ロシアのウクライナ侵攻に世界中が心を痛めている。ウクライナへの寄付や支援、反戦デモ、ロシアへの経済制裁やロシア製品のボイコットなどが起きているのは英国も日本と同じだ。ただ、地つづきでないとはいえ、同じヨーロッパで起きていることを日々感じている。

ウクライナ問題は、英国では2月半ばからコロナの話題をおしのけて連日トップで伝えられ、ヨーロッパやNATO加盟国との話し合いも頻繁に続いて緊張が高まっていた。攻撃開始から2週間経った今も、主なニュースの8割くらいはウクライナ関連で、ロシア国内、ウクライナからの避難先の周辺国、NATO会議、欧州議会の様子も詳しい中継が入る。

3月8日にはウクライナのゼレンスキー大統領が英国議会でオンライン演説も行った。議会に大歓迎された大統領は、スピーチ後に大きな拍手とスタンディングオベーションで支持された。

BBCポリティックスのツイートから、ゼレンスキー大統領の演説のダイジェスト。後半では、議会には多くの議員が集まって、席がぎゅうぎゅう詰めになっているのがわかる。大統領の演説にはシェイクスピアやウィンストン・チャーチルの言葉が引用された。

救援物資をライトバンに詰め込んで、ウクライナや避難民が集まる周辺の国に運び込む話を見聞きする時にも、地理的な近さを実感する。物資のリスト(薬、おむつ、毛布、スマホの充電器など)や収集場所の情報はわたしのところにも毎日のように回ってきていた。金銭の寄付もずいぶん増えているけれど、小さな団体や個人で物資を運ぶ活動は今も続いている。3月8日の時点ですでに200万人がウクライナを離れているので、すぐに必要なものもあるだろう。荷造りや運転をするボランティアたちは口々に、「体を動かさずにはいられない、何かしなくてはいられない」と話す。

この何かしたい気持ちは、特に男性の場合、戦いへの参加にもつながる。祖国を守るために英国から去っていくウクライナ人男性のことがよく報じられ、中には自分の意思で戦いに志願する英国人もいる(英国は軍隊をウクライナに派遣していない)。英国やアメリカなどから集まった元兵士たちが現地や周辺に到着しているそうだ。

紛争のたびにこういうがあると聞いてはいたものの、そういう人たちは特に正義感が強かったり、戦うことが好きだったりする特別な人だと思っていた。けれど先日、わが家のフラット(集合住宅)の中年の管理人さんの口からその話が出たので、驚いてしまった。明るくて親切で評判のいい彼は世間話の途中で、「小さな子どもがいなかったら、絶対に志願していた。許せん!」と涙を流さんばかりに語り始めたのだ。ふだん穏やかな彼の、どこにそんな熱さが隠れていたんだろう。行かれないとわかっていて、ただそう話しているだけかもしれないけれど、もどかしい気持ちと怒りはじゅうぶん伝わってきた。

ちなみに、今は英国民のウクライナ行き自体が禁止されているので、個人で戦いに加わることは許可されない。実行すると、英国に戻ってから事情を聞かれたりするらしい(ウクライナで今、パスポートにスタンプを押しているとは思えないけれど)。当初、外務大臣が「英国人志願兵を支持する」と発言したので混乱があったものの、今は政府や軍も、「気持ちはよくわかるが、個人行動は避けて、支援をしたければ寄付をしたり、英国軍に入隊したりしてほしい」と呼びかけている。

ロンドン市長サディク・カーンさんのインスタグラム投稿から、ウクライナカラーに染まるロンドンの夜。国とはまた別に、ロンドン市長も早くからウクライナ支持を示した。

ロシアへの経済制裁の結果、石油、ガス、小麦などの価格高騰が予想されるのも日本と同じだ。ガソリンはもうすでにスタンドで見かけるたびに値上がりしていて、3月10日の平均価格は史上最高の1ポンド60ペンス(約240円)。経済制裁の一環として、政府は今年の終わりまでにロシアからの原油輸入をすべて停止するので、値上がりはますます加速しそうだ。

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それでなくともこの国では、世界的なエネルギー価格高騰の影響で去年から生活費の高騰が大きな問題になっていた。今年1月までの12か月間の価格上昇率は5.5%で、これからも上がる見込み。去年秋からガスの供給会社がもう何社も破産していて(ガス会社が倒産って初めて聞いた!)、フードバンクに登録する家庭も増え、(ガスを使った)暖房代の節約方法がテレビや雑誌で紹介されている。ウクライナ侵攻で、状況はさらに厳しくなりそうだ。

ちなみにわが家が今月払う電気・ガス代は、これまでの月額66ポンド(約9,900円)から89ポンド(約13,350円)に上がった。フラットでの2人暮らしなので金額は大きくないけれど、割合にすると34%になる。ガス代は4月に50%、秋にも30%上がると聞くので、今からちょっと身構えてしまう。

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黄色い花が咲き始めると、英国も春の始まり。中でもラッパスイセンは春をいち早く告げてくれる嬉しい花だ。筆者撮影

衝撃的な映像は見過ぎない方がいいとわかっているつもりだった。東関東大震災の時にそう学んだつもりだったのに、毎日あまりに信じられないことが起きるので、つい新聞やテレビを見てしまって、やっぱり心が重くなる。それでも、ウクライナ情勢での熱のこもった報道に感激もしている。

主に見ている国営放送BBCでは、わたしが把握しているだけで男女合わせて7人の記者や特派員がウクライナ各地から詳しい様子を伝えている(侵攻が長引くにつれて、入れ替わったりもしている)。避難民がなだれ込む周辺国にも多くの記者が送られ、定時ニュースのメインキャスターまでがウクライナ入りして、現地からの司会で番組を進めている。

ウクライナ入りした最初のキャスターのクライヴ・マイリーさんは、初めこそ軽装で放送していたけれど、そのうち「報道」と書かれた防弾チョッキを着てカメラに映るようになった。背景にサイレンが聞こえたこともあり、人が眠るマットレスが置かれた地下シェルターから生々しく放送した日もあった。彼を見ているだけで状況が悪化していくのがわかってひやひやしたけれど、番組の途中からヘルメットをかぶって中継を続けた時にも動じず、いつもどおりに番組を続けた彼のプロ意識は高く評価された。わたしは見逃してしまったけれど、首都キーウの惨状を伝えながら涙を流したこともあったそうで、もともと人気があった彼は、誠実な人情派としてますます評判が上がっている。

BBCジャーナリストのクリスチャン・フレイザーさん(最初に左に映る男性)のツイッター投稿より。戦地から報道する意味について聞かれたクライヴ・マイリーさんは、「仕事ですからね」と軽口を交えながら、「デマや噂やプロパガンダが多すぎる。偏っていない正確な情報を伝えたい」と真摯に話している。彼は報道だけが専門ではなく、去年には40年続く人気クイズ番組「マスターマインド」の司会者を引き継いだ人気キャスターで、どことなくユーモラスな口調が好きという声も多い。

各機関の記者たちがSNSなどで、「報道はチームワーク。表に出る記者の前にはカメラや音声の担当者が何人もいるんです」と裏方スタッフを讃える発信を積極的にしていることにも心が和む。記者同士が互いへの尊敬を表す投稿もある。BBCの定時ニュースでは、裏方を含む中継隊を「チーム」と呼んで、放送中にもその言葉を使う。たとえば現地とスタジオを結ぶ時、「わたしとチームからは以上です、スタジオ、どうぞ」「クライヴとチーム、ありがとう」というふうに。これを毎日繰り返すので、視聴者も裏方スタッフの存在を忘れない。強い意志と仲間同士の深い絆を感じて、ぐっときてしまう。

BBC国際報道主任特派員のリース・ドゥーセットさんのツイッター投稿から。「カメラに映らないわたしたちのすばらしいチームです」と撮影隊を紹介している(ご本人は写真には写っていない)。防弾チョッキを着てさわやかに笑う姿が美しい。リースさんは去年の夏にも、武装勢力タリバンの攻撃を受けたアフガニスタンの首都カブールで、ヘルメットをかぶって長く取材をしていた。どんなに厳しい状況でも穏やかに話す彼女の解説は、とてもわかりやすい。全体にBBCの話が多くなってしまったけれど、どの機関の報道にも頭が下がる。移動中に銃撃を受けたスカイニュースのチームは、生々しい映像をそのまま流したのでひやひやしたけれど、戦争とはまさにそういうことなのだろう。

ロシアではSNSもブロックされ、独立の報道サイトにアクセスするだけで逮捕されると言われている。そのロシアに正確な情報を届けようと、各国の報道機関がロシア語サイトを立ち上げたりして努力をしているようだ。英国の例を挙げると、BBCは報道規制が厳しくなったロシア国内で英語での取材を3月8日に再開した上、1日30分のニュース番組(英語)を欧州放送組合55か国に無償で提供している。そして内容をこの侵攻にしぼったTikTokも始めたそうだ(英語ロシア語のアカウントあり)。ロシアでは基本的にSNSは見られないはずだけれど、「TikTokならなんとかして見ようとする人が多いから」と説明されている。TikTokってそんなにすごいんだ! 

またBBCは、ダークウェブTor経由でニュースにアクセスできるミラーサイトも設置している。と言いながら、実はダークウェブというものを今回、初めて知った。接続経路を匿名化して、検閲を受けずにブロックされた情報にアクセスできる方法のようだ。こんな話を聞くと、今起きていることの重大さが感じられて怖くもなるけれど、報道機関の真摯な努力に励まされもする。ロシア語とウクライナ語で読めるミラーサイトへのアクセス方法などは、こちらの説明(英語、ロシア語、ウクライナ語)をどうぞ。

ウクライナに1日も早く穏やかな日々が訪れますように。