12月に入って、街はすっかりクリスマスモードだ。あちこちにきらきらのイルミネーションや華やかなデコレーションが飾られ、どこにいてもクリスマスの音楽が聞こえてくる。イングランドでは今年7月からコロナ関連の規制がほぼ解かれていたので、去年中止になったイベントもずいぶん開かれていて、週末には見物や買い物をする人が歩道からはみでるほど歩いている。コロナさえなければ、今年も終わりが近づいているなとあたたかい気持ちになる季節だ。

 でも残念ながらコロナはまだ終わっていない。英国の感染者数は、自宅でできる無料の簡易テストの検査数が増えていることもあって、秋から1日3万人、4万人という高い数字が続いていた(今年2月のピーク時で約6万人)。わたしの周りでも感染したと聞くことが増えてきた。ワクチンをまだ打てない12歳以下の子どもが学校で感染することが特に多いようだけれど、「いつ自分がなってもおかしくないのかもね」と友人と話している。

 ただワクチンの効果で重症患者はずいぶん減っているので、自宅の療養で済むことが多い。政府は経済を守りたいようだし、このままウィズコロナになっていくのかなあと思っていた。ところが新しいオミクロン株の登場と、ほぼ同時に起きた政府のスキャンダルで、12月に入ってから毎日のように状況が変わり続けた。

 感染力の高いオミクロン株が見つかった11月の終わり、政府は3度めのワクチン接種(ブースター)を急ピッチで進めることで乗り切ろうとした。大量のワクチンを確保して、2回めの注射からブースターまで空ける期間を6か月から3か月に縮めて接種を受けやすくして、40代以上なら誰でも予約できる状態を作った。その後に、公共交通機関や店内でのマスク着用をふたたび義務化したけれど、基本的には「外出やクリスマスパーティーの予定も変えないで、気をつけて日常生活を続けて」と呼びかけていた。政府は再びロックダウン(都市封鎖)はしたくないのだ。

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11月の終わりにわたしがブースターを打った時の待機所。今回は問診も丁寧で会場も整然としていて驚いた。「注射の針が怖くありませんか?」とまで聞いてくれた。今思うと最初の2回の「とにかく打て!」という雰囲気はまるで野戦病院みたいだったなあ。英国のブースターはファイザー製かモデルナ製のどちらかで、わたしは前2回はアストラゼネカ、今回はファイザーだった(種類を混ぜる方が効果が高いそう)。副反応には個人差があるけれど、わたしはほんの少し腕が重くなっただけで済んだので、ご参考まで。筆者撮影

 ところがコロナ感染者が急増して(12月8日の感染者数は5万人超)、同時にコロナ以外の患者への対応も遅れ始めた(極端な例だとは思うけれど、心臓発作を起こしたのに救急車を2時間も待ったという報道も)。そこで政府は12月8日に「プランB」を発表した。プランBというのは、「最初の計画がうまく行かなかった時の代替案」という意味でよく使われる英語の表現だ。プランAのワクチン接種だけで対応しきれなくて予定変更、というわけだ。

 プランBの内容は特に目新しくはない。屋内で人が集まる劇場や映画館でもマスクを着用する(これまではしなくてよかったんです)、可能な人は家で仕事をする、ナイトクラブや大きなスポーツの試合への入場にはワクチン接種か簡易検査の陰性を証明する、などだ。せっかくならもっと厳しくしてもよさそうなものだけれど、経済のためにも日常生活を続けさせたい政府はそうはしなかった。クリスマスに向かう時期というのも関係があるのかもしれない。

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 クリスマスは英国人にとって大切な行事だ。家をにぎやかに飾りつけ、職場や友人の間で集まって楽しく騒ぎ、当日には家族で集まる。何か月も前から楽しみに待つ人もいるくらいだ。家でも外でも飲食するし、もちろんプレゼントも買うので経済効果も大きい。

 去年、ロンドンでは屋内での集まりが禁止されて、いつものようなクリスマスを過ごすことができなかった。一度は特例として宿泊まで認められた後での中止だっただけに、政府やジョンソン首相への恨みはいっそう深くなった。

 散歩友だちのインド人のおばあさんも、去年のクリスマスにひどくがっかりしたひとりだ。久しぶりに大家族で集まる計画を立てていたのに、生まれて間もないひ孫ちゃんに会えなくなってしまったのだ。「誰がどの食べ物を持ってきて、いつ誰がどこに泊まるかもすっかり考えてあったのに、ボリス(ジョンソン首相のことをいろいろな思いを込めてこう呼ぶ人が多いのです)のせいだわ」と、ほぼ1年経った今でも会うたびに愚痴をこぼす。こういう人が全国にずいぶんいるのだろう。クリスマスに会えないまま悲しいお別れになってしまったケースも多いようだ。

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オミクロン株が見つかるまでは、クリスマス時期のレストランはパンデミック前の90%以上の予約が入っていたそう。人気の店はどこも予約が取れなくて、12月の夫の誕生日には5時半から夕食を食べることになった。テラス席にもコートを着た人がたくさん。筆者撮影

 そんなにコロナの感染が広がっているのなら、プランBはしっかり守られるだろうと思いきや、このタイミングで政府のスキャンダルがすっぱ抜かれて、ややこしいことになっている。去年の12月に首相官邸でクリスマスパーティーがあったのでは? という疑惑で大騒ぎになっているのだ(クリスマスパーティーというと妙に陽気に聞こえるけれど、日本風にいうと忘年会のようなものだ)。

 首相官邸の職員はどうしても必要があって通勤していたのだと思うけれど、当時、イングランドでは職場や友人とのクリスマスパーティーを控えるのはもちろん、同居者以外と屋内で会うことさえできず、警察が違反を取り締まっていた。だから、庶民には我慢させておいて、首相官邸の職員はワインで浮かれるなんていい気なものだ、と怒りの声が噴き出したのだ。

 疑惑の発覚からほんの数日後、そのパーティーの話題で冗談を言っていた官邸職員の映像が流出して火に油を注いだ。報道官アレグラ・ストラットン氏が映ったこのビデオは、パーティーがあった証拠にはならないけれど、おどけて笑う彼女の姿にはあまりに緊張感がなくて、クリスマスを楽しめないストレスとはまるでかけ離れた世界。これが国民の気持ちをさかなでして、ばかにされたと怒る人がますます増えた。

 その後も、この報道官が大泣きしながら辞任したり、他にもいくつかパーティーがあったと報じられたり、以前から取り沙汰されていた首相官邸の改装費の資金源疑惑が再浮上したりと毎日何かしらスキャンダルが持ち上がって、まるでテレビドラマでも見ているようだった。そして12月11日にはとうとう、首相自身がパーティーのクイズゲームに参加していたことが発覚。参加したのはオンラインとはいえ、首相がパーティーの存在を知っていたことが明らかになった。パンデミックに激務を続ける職員を労うため、と説明しているけれど、ボリスの両脇に座った職員がサンタの帽子やラメを身につけたのんきな写真まで公開されて、力が抜けた。野党をはじめ保守党内でも批判が高まって、ボリスは大ピンチ。

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 こうしたスキャンダルとコロナに何の関係あるのかというと、怒ったり呆れたりした国民がプランBの規制を守らない可能性があることだ。大して厳しくもないプランBの規制も守られないと、オミクロン株はさらに急拡大するかもしれない。政府への抗議として、ソーシャルディスタンスなし(たぶんマスクもなし)のデモがクリスマスイブに計画されていて、SNSで70万人が参加を表明しているという報道もある。え、70万人!? もしそんなデモが本当にあったら大変だ。

 と思っていた矢先、事態はここでまたまた急展開。このスキャンダルのさなか、英国でオミクロン株が驚くべき速さで拡大していることが指摘されて、12月12日、政府はオミクロン株の緊急事態を宣言したのだ。3回のワクチンで75%の人にコロナの症状が出ないとわかったことから、今月の終わりまでにイングランドの18歳以上へのブースター接種(ただし2回目から3か月経過していることが条件)を提供すると発表した。あと19日で達成するには1日100万本の注射を打つ計算になるそうで、そんなことができるのか、接種会場は大混雑だ、予約サイトはフリーズしているじゃないか、とマスコミや国民の目はスキャンダルからそれ始めた。もちろん調査は続いているものの、ボリスにとっては、これはある意味ラッキーだったのかもしれない(でもわたしは忘れないよ、ずいぶん我慢したんだから)。

ITVニュースのツイートより。ブースター大作戦の発表後、あちこちの会場に長い行列ができていて、7時間待ちなんてこともあるらしい。これはガイズ・アンド・セントトーマス病院の行列の様子。長い。会場の中はまた野戦病院のようになっているかもしれない。

 英国でのオミクロン株感染者は12月13日現在4713人だが、2、3日で倍増すると予想され、重症化しにくいと言われていたオミクロン株でも最初の死者が出ている。1月には英国に大きな感染の波が来るとも言われていて、これから行動が制限される可能性も感じられる。わたしたちは今年も同じ会話を繰り返すことになりそうだ。「クリスマスはどうなるんだろうねぇ」

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かつでパンクファッションの中心地だったカーナビーストリートでは、毎年ファンキーなイルミネーションが楽しめる。今年は華やかなちょうちょ......ですよね? 大きいものはモスラにも見えて、にやにやしてしまった。筆者撮影