックに余り良いイメージのないブラジル人

 2020年に開催予定だった『東京オリンピック』

その4年前の2016年のオリンピックは、ここブラジル・リオ市(リオ・デ・ジャネイロ州)で開催された。

『リオデジャネイロオリンピック2016』である

その2年前の2014年には、サッカー界が誇るスポーツ世界最大の大会、『ブラジルワールドカップ』も開催されていた。

ブラジルは短期間の間に、世界中から人々が集まるイベントを2回も行い、開催を成功させたのである。

これはブラジルスポーツ界にとっては誇るべき事であった。

そこには大きなプロジェクトが組まれ、国民もこれらのイベントを契機に、ブラジルが世界有数の大国になる事を期待していた。

オリンピックには開催前、開催中、開催後とそれぞれ色々な役割がある。

期待やワクワク感、これから始まる祭典を、関係者や国民がまるで学校の文化祭を作っているかの様に、今か今かと待つ開催前の期間。

次に非現実的な時間となる開催中の期間。

1試合、1試合、試合結果によって無数のストーリーが生まれ、観客は歓喜しそこに酔いしれる。

そして、大会の余韻に浸りながらも、現実に戻った後の日常生活の中で、オリンピック開催による開催地、関係者への恩恵を如実に感じる事になる開催後の期間。

特に開催後については、開催中の様な一過性のモノではなく、その後何年、何十年と影響を感じる事になる。

『リオデジャネイロオリンピック』でいえば、デング熱やボート会場の水質問題、インフラ整備の遅れなどすったもんだがあり、史上初めてオリンピックが開催に間に合わないのではとも揶揄されたが、何とか開催には漕ぎつけた。

期間中は国中を挙げてのお祭りであった。

ニューヒーローも次々と生まれた。

代表的な選手として、女子柔道のハファエラ・シウバ選手の名前を挙げるブラジル人も多いだろう。

リオのファベーラ(貧民街)で生まれ育ちではあるが、NGOが運営する柔道の道場に入門。

そこでめきめきと頭角を現し、遂に母国開催のオリンピックで金メダルを獲得。経済的に恵まれない家庭環境出身者という事もあり、まさにシンデレラガールとなり、同じ境遇の子供達や若者に夢と希望を与えた。

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(Rafaela Silva選手 Olympics-YouTube)

『リオデジャネイロオリンピック』を語る上で外せないのが、パラリンピックの大成功であろう。

オリンピックの高額なチケットを購入できない層が、オリンピックよりも割安なチケットで入手可能なパラリンピックに多く流れた。お祭り好き、盛り上げ上手なブラジル人気質と重なり、スタンドは常に満員で応援歌が歌われ、史上最高の盛り上がりを見せたパラリンピックと称された。

こうして迎えた祭典の終焉。

誰もが成功の余韻に浸り、今後のブラジルの未来は明るいと感じていた。

だが、残念ながらオリンピック前に発表されていた各施設や団体のレガシープランは、殆ど形になって残す事が出来なかった。

各施設を民間事業者が買い取って運営する事になったが、購入後、経営破綻で殆どの企業が倒産。

施設自体は再び売りに出される事になったのが、手を挙げる企業がなかった。

そうした中、市や州、国も施設を買い上げる予算がなく、運営費もままならないまま放置されたままの施設、団体が無数に出てしまった。

経営悪化により倒産の原因を、オリンピックの開催による経済悪化と発表した企業が多くいた。

冷静に経済状況を分析すれば、既にオリンピック前に悪化しているのだが、同じように考える人がブラジルに多くいるのは事実である。

それに加え、リオ・オリンピックの招致に大きく貢献し、大会組織委員会会長を務めたカルロス・ヌズマン氏が、2017 年10月、大会招致に際して国際オリンピック委員会理事の買収に関与した容疑でブラジル連邦警察に逮捕された。

実は、ブラジルサッカー協会会長であり、2014年サッカーW杯ブラジル大会の組織委員会会長を兼務したジョゼ・マリア・マリン氏も2015年5月、収賄とマネーロンダリングの容疑でアメリカ連邦捜査局によって逮捕されている。

これらが重なり、ブラジル人にとって大きなイベントの後ろにある政治家や要職を務める人物とお金に対しての嫌悪感がある。

その為、今回のこの世界中がパンデミックとなっている状況での日本の開催固辞の裏には、既得権益があるのだと考えるブラジル人が多いのも事実である。

大成功から一転して、レガシー未達成、経済状況の悪化、関係者の汚職、賄賂...。

オリンピックという大会をブラジル人が毛嫌いする原因をお判り頂けるだろう。

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◼︎レガシープラン達成の重要性

「スポーツに政治を持ち込むな」という誰しも一度は聞いた事があるフレーズがある。

その通りだと思う。

ただし、スポーツの試合や練習にという狭義の意味である。

スポーツイベントの開催、特にオリンピックやワールドカップといった世界的なイベントと政治を混同しないで考える事は不可能である。

思い切り持ち込んで良いし、むしろそれがないと成り立たないと個人的には考えている。

ブラジル人はオリンピックのせいで国が貧しくなっていると感じているので、オリンピックの開催に負のイメージを持つ人が多い。(オリンピック自体が嫌いな訳ではない。)

しかし、仮に汚職や賄賂があったとしても、国の経済状況がオリンピックを契機に良くなっていたら、負のイメージはなかったかもしれない。

世界有数の先進国、インフラが整った経済大国になっていたとして、開催の恩恵を多大に受けていたとしら...。

それでもオリンピックに負のイメージを持つだろうか。

大会の開催前、開催中の時間は有限である。いつかは終わる。

しかし開催後の時間はこれからずっと続いていく、ほぼ無限の時間である。

つまりオリンピック後の開催国の状態は、そのオリンピックの開催の成否を決める大きな要因になるのではないだろうか。

そういう考え方からすると『リオデジャネイロオリンピック』は全てではないにせよ失敗の要素が強いと言わざるを得ない。

リオデジャネイロオリンピック・レガシープランの説明

これらがほぼ実現されていないのである。

一方で日本の方はどうだろう。

俗にレガシープランという考え方はずっとあった訳ではなく、ロンドンオリンピック(2010年)頃から始まったと言われている。

前回64年の東京大会にはレガシープランという言葉はなかっただろうが、レガシーと呼べる物は沢山残った。

首都高速や選手村、東海道新幹線やスタジアム、スポーツ財団など、今も機能し日本のスポーツ界や社会の土台となっているものが沢山ある。

まさにオリンピックのお陰である。

これらがあるからこそ、日本人はオリンピックに好意的で、再び2020年にオリンピックを開催しようという動きになったのではないだろうか。

そう考えると、現状から今回のオリンピックのレガシープランがどの程度達成可能なのかに興味が湧く。

『東京オリンピック2020』のレガシープランは大きく8つのテーマに分かれている。

①競技施設や選手村のレガシーを都民の貴重な財産として未来に引き継ぎます

②大会を機に、スポーツが日常生活にとけ込み、 誰もがいきいきと豊かに暮らせる東京を実現します

③都民とともに大会を創りあげ、かけがえのない感動と 記憶を残します

④大会を文化の祭典としても成功させ、 世界をリードする文化都市東京を実現します

⑤オリンピック・パラリンピック教育を通じた人材育成と、多様性を尊重する共生社会づくりを進めます

⑥環境に配慮した持続可能な大会を通じて、豊かな都市環境を次世代に引き継いでいきます

⑦大会による経済効果を最大限に生かし、東京、そして日本の経済を活性化させます

⑧被災地との絆を次代に引き継ぎ、 大会を通じて世界の人々に感謝を伝えます

これらを元に具体的なプランが練られている。

これに対し、現状を思いつくままに挙げてみよう。

・Covid-19の感染拡大、変異ウイルスの発生

・2020年開催から2021年への開催延期

・開催期間の外国人受け入れ禁止

・有観客の上限規制

・大多数での集まりの禁止

・完全にコントロールする事ができないギャンブル的な選手の体調管理

・開催を見合わせる国も出る予想

・経済的マイナスが出る事が既に確定している

・東京と地方の移動の規制

ざっと挙げただけだが、どちらかというと達成に向けてのデメリット面の方が揃っている。

この状況で一体幾つのレガシーを達成する事ができるのだろうか。

基本的に人と人、地域の交流や世界への発信をベースに練られているプランが多い。

その中で観光客の受け入れ制限、ボラティアの制限、人数・移動制限等は大きなマイナス要因である。

レガシー達成の為にオリンピックの開催是非を語るのは勿論スポーツ的にはナンセンスだろう。

しかし、政治的には大いに関係がある内容である。

正式決定が覆る事はあるのか、状況が変わっても開催を押し通すのか...。

誰もが納得する答えを出すのは難しいだろうが、今だけの事で考えるのではなく、今後の日本の事を考えて決断して欲しいと願うばかりである...。

(了)