ブラジルの朝は美味しいコーヒーと美味しいパンからはじまる。
街中で暮らす人は、ほぼ毎朝のように近所のパン屋で焼きたてのパンを買ったり、その場で食べたりしてから仕事や学校に向かう。
パン屋に入る時、生温い空気と香ばしい匂いを感じると私は心の中でガッツポーズをしてしまう。
なぜなら焼きたてが買えるからだ!
オーブンから出されたばかりの温かいパンを食べることが人生にこんなにも楽しみを与えてくれるとは思ってもいなかった。
そんな幸せを与えてくれるパン職人を称える"パン職人の日"が7月8日にあったのだが、あまり話題にならず、私も今になって初めて知った。
パン職人の日はかつてブラジルを支配していたポルトガルで女王の座についたイザベルの逸話に基づいて決められたそうだ。
ポルトガルで国民が貧しい生活を送っていた時期、イザベルは王に内緒で国民にパンを配っていた。
ある日、いつも通りパンを配ろうとしているところを王に見つかってしまう。持っていたパンを急いでドレスの中に隠すと、まるで魔法のようにパンが薔薇に変わったため、国民は「奇跡だ!」と称えた。
せっかくなので、パン職人たちへ感謝の気持ちを込めて、ブラジルのパンとパン屋について紹介したい。
|パンがブラジルに伝わるまで
パンの起源は今から7000~8000年前の古代メソポタミアで小麦粉と水で作られたものと言われてきたが、現在、研究者たちは1万4000年前にヨルダンで平らく円形のピタのようなものが発見されたと発表している。
私たちが普段食べているようなパンが作られるようになったのは、古代エジプトでパン生地を発酵させるようになったのが始まりだそうだ。
その後、古代エジプトから古代ギリシャへと伝わり、ヨーロッパにおいてパンは非常に重要な食料となった。
パンがブラジルに伝わったのはポルトガル植民地時代の19世紀。
本国ポルトガルからパンの作り方が伝わり、ブラジルでも作られるようになった。当時、小麦粉は輸入されていたため、港から離れた内陸部では貴重だったそうだ。
その後、ブラジルでも一般的に食べられるようになったパンは、ガスオーブンや電気オーブンの発明と共にそのレシピも多様化していった。
今では食卓に欠かせないものとなり、1人あたり年間33kgのパンを消費すると言われている(33kgは日本の食パン約97斤分にあたる)。
|ブラジルで最も消費されているパンは?
ブラジルでパンと言えばパン・フランセース*だろう。
和訳するとフランスパンだが、私たち日本人が想像するフランスパンとは異なる。
大きさは男性のこぶしより少し大きいぐらいで、ふっくらと黄金色に焼けており、外はカリっと、中はふわっとしていて非常に軽い。
材料は小麦粉、水、塩と酵母のみだが、隠し味に少量の砂糖は植物性油を加えるパン職人もいるそうだ。美味しいパン・フランセースがあるお店にお客が集中する。
ブラジル人のパン・フランセースへのこだわりは強く、2013年には色、食感、見た目、香りや味、弾力性などの規定が設けられており、それをクリアしていなければパン・フランセースと呼んではならない。
朝食だけでなく、間食、夕食としても食べられるため、1年に約170万個のパン・フランセースが消費され、パン屋の売り上げの半分近くを占める。
*パン・フランセースは地域によってはパンジーニョ、パン・ジ・サウなど呼び方が異なる
|パン・フランセースの食べ方
最も有名なのは、ナイフでパンの横から切れ目を入れて開き、バターを塗って焼いたシンプルな食べ方だろう。
パン屋なら鉄板、自宅ならフライパンで作る。上にオレガノをふっても美味しい。
また、ブラジルを旅行した日本人がみな大絶賛するのはミスト・ケンチと呼ばれるパン・ナ・シャーパにハムとチーズが入ったものである。ブラジルのモッツァレラチーズは濃厚で弾力があり、分厚いハムとの相性が非常に良い。
サラダや卵を挟んだり、肉や魚のペーストとも合う。輪切りにしてスープの付け合わせにしても良い。
|パンだけじゃない!なんでも揃う大型パン屋
このようにブラジル人の日常生活に欠かせない街角のパン屋では、パンの他にケーキやお菓子なども販売されている。
特に大型パン屋では日用品も幅広く取り扱われており、ミニ・スーパーマーケットのようだ。
もちろん店内飲食も可能。パンやスイーツだけでなく、コーヒー、フレッシュジュース、サンドイッチ、ピザ、夜になるとスープも用意される。
写真と共にご紹介しよう。
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小腹が減ったらサウガードと呼ばれるスナックたちが丁度良い。コシ―ニャと呼ばれるブラジル風コロッケや揚げ餃子のようなパステル、アラブから伝わった挽き肉の団子キビも美味しい。(photo by Aika Shimada)
|地域に密着したお店の魅力
現在、ブラジルには約7万3000店のパン屋があり、約250万人が勤務している。
住宅街なら徒歩圏内にパン屋が少なくとも一軒はあるだろう。
近所に美味しいパン屋があることは、物件探しの際に重要な条件の一つになるかもしれない。
毎朝6時に開店し、大型店はだいたい夜22時まで営業。都市部に至っては24時間営業のパン屋も存在する。
クリスマスや元旦は営業時間の短縮があるが、基本的には年中無休。毎日、あるいは週に何度も通うので、店員さんと仲良くなって世間話をすることもある。
パン屋は地域の雇用と産業を支え、地元の人々が自然と顔を合わせる場のような役割も果たしている。
また、工場で大量生産されるものより、お店で作られる商品に愛情を感じるのは言うまでもない。
ブラジルにコンビニエンスストアがなくても不便を感じないのは、美味しいパン屋のおかげだと私は思う。
今日も美味しいパンが食べられることに感謝したい。
もしいつの日かブラジルを離れることになったら間違いなくパン屋が恋しくなるだろう。










