ブラジルの首都はブラジリアであるが、経済の中心は南米最大の都市サンパウロである。
その名の通り、サンパウロ市内で暮らすのは東京の都心で暮らすようなものだが、せわしない中にもブラジルの良いところがつまっていて(もちろん悪いところも)、この街をとても気に入っている。

これまでの記事で何度も書いているが、国のトップである大統領がワクチン接種に反対だということはご存じだろうか。
大統領の息子で上院議員のフラビオ氏は「父はこの国で一番最後にワクチンを接種するブラジル人となるでしょう。」と、未だに接種するつもりがない様子をインタビューで話している。
一方で、南米最大都市の底力を発揮させるべくワクチン接種に燃えているのはサンパウロ州知事のドリア氏だ。

|サンパウロ州のワクチン接種システム

ブラジルに関するコロナウイルスのニュースは悲劇的なものが取り上げられるばかりだが、私的にこのサンパウロ州のワクチン接種は良いニュースとしてもっと取り上げられてほしいと思う。
以下、サンパウロ州のワクチン接種についてまとめてみた。

・年齢別にスケジュールが事前に発表されている(市町村によって異なる)
・職業別の優先接種(医療/教育/公共交通機関従事者など)
・基礎疾患のある人への優先接種
・路上生活者への優先接種
・スマホやパソコンを利用しサイトにて事前予約できる(郵送による接種券など無し)
・ドライブスルー接種ができる(予約必要なし)
・会場にてワクチンが余った場合、その場にいる希望者は接種できる(希望者の中から年齢や職業を考慮し順番を決める)
・国籍は問わない
・無料

ちなみに、年齢別のスケジュールはここ数ヶ月常に前倒しされており、サンパウロ市内では8月初旬に25歳以上の居住者が接種できる予定だ。
また、オフィシャルサイトが非常にわかりやすく整理されているのには驚いた。
サイトにアクセスすると一目で州内の接種率とこれまでの合計接種回数を見ることができる。

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サンパウロ州政府の公式サイト(2021/07/26時点での画面キャプチャ)

7月26日時点で一回目の接種を終えた州内18歳以上人口の割合が75.04パーセント、二回目の接種(一回の接種で済むワクチンも含む)を終えた州内全人口の割合は20.44パーセント。
仮予約をするページには、接種会場にて食品や生活品等の寄付の受付をしていることも掲載。
こういった配慮や明確な情報共有に、個人的には「やるじゃん!サンパウロ!」と言いたい。
このようにサンパウロ州のワクチン接種は順調にも思えるが、とある一つの問題が浮上している。

|中国開発ワクチンコロナバックは"はずれくじ"なのか

サンパウロ州で取り扱っているワクチンはコロナバックとアストラゼネカ、もしくはファイザー、ヤンセンで、接種者はワクチンメーカーを選ぶことはできず、会場にて接種直前に知らされる。
生産国への偏見(主に中国)や変異株への効用、副作用などを理由にワクチン選びをする人たちが増え始めており、これに対して、いくつかの市町村では当日会場にてワクチンのメーカーを理由に接種拒否した場合、年齢別接種スケジュールの一番最後まで接種権利なしとすると発表した。

私の友人の半数以上はコロナバックを接種している。
日本では馴染みのないコロナバック(表記はCoronavac、現地ではコロナヴァーキという発音に近い)とは、中国のシノバックが開発した不活化ワクチンで、サンパウロ市のブタンタン研究所でも製造。ネット上ではドリア州知事の推しであることから"ドリアのワクチン"とも呼ばれている。
コロナバックは副作用が少ないが感染に対する有効率は約50%程度と言われており、「コロナバックの副作用はコロナに感染すること」なんて厳しい冗談を言う人もいるぐらいだ。
しかし、コロナバックは重症化を防ぐことができ、死亡に関しては100%近い有効率があると言われている。
問題は一回の接種だけでは殆ど効用がない事と、高齢者への有効率が下がること、そして何より感染に関して他社のワクチンより"劣っている"と思われることだ。

|ワクチンメーカーによって渡航に影響あり?

ただしワクチンを選びたいという理由は、個人的な事情だけではない。
"コロナバックの有効性を認めない国に入国できない"といったニュースが発表され、出張や旅行を待ちわびている一部の人々から懸念の声があがっている。
ブラジルと日本を飛行機で往復する際にどこかしらの国を経由しなければならない我々日本人にとって、今の状況で飛行機に乗ることは既にリスキーなのに、また頭が痛くなる問題が一つ増えてしまった。

私もコロナバックのワクチンを接種した。
一時帰国を考えると頭が痛いが、ここまで感染せずに無事に接種できて良かったと思いたい。
あとは感染防止率の高いワクチンを接種した人たちと共に、集団免疫を獲得する時がくるのを祈るしかない。

余談かもしれないが、ワクチン接種をする際にメーカーの希望があるかどうかブラジル人の友人約100人に聞いてみた所、

希望無し 89%
もし選べるならば選びたい 11%

となった。理由は様々だが、あくまでも内輪の統計なので参考程度に見てほしい。

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|ワクチン接種と共にSNS拡散されるハッシュタグたち

このサンパウロ州のワクチン接種だが、実はもう一つのストーリーがある。
ドリア州知事はボウソナロ氏と犬猿の仲であり、特にこのワクチン騒動では両方の関係は悪化。
そんなドリア氏は次期大統領選挙に立候補するだろうと言われており、このワクチン接種でのリーダーシップを国民に見せつけたいのだろうとも言われている。

接種時の様子や、接種後に受け取るかっこいいサンパウロ州オリジナルの接種カードを手にセルフィー写真をFacebookやInstagramなどにアップする人たちは、#vivaosus(ブラジルの医療システムへの敬意)や、#forabolsonaroというボウソナロ大統領の辞任を求めるハッシュタグをつけている。最近このハッシュタグはエスカレートし、#foragenocidaと、大統領を大量虐殺を命じた人と表すものも使われている。
ハッシュタグだけでなく、プラカードやTシャツなどを使用し自分なりの方法でメッセージを伝えており、こういった訴えはSNS上だけには留まらない。実際、今月もパウリスタ大通りで大規模なデモ行進が行われている。

そんな中、鼻息の荒いドリア氏は7月15日に自身のTwitterにて再びコロナに感染したことを発表。(最初の感染はワクチン接種前で陽性無症状) 症状は軽く自宅にて公務を続けることにし、コロナバックを打ったから重症にならなくて済んでいることをしっかりアピールした。

ドリア氏の頑張りも認めてあげたいところだが、反ボウソナロの多くは労働者党のルーラに投票するするのではと予想されており、いずれにせよ来年の大統領選でボウソナロ氏の再選は厳しそうだ。

|なぜ私はワニになったのか?

最後に、なぜ私が半分ワニになったのか。その経緯をお話ししたい。
2020年12月17日にボウソナロ大統領は、 「ファイザーの契約書に『もし副作用で何かあっても責任は負いません』と書かれている。もし接種後にワニになったとしても(ワクチンとは)関係ないといっているんだ。」 と発言した。
これは国民の反感を買うと共に、ブラジルならではのインターネットミームとして話題に。

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ブラジルのサイト、#MUSEUdeMEMES(ミーム美術館)に掲載されたワクチンとワニに関するミームたち(画像キャプチャ)

それ以降、「ワニになる」はワクチンに反対する大統領にむけた風刺的フレーズとなった。
私は一回目の接種をしたので、半分だけワニになったというわけだ。

こんな風にブラジルのワクチン接種の裏側には政治的な背景も関係している。
果たしてボウソナロ氏は息子の予言通り一番最後にワクチン接種するブラジル人となるのだろうか。

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サン・ジョゼ・ドス・カンポスの教師、Eliana Ariceはワニの衣装で第一回目のワクチン接種を受けた。「衣装を着たのは抗議ではなく、全ての人に早くワクチンが接種できるように訴えるためです。」(photo by G1)