カタールで連日熱いドラマが繰り広げられているサッカーW杯2022。英国でも初日からほとんどの試合がテレビ中継されて、盛り上がっている。わたしにとってはサッカーに興味を持ってから初めて迎えたW杯なので、初心者レベルながら日本とイングランドを応援しつつ楽しんでいた。日本では観戦時間が深夜や早朝になるようだけれど、カタールとの時差が3時間の英国ではたいていの試合のキックオフは午後1時から夜7時の間になるので、観戦しやすくてありがたい。
昼間の試合だと仕事中で中継が観られないのでは? と考えるところだけれど、英国のファンたちは問題なく観戦しているようだ。コロナ禍以降、家で仕事する人が増えたので時間が自由になることもあるし、もし職場にいたとしてもオフィスでしっかりテレビを観ていたりする。イングランドの初戦だったイランとの試合開始は英国時間で11月21日午後1時で、観戦者が少なくてパブへの経済効果も薄いと予想されていたけれど、ふたを開けてみるとパブ観戦は大盛況。後でその動画を見た選手たちが「でも平日の昼間だったよね?」と驚いていたほどだ。
学校でさえ、「勉強より大切なことがある」と、授業時間にテレビ観戦させるところが多いようだ。勉強よりサッカーが大事というわけではなくて、W杯の応援を体験することが大切という意味だと思う(実際問題、気になって授業に集中できない生徒も多そうだ)。それほどサッカーはこの国の社会・文化と深く結びついているのだなと驚く。
ただ、初めて冬の時期に開催された今大会では、いつもほどサッカーのデコレーションを街で見ない気がする。それはたぶん、すでにクリスマスの飾りがあるから。国旗や関連グッズもクリスマス商品のおかげで隅に押しやられていて目立たないし、サッカー中継を流すパブでさえ、中央にでんとクリスマスツリーが置かれている。光熱費の高騰などで暮らしが厳しい中、サッカーから経済的恩恵を受ける業種以外では、どこもクリスマス商戦の方が大切なのかもしれない。

今大会には英国からはイングランドとウェールズが出場した。特にウェールズはなんと64年ぶりの本大会出場で地元は大いに盛り上がった。ややこしいことにどちらのチームも同じグループBに入ったので、グループリーグの最後にはウェールズとイングランドが対戦することになったけれど、その試合でもイングランドに敗れたウェールズは結局、決勝トーナメントに進むことはできなかった。
英国の残る希望はイングランドだった。プレミアリーグでプレーするスター選手が勢揃いしているのに、W杯での優勝は1966年の一度だけ。当時のことは、故エリザベス女王が優勝杯を授ける白黒写真とともに何度も振り返って語られ、もう半世紀以上も「夢よ、もう一度」と熱く期待され続けている。
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スター選手たちが活躍する中、今回特に注目されたのは19歳のジュード・ベリンガム(ボルシア・ドルトムント所属)だ。17歳の時にEURO2020(2021年に開催)に史上最年少で代表に選ばれた期待の星だ。教えてもらったところでは、「攻守の切り替えがものすごく速い」ということのようだ。確かに試合を観ているとピッチのどこにでも彼の姿があって、エネルギーと勢いに満ちて見える。キャプテンのハリー・ケインは「彼に弱みはない」とまで言い切っていた。
Massive win. Into the quarters we go!!! pic.twitter.com/xdz401BhKz
-- Jude Bellingham (@BellinghamJude) December 4, 2022
同じくEURO2020からイングランド代表に加わったブカヨ・サカ(アーセナルFC所属)も弱冠21歳。決勝でペナルティーキックを外して号泣していた姿が目に焼き付いていたけれど、今大会ではそれを跳ね返す大活躍を見せてくれた。昨年のEUROでは不安そうな少年の面影が残っていたベリンガムとサカが、今大会ではどちらも自信に満ちたいい表情になっているのが印象的だ。
それからマーカス・ラッシュフォード(マンチェスター・ユナイテッド所属)。このブログを見てくださっている方にはおなじみのわたしの推しだけれど、決してひいき目ではなく、彼の活躍も大きく取り上げられた。この2年ほどはケガや監督との軋轢(という噂)が重なって不調が心配されていたものの、初戦のイランとの試合の後半に控えから登場し、ピッチに入ってたった49秒後にゴールを決めた! やっぱりスターじゃありませんか!! 勢いづいたマーカスは3試合目のウェールズ戦でも2点を入れた。不調の間は浮かない顔ばかり見ていたので、ファンとしてはマーカスが笑っていたことが何より嬉しい。彼が活躍した試合中には、友人からわたしに「ラッシュフォード!」「さすがスターだね!」というメッセージがたくさん入ってきて鼻が高かった(ふふふ)。
少し変わったことで注目を浴びたのが、最初の3試合で3得点して大活躍だったラヒーム・スターリング(チェルシーFC所属)だ。決勝トーナメントに進出した直後に「家庭の事情で」帰国したのは、家に空き巣が入ったからと発表されたのだ。カタールに行った留守を狙っての犯行だとしたら悪質で腹が立ってしまう。犯人はイングランド人ではないかもしれないけれど、スターリングは国を代表してプレーしているのに! 彼が欠場したセネガルとの試合にはイングランドが勝ったからよかったものの、これで負けていたら騒ぎになったかもしれない。幸いスターリングはその次のフランス戦には無事に戻ることができた。精神的なダメージがあまりありませんように。
選手にまつわるちょっといい話もあった。得点した選手は、よく芝生にスライディングしたりダンスしたりして喜びを表現する。今大会、対イラン戦でジャック・グリーリッシュ(マンチェスター・シティ所属)がゴール後に披露したのは、両腕を広げてうねうねさせる不思議なダンスだった。見慣れない動きに注目が集まって、これは12歳のフィンリーくんとの約束を守ったものだったことが報じられた。
グリーリッシュ自身の妹さんと同じ脳性麻痺があるフィンリーくんは、地元でサッカーを楽しんでいる。それを知ったグーリッシュはW杯の1か月ほど前にフィンリーくんを訪ねていた。その時に「次にゴールしたらミミズ(worm)をやって」とフィンリーくんに頼まれて、それがたまたまW杯の試合にあたったのだ。このダンスのおかげで一躍有名人になったフィンリーくんは、「覚えていてくれると思わなかった!」と大喜び。こういうエピソードはスポーツ選手にはよくあるものだけれど、フィンリーくんと話すグリーリッシュからは温かさがにじんでいて、ほのぼのする。
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移民の多いこの国では、応援するチームが世界のあちこちに分かれるのもおもしろい。12月6日、モロッコがスペインを破る歴史的な勝利を収めた後には、ロンドンでもアラブ系の人が多いエッジウェア・ロード周辺や街なかのピカデリー・サーカスに大勢集まって、クラクションを鳴らす車やバイクをしたがえてパレードしたり、歌ったり、花火をあげたりと大騒ぎだった。サッカーの結果を知らないまま、たまたま仕事帰りにエッジウェア・ロードを通った夫は、暴動でも起きたのか、それにしてはみんな嬉しそう、と不思議に思ったそうだ。このにぎやかなお祝いは、準々決勝でモロッコがポルトガルに勝った夜にも巻き起こった。
日本がスペインを破って決勝トーナメントに勝ち進んだ日、ロンドンでは午後7時キックオフという観戦にぴったりの時間帯だったのに、わたしは夕食の約束をしてしまっていた。でも、訪れた和食の店では日本人らしき板前さんがカウンターの向こうから控えめに、「スペインに1点入りました」「日本も入れました」と結果を知らせ続けてくれた。テレビやラジオからではなく、シブい板前さんがそっと教えてくれるというのが、なんだかよかった。勝利の瞬間は店内が拍手でいっぱいになり、叫び声も上がった。日本人と思われる客は実はわたしひとり。周りのやさしさが嬉しかった。店内にやはりひとりスペインの女性がいたけれど、それほどサッカーに思い入れがないようで(あったらテレビを観てるはず)、「あら残念。でも日本よかったね」と温かく拍手してくれた。
去年のEUROに続いて、試合を観ながら友人とのメッセージ合戦も楽しい。ふだんはサッカーの話なんてしない友人からも「日本、すごいね!」「惜しかったねぇ! いい試合だったね」とメッセージが来ていた。W杯になるとサッカーを観る人が増えるのはロンドンも同じ、かな。サッカーの話をしていると、「選手交代が遅かった!」「横にパスしてないで前に進め!」と自宅監督たちが好き勝手に語るのを聞くのもおもしろい。イングランド最後の試合になったセネガル戦はご近所の友人カップルと観た時に、試合前の国歌斉唱でふたりがさっと立ち上がって一緒に歌い出したのも驚いた。ひとりはイングランド人だけれど、パートナーはパキスタンの人だ。どちらもイングランドを応援していたからのようだ。その横で、わが家のイングランド人の夫はぼんやり座っていたけれど。
12月10日、イングランドは準々決勝でフランスに2対1で惜しくも敗れて、W杯の舞台から去った。試合だけでなく、イングランド代表のキャンプの様子を毎日のようにSNSで追って、休養日にプールで遊んだり、ゲームをしてふざけあったりする選手たちをずっと見てきたので、とても寂しい。
今大会の5試合のうち、イングランド代表が受けたイエローカードは最終日の1枚だけだった。そういうフェアなプレーも大好きなのだ(初心者向きかも)。実は試合中ずっと、フランスのファールを見逃しすぎなのでは? と思っていたのだけど、これは「アドバンテージをとる」というのだと教えてもらった。それにしてもレフリーの判断に疑問が残るという報道もわりに多い。優勝候補のひとつであるフランス相手に善戦して、いいところまで行っただけに、レフリーが公平だったら勝てたかもしれないのに、とつい思ってしまうのかな(本当に惜しかったんです!)。でも、そういうこともあるのがサッカー、とも教えてもらった。サッカーについて知るべきことはまだずいぶんあるようだ。
今大会のイングランド代表チームは、選手のほとんどが20代という若いチームだ。4年後にまた出場する選手も多いだろう。まだW杯は終わったわけではないけれど、選手に続いての報道陣もカタールを引き上げ、英国ではW杯のお祭りはいったん終わった雰囲気になっている。わたしにとって初めてのW杯も、ここで大きな区切りになった。選手のみなさん、どうもありがとう。4年後、待ってるよ!
'Lion hearts broken' - what the Sunday papers say after England's World Cup exit https://t.co/glVvhI8hxP
-- The Guardian (@guardian) December 11, 2022