アニヤ・ハインドマーチは、バッグを中心に、遊び心あふれるポップなデザインで人気の英国人デザイナーだ。日本語のウェブサイトがあるくらいなので日本でも知られていると思うけれど、ご存じない方は、たとえば最新作が紹介されたこのページをぜひどうぞ。正統派のバッグに混じって、ニコニコマーク(スマイリー・フェイス)とか、お菓子や缶詰のパッケージのデザインが目にとまると思う。その割にはハイブランド並みな価格設定にも驚くかもしれない。手軽にいくつも持てるものではないとしても、わたしは楽しいアニヤ製品のファンだ。

 彼女は環境問題に関心の高いデザイナーとしても知られている。2007年に発表した「I'm NOT A Plastic Bag(プラスチックじゃないよ)」という布製のエコバッグは世界中で話題を呼び、多くのセレブが持ち歩いたので類似品さえ出回った。

 最近のアニヤは、ペットボトルや自動車のフロントガラスなどを再生した素材の「I AM A Plastic Bag(プラスチックでできてるよ)」シリーズや、スーパーやデパート9社とコラボしたエコバッグ、「ユニバーサル・バッグ」を発売している。買いもの用の大きなユニバーサル・バッグは、再生素材を使っているとはいえ、手が届きにくい値段のアニヤのバッグが10ポンド(約1800円)で手に入るということで人気が高く、1人2つまでと制限されてもなかなか入手できない。わたしもこの秋発売の分は店頭で見ることさえできなかった。

アニヤ・ハインドマーチのインスタグラム投稿より、国内スーパーとのコラボで今年8月9月と立て続けに発売されたユニバーサル・バッグ(青がテスコ、オレンジがモリソンズ)。ユニバーサル・バッグはすべて同じ目玉のデザインで、それぞれの店のイメージカラーが使われている。国内だけでなく、香港や日本(麻布ナショナル)の店とのコラボバッグもある。くたびれて使えなくなったら、裏返して内ポケットに収納して、アニヤ宛にポストに投函すれば再生してくれるそうだ

 そのアニヤが、今年9月から日本の伊東屋とコラボしたポップアップ・ショップをロンドンで展開している。伊東屋は東京の銀座に本店がある老舗文房具店だ。文房具といっても、学用品やオフィス用品から、カレンダー、手帳、ペン、画材などを幅広く扱っていて、凝ったデザインのものや輸入品も多い。

 アニヤは東京に到着するとまずここに向かうというほど伊東屋のファンだそうで、昨年には を記念して、東京の伊東屋でポップアップ・ショップを開き、今回はロンドンでのコラボとなった。

 伊東屋はわたしも大好きだ。子どもの頃から文房具好きの父と一緒にせっせと通って、きれいなシールや外国製の変わったペンを眺めていたせいか、大人になってからも店の前が素通りできず、これまでずいぶんお世話になっている。

 アニヤも伊東屋も好きなわたしとしては、この二つがコラボしたショップを見に行かないわけにはいかなかった。

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 伊東屋とのコラボショップ、伊東屋 X Anya Hindmarchは、2年前にアニヤがオープンしたザ・ヴィレッジの一角にある。ザ・ヴィレッジはテーマ別のアニヤのショップ5軒とカフェが集まったアニヤの世界だ。市内でも高級住宅に囲まれたチェルシー地区にあって、高級デパートのハロッズやハーヴェイ・ニコルスも近い。そんな街なかにヴィレッジ(村)なんて、という違和感があるかもしれないけれど、のどかなヴィレッジは英国人にとって「居心地のいい場所」の代名詞だ。

 伊東屋 X Anya Hindmarchは、ザ・ヴィレッジの中のポップアップ用スペース、ヴィレッジ・ホールに入っている。ポップアップとはいえ、外部の店を招くのはザ・ヴィレッジでも初めてのことだ。

アニヤ・ハインドマーチのインスタグラム投稿より、伊東屋 X Anya Hindmarchの様子。ロンドンの空に高々と掲げられた伊東屋のトレードマークのクリップがまぶしい。買い物をすると日本の伊東屋と同じ袋に入れてくれていたようだ。わたしが行った時にはすでに期間後半だったせいか、もうなかったけれど。人気だったのね。よかった。

 日本が世界に誇れるものは数々あるけれど、文房具もその一つではないかと思っている。小さなものでも壊れず丈夫で、デザインは細やかでユーモアもある。さらにはキャラクター商品を含めて種類が本当に豊富だ。

 最近では英国でも、凝った手帳やデザインものの文房具がずいぶん増えたけれど、以前はうらめしい思いもした。短期留学をした30年前、記念にロンドンでペンケースを買おうとずいぶん探したものの、種類が少なくて選択の余地がなく、必要に迫られて好みではないものを渋々買った。17年前に引っ越してきた時には、マンスリー表示とウィークリー表示の両方が入った、シンプルに思える手帳さえ見つからず、日本の3倍ぐらいの値段を出して日本製の手帳を買うことになった(探し方が悪かったのかな)。どちらもよく覚えているのは、ロンドンならすてきなものがあるはずという思い込みが覆されてショックだったからだと思う。

 日本はおもしろグッズや便利グッズにも定評がある。これまでわたしがプレゼントした中で一番受けたのは、小さな車の横についた取手のようなものを回すと、中でブラシがぐるぐる回って消しゴムのカスを集めるというものだ。小学生だった夫の孫に渡したら、「さすが日本製!」と、周りの大人の方が夢中になっていた。

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伊東屋のポップアップ・ショップの向かい側にあるアニヤ・カフェ。店の前には大きな桜の木も植わっていて、都心にあるのどかなヴィレッジという雰囲気が演出されている。ニコニコマークや例の目玉がデザインされたケーキやビスケットは見ているだけて楽しくなるうえ、お味もなかなかのものだ。かわいらしい食べもののオンパレードになるアフタヌーンティーは、オープン当初なかなか予約が取れなかったけれど、今はだいぶ落ち着いてきた。筆者撮影

 だから、アニヤと伊東屋のコラボショップにも、日本ならではの配慮ある文房具やおもしろグッズが並んでいるのものだと思いこんでいた。けれど、その場に行ってみると、想像と少し違っていた。もちろん、アニヤが作った楽しい文房具とともに、和紙のシールやマスキングテープ、ノート、動物や乗り物や寿司をかたどったカラフルな消しゴム、東京タワーや浅草寺のペーパークラフト、水引で飾られた祝儀袋、折り紙などが棚いっぱいに置かれていた。でも何より店内に溢れかえっていたのは、アニヤの「伊東屋愛」だった。

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 1904年創業当時の明治時代を意識した店構え、シンプルで機能的なディスプレイ、あちこちに掲げられた伊東屋の文字やトレードマークのクリップなどで、アニヤが見た伊東屋が表現されていた。創業以来の白黒写真がビデオになって流れる店内は、ちょっとしたアートギャラリーのようでもあった。欧米のワーキングスタイルに刺激を受けた創業者が日本でも西洋風の文房具を販売しようと店を始めたことも、ロンドンでアニヤに教えてもらうことになった。

 アニヤのウェブサイトには、「整頓された文房具の世界が好き」「伊東屋のクリエイティビティーに刺激を受ける」と書かれている。彼女は文房具が好きなだけでなく、伊東屋にいるだけでわくわくするのかな。和紙や画材の機能的な収納やディスプレイも好きなのかもしれない。そういえばアニヤ・ハインドマーチのバッグはポケットが多く、それぞれに「コイン」とか「スマホ」なんて書き添えられているし、旅行用のポーチも中が細かく分かれている。アニヤは整理整頓も好きに違いない。

アニヤ・ハインドマーチのインスタグラム投稿より、小物が細かく整理できるポーチを紹介する動画。凝ったデザインでしょう? ものの置き場所を決めるのは整理整頓の鉄則とは聞くけれど、こんなポーチがあれば、ずぼらなわたしでもスッキリ暮らせるかも、と淡い期待を抱いてしまう。

 ポップアップ・ショップでは、どのお客さんも手に取ったものを笑顔で眺めていて、日本人としてちょっと誇らしく、文房具好きとしては初めて見る文房具を楽しむ姿が嬉しかった。この店では漫画や書道のワークショップも開かれたようだし、これがきっかけで、日本の文房具や文化に興味を持つロンドナーが増えたらますます嬉しい。

 店員さんの話では、このポップアップ・ショップには伊東屋の社長も日本から見にいらしたそうだ。明治時代に西洋の文房具を持ち込んだ日本の伊東屋と、その伊東屋に魅せられて発信する英国のアニヤ・ハインドマーチは、この先もともに何か新しい刺激を生み出していくかもしれない。

 このポップアップ・ショップは10月15日まで。その後は同じ場所でクリスマスをテーマにしたポップアップを展開する予定だ。

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最後にわたしのアニヤのトートコレクションをお披露目させてください。緑のユニバーサル・バッグはウェイトローズというスーパーのもの。12キロまで入って10年は持つという頑丈なもので、一つあればじゅうぶんなのに、新しく出るとつい欲しくなるのがファンというものだ。そしてもうひとつは真ん中に置いた紅茶のパッケージをそのままデザインに使ったトート。サンプルセールで見つけた友人が「あなた絶対好きでしょ」と太っ腹にもプレゼントしてくれた。大好きですとも! ヨークシャーティーは実際に家で飲んでいることだし、友人はヨークシャー出身の夫のことも頭にあったようだ。このバッグで出かけると人の視線にも気づくし、実際に話しかけられることもある。筆者撮影