私の住むトリノという街は、ピエモンテ州の州都でイタリア第4番目の都市で、1861年にイタリアが統一された時の最初の首都となった街だ。という話は今回のテーマとは何の関係もなくて、トリノはスキーをして遊ぶのに最高のポジションなのだ、それなのに今年、コロナ禍の影響で、スキーバカンスがピンチ、というのが今回のお話である。

11月29日の朝、起きてみると、スマホのニュースアラートに「スイスのスキー場へ行ってみた」というイタリア語の記事が表示されていた。読んでみると、今現在、イタリア、フランス、ドイツのヨーロッパアルプスを頂く国ではスキー場を閉鎖しているのに、スイスだけ抜け駆け(?)してオープンしているから、スイスの国境に接しているロンバルディア州から車でスキーに行ってみた、という記事だ。

それは聞き捨てならない。今、多くのイタリア人たちが、この冬休みにスキーへ行けるのかどうか、とても心配しているからだ。コロナウイルスの感染拡大で11月6日からイタリアの一部、ピエモンテ州やロンバルディア州でロックダウンが始まった。懸命に感染対策をした結果、随分感染状況は落ち着いてきた。ロックダウンなどの規制措置は12月3日には解除になりそうという予想がされてはいるものの、国境を越えるのはもちろん、州間の移動の禁止はまだ続くから、スキーバカンスはもうしばらくお預け、というのが現在有力な予想だ。11月27日のANSA通信の報道でも「スキー場がオープンするのはクリスマスあとのことになる、という政府の見解」とある。

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「コロナで経済打撃を受けて、毎日の食事にも事欠く状況の人がたくさんいるのに、スキーバカンスだなんて、いいご身分だこと」と思うことなかれ。スキー場がオープンしなくて困るのは「行きたい人」たちもそうだけど、「来て欲しい人たち」にとって重大で深刻な問題だからだ。

イタリアはピエモンテ、ヴァッレ・ダオスタ、ロンバルディア、ヴェネト、フリウリ=ヴェネチア・ジューリア、そしてトレンティーノ=アルト・アディジェという北部6州が、ヨーロッパアルプスに接していて、スキー文化はとても盛んである。今回のテーマは「スイスに行けばスキーができるのか?」「コロナ禍で国境を越えてスキーに行けるのか?」という話なので、中部のアペニン山脈の話はちょっとおいておく。それで、スキー文化が盛んな北イタリアでスキー場のオープンが禁止されているから、話は深刻だというわけだ。スキー場を抱えるたくさんの市町村で、リフト券などスキー場そのものの収入に加え、宿泊施設、レストラン、ショッピング関連施設が莫大な損害を抱えることになりそうだからだ。ロイター通信によれば、イタリアのスキー場の年間収入は110億ユーロ(約1兆3700億円)だというから、今シーズン一番の書き入れ時のクリスマスから年末年始に営業できないとなったら、その約4割を失うということだ。

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ドロミテ渓谷の麓、北東部最大級のスキー場、マドンナ・ディ・カンピリオ。こんな行列ができては、やっぱりダメかも? (写真:i stock/Mrkit99)

しかもコロナ禍は、昨シーズンの途中から始まっている。私も、2月後半のカーニバル休暇でスキー旅行中に、コロナで娘の高校が閉鎖になる、というニュースが飛び込んで来て驚いたのを思い出す。つまり昨シーズンの半分ぐらいは、すでに被害を被っているということだ。

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例の記事では、ミラノから車で4時間、スイス国境を越えてツェルマットの街へ入るまで、全くコントロールはなかったという。

ツェルマットの街から登山電車に乗ってゲレンデに到着すると、そこからゴンドラに乗ってヨーロッパ最高地点にある「マッターホルン・グラチャーレ・パラディーゾ」3883mに到着する。そこからまっすぐに滑り下りればイタリア(だけど禁止)、右へ降りて行けばスイス、という憧れのコースだ。

ちなみにマッターホルンというのは英語名で、イタリア語ではチェルビーノ。世界的に有名な、あの左にちょっと折れ曲がった山頂の美しい姿はスイス側から見た姿で、イタリア側から見た姿はちょっと不恰好だ。山男たちはA面、B面なんて言ってるらしい。イタリア側からは不恰好だから当然B面だ。でもイタリア側の麓の村、チェルビーニャからはマッターホルンがすぐ目の前に迫ってものすごい迫力であるのに対して、ツェルマットの村からは遠くにその美しい姿を眺める感じだ。

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イタリア・チェルビーニャの街中からみるマッターホルン。ちょっとカッコ悪いB面だが、迫力は満点。(写真:著者撮影)

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マッターホルンはB面だけど、イタリア側ではこんな間近を滑ることができる。(写真:著者撮影)

私の住むトリノからは、ほぼ真北に120キロほど行けば、そのマッターホルンの足元でスキーができる。100キロ西へ行けばピエモンテとフランスの国境沿いにスキー場があちこちにあり、そこが2006年の冬季オリンピック会場になった。そして北西へ150キロ行ったらモンブランがある。ヨーロッパの素敵なところは、イタリア側からゴンドラで上がって行って、スイスへ、フランスへ、滑り降りていくことができる、長い長いコースがあるということだ。朝一で、イタリア側のゴンドラに乗って頂上へ着き、反対側の国へ滑り降りたらランチをして、もう一度山頂へ上がって帰って来れば1日が終わる。そんなダイナミックさと、本物のアルプスという贅沢な眺めが最高に気持ちいい。スキースキーと書いているけれど、スノボももちろん盛んになっている。

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こちらはA面、スイス側から見たマッターホルン。さすがに美しい。(写真:2017年7月著者撮影)
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                    イタリア側でスキーをすると、おいしいイタリアンがお手頃価格で食べられる
                    という嬉しさ付き。スイス側だととても高く、お味も?(写真:著者撮影)

イタリア、フランス、ドイツは、アルプスでつながっているので、統一を図るためにみんなで禁止に同意しているが、オーストリアはそれに反対、そしてスイスは営業をしているという今回の話。だけどイタリア人がスイスに行ってスキーができたとしても、お金を落とすのはスイスになってイタリアは潤わない。それってどうなんだろう?