先日、国勢調査を提出した。英国で国勢調査が行われるのは10年に一度のこと。わたしにとっては2度目の経験だ。
今回の調査は、今年3月21日の時点で英国に3ヶ月以上滞在している人全員に回答する義務がある(スコットランドのみコロナウィルスの感染を理由に1年延期)。回答しなかったり虚偽の答えを書いたりすると最高1000ポンド(約15万円)の罰金。調査の目的は「交通機関、教育および医療などのサービスを計画するために必要不可欠な情報の収集」と説明されている。
3月初め、早くもマークシート風な調査票が送られてきた。回答はこの調査票に記入して返送するか、オンラインで。このブログ恒例、ご近所さんアンケートによると(ロックダウン下で会えるのはご近所さんぐらいなのです)オンライン回答率が高い印象だが、わが家ではシートが到着するなり夫が書き込み始めたので、紙で提出することになった。
調査は、家や世帯に関する質問とそれぞれの個人に関する質問の二部構成。回答にかかる時間はそれぞれ10分ぐらいという分量だ。世帯の質問には家の部屋数、持ち家か賃貸か、同居している人との関係、車の所有台数などがあった。おもしろかったのはセントラルヒーティングの種類という質問。答えの選択肢は本管のガス、タンクまたはボンベのガス、電気、石油、木質燃料(薪木など)、固形燃料(木炭など)、再生可能エネルギー、地域または共同暖房ネットワーク、その他。今後の住宅計画や法制度という真面目な目的で行われているのだけど、何とも具体的でその家の暮らしが目に浮かぶようだ。セントラルヒーティングが生活する上で大きな役割を果たしていることもうかがえて興味深い。
個人への質問は氏名、年齢、仕事、教育レベル、国籍のほかに民族グループ、宗教(回答は任意)など。「性別」は以前からあったが、今回の調査で新たに加わって話題になったのが、性の自認性に関する質問だ。「回答は任意」と明記した上で、16歳以上を対象に「あなたが自認する性別は出生児に登録された性別と同じですか?」(はい、いいえで回答し、いいえの場合、自認する性別を記入)という質問がもうけられた。
これは特にトランスジェンダーの人たちの間で「少なくとも最初の一歩」と歓迎されている。それだけ社会でジェンダーの自由が認識されつつあるということで、結果によって法律や施設に反映され、社会の形が変わっていくのだろう。実際、昨年3月にロックダウンに入る前にも、男女共用のトイレが増えている実感がすでにあった。
一方で、こういう個人的な問題は話したくないという人もいる。調査には「あなたの性的指向をよく表しているものは、以下のうちどれですか?」(選択肢は異性愛者、同性愛者、両性愛者、その他記入する)というやはり任意の質問があったのだけど、ジェンダーの質問と合わせたこの2つは、ご近所さんアンケートによるとやはりデリケートな問題のようだ。質問に答えなかった人や「そんなの余計なお世話!」とお怒りの人がお年寄りに多いのは、同性愛が犯罪だった時代を経験していることも関係しているだろうか(英国で同性愛が違法でなくなったのは、一番早いイングランドとウェールズで1967年、一番遅かったマン島では1992年)。もちろん話したくない、回答しないというのも彼らの権利だ。全体の回答率や最終的な結果が出る1年後に今から注目している。
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今回わたしがいちばん興味を持ったのは、「あなたの国民意識をどう表現しますか?」という質問だった。選択肢の項目にはイギリス人、イングランド人、ウェールズ人、スコットランド人、北アイルランド人、その他記入、とある。
英国はイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの「国」から成る連合王国だ。イングランドを除く3つの国にはそれぞれの政府があり、ある程度まで独自の制度を設けることができる。たとえば、今回の国勢調査もスコットランドだけは延期しているし、コロナ関連の規制は4つの国がそれぞれ独自に定めている。
そして自分が生まれたそれぞれの「国」に所属するという考える人が意外に多い。サッカーやラグビーで自国のチームを応援するのはもちろんのこと、自分は「イギリス人(英語ではBritish)」である前に「イングランド人(English)」、「ウェールズ人(Welsh)」だと言うのだ。ただ、若い世代は「イギリス人」を好む傾向があるとわたし自身は感じているので、この質問がどんな結果になるのか、とても興味がある。

また長い歴史の中で、この国はさまざまな理由で外国人を受け入れてきた。移住してきた本人ならこういう質問には自分の出身国を答えるかもしれないが、外国生まれの両親のもとでこの国に生まれたら、あるいは祖父母は外国生まれで両親から英国生まれだとしたら、どう回答するだろう。同じように英国内の出身「国」を選ぶのか、「イギリス人」にするのか、あるいは親の出身国を答えるのか。生まれ育った環境によって違うだろう。まさに「人それぞれ」だ。
さて、わたしは何と答えたか。意識の問題なので、国籍とは別にどう答えても自由だ。今月、渡英して15年になったわたしは、「その他、日本人」と答えた。初めて旅行した時以来の英国好きだったので、たまたまこの国に住むことになった時にはいつか「イギリス人」になれような気がしていた。今思えば20歳で出会った英国に対する幼いあこがれで、恥ずかしいような懐かしいような気がする。実際には、ロンドン暮らしが長くなればなるほど自分が日本人であることを意識するようになってきた。何をするにも日本人としての目や頭を通して見て考えているからだ。かといって、日本に一時帰国した時に、何年もずっと乗り換えをしていた駅で迷ってしまったり、人にぶつかってとっさにソーリーと英語で言ってしまったりすると、そこに自分の暮らしがないこともよくわかるのだけれど。
多様性やアイデンティティーの問題は意外に身近にあって、個人のことではあるけれど社会にも影響をおよぼしていくと今回の国勢調査で学んだ気がする。わたしたちひとりひとりが社会を作っているのですね。
各質問を含めた国勢調査の日本語翻訳版にご興味ある方はこちらからどうぞ(→英国2021年国勢調査日本語翻訳版)。