高級和牛の希少部位や、イタリア産白トリュフなどなど、高価で希少なはずの食材が、安売りスーパーやファミレスで手軽な値段で売られていることがあるらしい最近の日本。らしい、というのは、日本のニュースや、日本の友人からの情報を聞いて、目にしているからだ(最近の円安や戦争の影響で、多少、安売りにも影が差しているかもしれないが?)。例えば下の写真は、日本の友人が嬉しそうに送ってくれた、牛の高級部位シャトーブリアンが100g880円で売られていたという写真。

cb68223fbff506ea48f038f2ea3a3b9eaf20859b-thumb-450x573-517765.jpg普通なら100gで1万円近くする牛の超希少部位シャトーブリアンが880円というのは、何か訳があるに違いない(著者友人提供)

白トリュフだってとても高価で、地元ピエモンテに住んでいたって、そう簡単に食べられるものではない。それがファミレスで??そんな常識的にはあり得ない価格や販売形式に疑問を感じていた私は、今年の夏のある日、富松恒臣さんのSNSの投稿を見て、なるほど!と唸った。北イタリアはピエモンテ在住で、日本人で唯一の、ピエモンテ州公認白トリュフハンターである富松さんは、ある朝、嫌悪感にスマホを握る手が震えたのだという。

その画面には「日本で白トリュフ売られています」というメッセージが表示されていたのだそうだ。7月にあるはずのない白トリュフが日本の某レストランで売られていたのだという。

産地偽装の疑い??

2001年、ソムリエの勉強をするためイタリア最高峰のワイン産地の一つ、ピエモンテ州にやってきた富松さんは、ある時、同じピエモンテ州の特産物白トリュフの魅力に取り憑かれ、公認ハンターの資格を取った。公認ハンターというのは、州が実施する試験に合格して与えられるトリュフハンターライセンス保持者のこと。トリュフハンターは、土の中に隠れているトリュフを犬を使って探し、掘り出すことを仕事とする。トリュフがどこにあるのかを探し出すのは簡単な作業ではないし、好き勝手にあちこち掘っていいというものではない。森の生環境などについても熟知して、ライセンスは年に一度更新する。安くないライセンス料も毎年納める。そうしてやっと、採取したトリュフを販売することができるのだ。富松さんは、ハンターになることで得た知識を活用して、株式会社「グレープジュース・プラス」を立ち上げた。現在は代表として、世界へ向けて上質なピエモンテ産白トリュフにこだわってビジネスを続けている。

dc3e59b0d2284352633f943c9411cf306494e9db-thumb-750x500-517735.jpg
名物の手打ちパスタ「タヤリン」に削りかけて食べるのが、ピエモンテ産白トリュフの王道(著者撮影)

そんな富松さんだから、世界各地の仲間からトリュフをめぐる情報が集まってくる。白トリュフの採取が許可される期間は、産地によって多少前後はするものの、イタリアやハンガリーの法律では10月から12月と法律で決められている。それなのに夏に流通しているのはおかしい。誰かが違法に収穫して日本へ売ったか、白トリュフ収穫の歴史が浅く、法整備がまだできていない国のものに違いない。トリュフの人気が世界的に、爆発的に広がっていることの弊害だと富松さんは言う。

=====


そもそもトリュフとは?

トリュフとは、「地下に生息する子嚢菌子実体のことで、主にセイヨウショウロ(Tuber)属の多くの種のうちの1つである」とウィキペディアには書かれているが、簡単に言えば、キノコと同じように胞子を介してある種の木の根に寄生し、地下にできる小さな塊のことだ。それをスライスするなどして料理に添え、その香り、風味を楽しむ。

黒、白、サマートリュフなど、様々な種類がヨーロッパ大陸に約30種類あると言われていて、フランス料理で使われる黒トリュフが有名だが、近年はイタリア産のトリュフにも人気が集まっている。特に白トリュフは生を料理に削りかけて香りを楽しむのが身上で、その香りの素晴らしさは昔から世界のグルメを唸らせてきた。白と言っても、外見はじゃがいもにも似た、うっすらと茶色がかった白で、中はもう少し色の濃いベージュといったところ。北イタリアはピエモンテ州でとれる白トリュフが、特に上質であると世界的に評価が高いが、育成の科学が未だ完全に解明されていないから人工栽培もできない。そして土の中から掘り出したら、1週間から10日ほどで香りは失われ萎んでいってしまうのに、生で食べてこそ真価が発揮されるときている。つまり加熱して寿命を伸ばす作戦は使えないというわけだ。だから旬の時期にしか食べられない希少な存在として、シーズンの10月から12月には、本場のピエモンテ州に世界中からグルメたちが集まってくるのだ。

6F23A3E4-BD02-48F9-8B1F-62576977C5AE-thumb-750x612-517694.jpg
ピエモンテ州アルバで毎年秋に開催される「白トリュフ祭」では、ハンターが自分で採ってきたトリュフを直接販売してくれる(2019年著者撮影)。

高級レストランでのトリュフ尽しのコースから、庶民的なトラットリアで郷土料理と合わせた一皿など、みんながそれぞれに味わって楽しむ。一般的に1キロ3000−4000ユーロ程度が相場と言われるが、薄く削った白トリュフは、一皿分で5~6グラム程度。それで50ユーロ前後の値段が料理代金にプラスされる高級品だ。

目玉焼き&白トリュフ

一方地元の人々は、トリュフを扱う人から直接買うなどして、自宅で味わうという贅沢が許されている。ピエモンテ州に26年暮らす私も、毎年シーズンになると機会を見つけては50g程度の小さな塊を買って、目玉焼きに削りかけて食べる。この時ばかりは目玉焼きは絶対醤油でしょう!派の私も、塩をパラパラっと卵とトリュフの部分にふりかけていただく。卵料理ととても相性がいいと言われているトリュフの、ベストかつシンプルな食べ方だと思う。卵と白トリュフはよくあうから、昔ピエモンテをご案内した吉兆の徳岡料理長は、大きな塊を買って帰られ、嵐山のお店で茶碗蒸しに添えて出されたとか。邪道だと怒られそうだが、私も日本人の友人たちと鍋をした後の卵雑炊に白トリュフをやってみたら、めちゃめちゃ美味しかった。という具合に、50gの小さな塊が1万円越えというのは高価だけれど、目玉焼きなどにたっぷり削りかけて4、5人で楽しめるから、年に一度の許される範囲の贅沢だ。

=====

一方で、白トリュフが出回る前の夏から秋の初めにかけて、サマートリュフや秋トリュフが出回る。前述の富松さんによれば、イタリア国内でも、州によって規則は若干変わり、収穫していい時期も違うというが、基本的にはサマートリュフは5月、6月頃から始まるという。外側が黒くゴツゴツしているが、中は薄茶色や白、グレーなど寄生する木によって変わるという。そして秋トリュフが10月から。サマートリュフと秋トリュフは従兄弟のような存在で、一緒に売られ、11月に終了するそうだ。値段は白トリュフの5分の1程度。それと前後するように、白トリュフのシーズンが始まる。ちなみに同じく晩秋から冬がシーズンの黒トリュフは、白トリュフの3分の1程度の値段が相場と言われ、イタリアならピエモンテではなく中部のマルケ州あたりが名産だという。

306002339_806389554114484_8860029252617572777_n-thumb-750x938-517696.jpg
肉の詰め物入りパスタに、サマートリュフもよく合う(富松さん提供)

どこでもいつでも誰でも、なんでも??

地元の人間、そして世界各地から金に糸目をつけずに駆けつけることのできる一握りの人々の贅沢だった白トリュフが、輸送技術が発達し、情報がグローバルに広がったことで、世界中どこででも食べられるようになった。オーソドックスな食べ方だけでなく、白トリュフ風味の塩、白トリュフオイル、白トリュフハチミツ、果てはトリュフ風味のポテトチップスや、ファミレスのメニューにまで登場し、大枚を払わなくても日本に居ながらにしてトリュフ気分を味わえるようになった。

そんな状況に、富松さんは少し苦々しい思いを抱いている。白トリュフを日本に輸出販売する富松さんだから、人気は大歓迎。だが、季節外れのものや、ピエモンテ産以外、イタリア産以外のモノをピエモンテ産と言って売る業者が横行するのも大きな問題だという。

「ピエモンテでは、白トリュフは9月21日から1月31日の期間に限って収穫していいことになっています。しかも誰もがとっていいわけではなく、州公認のライセンスを持っているトリュフハンターのみに許可されています。どこにトリュフがあるか、どうやって見つけるかを知るだけでなく、トリュフを掘った後の森を元の状態に保全できる知識と能力が問われる。無知な人間が森に入って乱獲すれば、森の生環境は壊れ、トリュフはいつかなくなってしまうからです。さらに販売するときのルールも厳しく決められています」

65946df20979c61e1b8edd17c089d1ca0b18bcf8-thumb-750x554-517692.jpg富松さんのライセンス(著者撮影)

=====

イタリアでは トリュフを販売する際、ハンター免許をもとにロットナンバーと収穫産地を取引書類に記載しな ければならないが、日本での販売には産地表記義務がない。だから偽った産地を勝手に名乗る、そんな業者が後を絶たないというわけだ。ただし産地表記義務のない日本であっても、偽った収穫産地を 表記した場合には商品表示法違反にはなる。

「解禁される期間というのは、つまりその時期が、ピエモンテ産の白トリュフのクオリティが最大限に発揮される、旬を迎える時期だということです。解禁期以前に乱獲をすると、白トリュフの育成量が減ってしまったり、クオリティが下がってしまうのです」

より美味しくするために、夏の白トリュフは収穫しないという法律

富松さん曰く、実は白トリュフは夏と秋の2回、土の中で育ち、熟成期を迎えるのだという。つまり夏にもあるということだ。だが夏に育つトリュフは、取らずに土の中に放置し、育成サイクルを終わらせる(土に還す)べし、取ってはならないとイタリアの法律で決められている。そうすることで地中にトリュフの菌糸が増え、それを食べる小動物によって違う場所に運ばれるなどして、秋に育つトリュフの量もクオリティもより豊かになるからだそうだ。

50ab0263edcfa58b0dff765f66f240987077d2e5-thumb-750x843-517702.jpg
アルバの町のトリュフ専門店のショーウィンドウに神々しく並んでいた白トリュフたち。(2019年著者撮影)

そういうことを知らずに、または知っていても無視して、夏の白トリュフを取ってしまう輩がいる。それを売る輩がいる。そしてそれを買い「当店だけが特別ルートで早く入手しました」と調理する輩がいる。そういう人々のせいで、トリュフの本当の美味しさが味わえないようになり、マーケットが壊されていくんです、と富松さんは憤る。

「毎年世界中で日本だけなんです、夏に白トリュフが出回るのって。おかしくないですか?? 食材に対してもお客さまに対してもリスペクトがないんです」。

=====

本当の持続可能性という意味

富松さんのこの言葉は、常々私が疑問に感じていた疑問にヒットした。誰もが、何でも、大量に食べられるようにと、食材の本来の姿や性質を無視して生産量を増やす。例えば肉であれば自然の状態でゆっくり育てていては時間がかかりすぎる(つまり価格が高くなる、利益が薄くなる)。だから、成長促進剤や抗生物質を家畜に投与し、不自然な形でもっと早く、もっと大きく、と飼育する。トリュフであれば、本来土の中で起きるはずの育成サイクルを無視して乱獲してしまう。お客様のご要望に応えてといいながら、実はビジネス、利益ばかりが重視され、最終的には消費者の健康は損なわれ、食材そのものも生産地も枯渇してしまうということだ。クオリティも下がるから、なんだ、たいしたことないな、とそっぽを向かれてしまう。

11d295d5f863b5e875fbc3ee3e7e3b9672082be7.jpg
"カルド"という特産の野菜にフォンデュソースをかけ、白トリュフを添えた一皿。チーズもトリュフととても相性がいい。(2017年著者撮影)


持続可能性という言葉が当たり前に使われるようになって久しいが、一つの食材を、一つの文化を、100年前も100年先も同じように慈しみ、大切に味わっていくこと、味わえる状態を維持すること。それが持続可能性の本当の意味ではないだろうか。私たちが自分勝手な消費者である限り、自分勝手な商業至上主義者である限り、その言葉は虚しい流行語として消え去ってしまう。「安い!」「こんなものが日本で!!」と飛びつく前に、一呼吸置いて考えてみたらどうだろう。その食材はなぜ、どのようにしてここへやってきたのかどうかを。