11月はたいてい天気がぱっとしない。その上、冬至に向かって暗く寒くなるばかりなので、なんとなく気が重い。でも今年は少し明るく過ごせて気がしている。話題になった24時間チャリティがどれも興味深くて、元気をもらえた気がするからだ。今回は、11月に話題になったその3つのチャリティ活動をご紹介したい。

 最初の2つは、国営放送BBCが主催するチルドレン・イン・ニードに属するイベントだ。チルドレン・イン・ニードは恵まれない子どもたちを支援する慈善団体で、毎年この時期にテレビ番組で募金を呼びかけている。今年の番組は11月19日に放映されて、トップシンガーのエド・シーランをはじめ人気の歌手、タレント、スポーツ選手が出演して、いつも通りにぎやかだった。ドラマやクイズ番組をおもしろおかしくマネしたり、東京オリンピックで活躍した選手を招いておもしろ運動会を開いたりと、子どもたちも楽しめる企画が盛りだくさん。20ポンド(約3000円)寄付すると話題のコンサートチケットが抽選で当たる豪華な特典まであった。番組終了後、11月23日の時点での募金額の合計は4037万ポンド(約5億8500万円)超だった。ものすごい金額!

 チルドレン・イン・ニードは毎年、メインの番組の他に独立したイベントも行っている。11月12日金曜の朝に始まったのがその1つ、ドラマソンだ。え、ドラマソン? 初めて聞く言葉だと思ったら、それもそのはず。24時間ドラムを演奏し続けるイベントのことで、ドラムdrumとマラソンmarathonを合わせてDrumathonなのだ。

 24時間ずっとドラムを叩き続けたのは、北西部でBBC天気予報を担当するオワイン・ウィン・エヴァンスさん。いつもにこにこ明るくて、ちょっと派手めなファッションがキマっている男性で、週末にはロンドンエリアでもたまにお見かけしていた。その彼がドラマソンに挑戦するきっかけになったのは、昨年のこの動画だ。

@owainwynevans

When they said try working from home I didn't realise they'd expect me to do the music too #bbcnews #bbcnewstheme

♬ original sound - OwainWynEvans

オワインさんのTikTok投稿より。オワインさんはウェールズ訛りもチャーミング。天気予報を伝える時のちょっとしたおしゃべりからも穏やかで明るいお人柄がうかがわれて、もともと密かにファンだった。この動画では、ふだんはかわいらしいオアインさんが、演奏を始めたとたんに力強く変貌するのがすてき

 この動画でドラムを叩いているのがオワインさんだ。バックに流れる音楽は、英国では誰でも知っているBBCニュースのテーマ曲。昨年のロックダウン(都市封鎖)では、家でおもしろいことしてSNSに投稿するのがはやったけれど、おなじみの音楽に自分の演奏やダンスを重ねるパターンも多かった。この動画もそのひとつで、昨年4月にSNSでバズって、オワインさんは一躍、時の人となった。

 ドラマソンでは、オワインさんはゲストと話す時も、ラジオに出演する時も、スタジオを移動する時も(移動用のドラムを体につけて!)、とにかく手や足でずっとドラムを叩いていた。ただの落ち着きのない人に見えなくもないのだけれど、それを真面目にやっているところを国営放送が24時間中継していたのだ。なんだかおもしろくて、見逃し配信を含めてなんだかんだ合計8時間ぐらい見てしまった。(ドラマソンの動画は、BBCテレビを見られる環境ならこのリンクから今でも4時間分を見ることができる。ハイライトの動画はこちらの記事から)。

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 途中、熱く語られたオアインさんのドラム愛や彼を応援するドラマー仲間たちの様子がほほえましかったし、ドラムは心理療法として有効というレポートも興味深かったのだけど、いちばんの見どころはやはり曲に合わせたドラム演奏だった。有名無名のドラマーやインドやアフリカのドラム奏者、有名オーケストラとのセッションもあり、中でも再びBBCニュースのテーマ曲を大勢で演奏した場面では胸がいっぱいになった。昨年のロックダウンでの不安を思い出し、あの時より自由な今の喜びをじわじわと感じて。

 ドラマソン終了後、寄付金は300万ポンド(約4億5000万円)を超え、24時間チャリティ募金の最高記録を更新した。BBCの番組だったとはいえ、この大成功はオワインさんの人気がいちばんの理由ではないかとわたしは密かに思っている(わたし自身、彼のお人柄に感激してテレビのチャリティに初めて寄付をしたのだ)。この功績が認められて、オワインさんは今月、「今年最も活躍したタレント」としてテレビ業界の賞も受賞した。

 チルドレン・イン・ニードは今年もう1つ、24時間イベントを開いた。それがダンサソンだ。お察しのとおり、ダンスとマラソンをかけた言葉でDanceathon。ディスコ調のゴキゲンな曲に合わせてシンガーでモデルのソフィー・エリス・ベクスターさんが24時間踊り続けるのだ。ソフィーさんもやはり去年のロックダウンの間に、家で派手な衣装を着て音楽に合わせて楽しそうに歌って踊る「キッチン・ディスコ」を公開して人気者になった人だ。

昨年5月のソフィーさんのYouTube投稿。はつらつと歌って踊るソフィーさんはロックダウン中の英国をぱっと明るくしてくれた。一緒に踊る子どもたちもばっちりポーズを決めていて楽しそう。こんな明るいお母さん、いいな

 ダンスといっても本格的なものではなくて、軽くステップを踏むのが基本で、たまに手をひらひらさせたりターンしたりという程度。それでもずっと走ったり歩いたりしているのと同じなので、24時間続けるとなるとじゅうぶん大変そうだ。11月15日の朝から24時間、ソフィーさんはステップを踏み続けた。お菓子を食べたり、読み上げられる交通情報を聞いたりしながら軽やかに踊る姿は、なんだかのんきでユーモラス。ゴールの前にはソフィーさんの子どもたちも登場してダンスに加わった。無事に終了すると小さな子を抱いたまま、「ちょっとだけこうさせてねー」とちょこんと座り込んでいた。

 ダンスの方がドラムよりも体力的に辛そうに感じるけれど、メインの放送がラジオだったからかなのか(ダンスなのになぜにラジオで?)、こちらの寄付金合計は現在100万ポンド(約1億5000万円)超。それでもじゅうぶんに大きな金額だけれど(ダンスソンの様子はこのリンクから当日のハイライト写真で見ることができる。ソフィーさんのキラキラ衣装にもご注目)。

 3つめのチャリティは、明るく楽しいものとは少し趣が違っている。11月22日、元プロラグビー選手でイングランド代表でもあったケビン・シンフィールドさんが、イングランド北部のレスターからリーズまでの101マイル(約160キロ)を24時間で走り切った。101マイルランと名付けられたこの挑戦も募金の呼びかけが目的だったが、ケビンさんにははっきりした寄付の対象があった。

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 2年前、ケビンさんの元チームメートで、やはりイングランド代表としても活躍したロブ・バロウさんが、運動ニューロン病(MND)と診断されていることを発表した。MNDは体の筋肉がやせてだんだん動かなくなる神経細胞の難病で、まだ治療法が見つかっていない。すでに体が動かないロブさんは車椅子生活を送っていて、話す代わりにコンピュータで音を出して意思を伝えている。ケビンさんはMNDの治療研究への寄付金を集めるために101マイルを走ったのだ。

 ケビンさんは去年、7日で7回のマラソンを走って270万ポンド(約4億500万円)を集めていた。もともと知名度の高い彼がチャリティ活動を成功させたので、今回の101マイルランも早くから注目されて、スタートの時点で募金は目標額を超えてしまっていた。走り終えて1週間経った現在、募金の総額は180万ポンド(約2億7000万円)超に達したけれど、ケビンさんはMNDの治療法が見つかるまで寄付金集めをやめないそうだ(101マイルランの様子はこちらのリンクから)。

BBC のYouTubet投稿より。101マイルランのゴールが生中継された時の様子。最初にケビンさんと一緒に走って(もうヘトヘトなので歩いて)いるのはロブさんの長女のメイシーちゃん。最後の1マイルは、ロブさんの妻のリンゼーさんとメイシーちゃんがケビンさんに伴走した

 友情のために走ったこのチャリティは感動的だった。北の訛りでぽつぽつ話す実直な印象のケビンさんは、地元で人気も信頼もある。当日は夜遅くにも多くの人が応援にかけつけて、親しみのこもった言葉をケビンさんにかけいてた。ゴールにはロブさんとケビンさんがプレーしていたラグビーチームのグラウンドが選ばれ、ロブさんはじめ、チームの選手やファンも見守る中、その様子がテレビで生中継された。走り切った後、ケビンさんは何度も目をぬぐうようなしぐさをし、車椅子のロブさんにハグする場面ではこちらもほろり。友だちのためにここまでできる人が世の中にいると知っただけで嬉しくなってしまった。

 こうして見てくると、24時間イベントで大切なのは人柄なんじゃないかと思える。たとえ何をしても、長い時間続けるうちにその人の個性や姿勢、心意気のようなものが伝わる。わたしたちはそれに感動して、応援して、力になろうと思うのかもしれない。今回ご紹介した24時間チャリティでは、3人それぞれのすばらしい個性と温かい心に触れることができて、11月がいつもより明るく感じられた。

今日のおまけ:

 最近、友人に教えてもらって『チャリティの帝国 もうひとつのイギリス近現代史』(金澤周作著、岩波新書)という本を読んだ。歴史的な背景から英国のチャリティを考えた本で、豊富な情報量で学びも大きかったのだけど、中でも印象に残ったのが「困っている人に何かしたい、困っている時に何かしてもらえたら嬉しい、自分のことでなくとも困っている人が助けられている光景に心が和む」という3つの気持ちを軸に著者が話を展開していたことだ。最初の2つはわかりやすいけれど、3つめは一瞬考える。でもやはりそのとおり。

 今回ご紹介したチャリティ活動を、わたしはこの3つめの気持ちで見ていたのだと今は思う。ということは、私は「困っている人に何かしたい」とは思っていないのかな。この国に16年も経つのに、まだお客さん気分なのかな。思わぬところで自分を振り返ることになってしまった。