今月14日に突如として発表されたアラブ首長国連邦(UAE)・イスラエルによる和平協定の締結合意の報は、中東情勢に多大な影響を与えている。私の暮らすバーレーンもその例外ではない。8月25日には、中東・北アフリカ(MENA)を歴訪中のアメリカのポンペオ国務長官がバーレーンに到着、翌日の会談では同国に対しイスラエルとの和平協定を促したものとみられる。

イスラエルとアラブ諸国の和平合意についてここで個人的な賛否を述べるつもりはないが、少なくともバーレーン在住者の立場として言えば、ポンペオ氏のバーレーン訪問は非常にタイミングが悪い。というのも、今月29日と30日にはシーア派の宗教行事「アーシューラー」が控えており、ここにきて反政府勢力と当局との緊張が高まっているためである。

そもそも、反政府勢力のシーア派住民はバーレーンと対立関係にあるイランの影響を大きく受けている。アメリカによるアラブ諸国とイスラエルとの和平仲介の動きは、まさにそのイランに対する包囲網を強化する目的で行われていると言ってもよい。ペルシャ湾を作戦米軍の第5艦隊の司令部を持つバーレーンのイスラエルとの接近は、ターゲットとなっているイランにとっては非常に都合が悪く、親イランの反政府勢力が、「アーシューラー」を利用した反イスラエルのデモなどを通じて国内を不安定化させる試みに出る可能性は否定できない。日本大使館の21日の情報では、既に「当国反政府勢力は、イスラエルの旗を燃やすなどのデモを行っており、当局との間で緊張が高まって」(※原文ママ)いるとのことだ。

このような国内の治安悪化の危険性をはらむ以上、バーレーン政府が早急にイスラエルとの和平協定の締結に合意するかは不透明だ。ただ、目の前にイランという脅威がある以上、政府として遠く離れたイスラエルとあえて対立するメリットはない。バーレーンは、イラン革命(1979年)の直後から、「革命の輸出」と呼ばれる、イラン新政府による国家転覆の試みの格好のターゲットとなってきた歴史がある。日本ではアラブ諸国といえば反イスラエル、というイメージが強いだろうが、バーレーンに関して言えば、現実的な脅威はイスラエルではなく隣国のイランなのだ。

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それでも、バーレーン政府は、多くのアラブ諸国が伝統的に守ってきた「アラブの大義」(反シオニズム、親パレスチナ)に連帯するため、表立ってイスラエルとの関係をアピールすることはしてこなかった。しかし、UAEが湾岸諸国で初めてイスラエルとの和平合意に至ったことで、バーレーンはイスラエルとの和平に反対する多くの中東諸国やパレスチナ政府と距離を置き、同日中にUAEの姿勢を評価する声明を発表している。

私がバーレーンにいて常々感じていることだが、実は、バーレーンではイスラエルとの和平交渉に賛成する意見は少なくない。ビジネスの場においても、私の知人が勤めるバーレーン企業をはじめ、政府間合意を待たずしてイスラエル企業との契約をすでに締結している企業も出てきている。イスラエルとの交流促進によって中東のハブとしての地位を強化したいUAEにとってはもちろん、産業構造の多角化のためにICTやフィンテックなどの領域を強化したいバーレーンにとっても、IT先進国のイスラエルと協力関係を結ぶことによって得られる国益は計り知れない。

国内の治安を制御しやすいUAEとは違い、反政府勢力によるデモの過激化などの治安悪化のリスクを背負ってまでイスラエルとの関係を強化するかはまだ判明しないが、少なくとも、大統領選を控えるアメリカのトランプ政権は、米国の政権支持者を意識し、アラブ諸国とイスラエルとの和平協定の締結に非常に積極的だ。今回のポンペオ氏の訪問から間もなく、9月上旬にはクシュナー大統領上級顧問もバーレーンで会談をもつ予定で、イスラエルとの和平に同意するようアメリカ側が本格的にテコ入れしていることは確実のようだ。今後のバーレーンの動きから目が離せない。