3月20日土曜日、1回めのコロナワクチンを接種してきた。和やかな雰囲気で驚くほどすべて効率よく、政府のワクチン大作戦の力の本気度を実感したので、何かの参考になればと思い、予約から接種、副反応、わたしが打った話題のアストラゼネカの話などをまとめてみた。英国のコロナワクチン大作戦については1月にも書いたので、よろしければそちらもどうぞ(→英国のコロナワクチン大作戦)。
予約の案内から本気を感じる
英国でコロナワクチンの接種が始まったのは昨年の12月。医療従事者や高齢者が済んで徐々に年齢層が下がり、60代の友人たちが受け始めた2月中旬、そろそろNHS(無料で受診できる国民健康保険の制度)から連絡があるかと心の準備をし始めた。ふだんならゆるくて何でも遅れがちな英国だが、コロナワクチン大作戦に関してはかなり本気を出していて、接種が遅れるどころがむしろ予定より早く進んでいるのだ。
人の話を聞いていると、地域や年齢、タイミングによってさまざまのようだ。電話で連絡を受けて当日や翌日に受けたという話も聞けば、高齢のお母さんの付き添いで行ったら、余っているから受けていきませんかと言われた人も知っている。0度以下で保存されるワクチンは、一度解凍したら5日以内(それぞれの瓶を開けたら6時間以内)に使い切るので、大量に届いたりキャンセルが続いたりすると、ワクチンをむだにしないように急いで人を集めることもあるらしい。
わたしの場合、3月5日にNHS本体からのレターと登録している地元診療所からの携帯メールという二本立てで連絡が来た。重複したらどちらか都合のいい方を使うとして、とにかく連絡漏れがないようにということだろうか。念入りで驚いた。NHSの記録がある英国では、人も既往症も管理しやすくワクチン大作戦がはかどると言われているが、さらにダブルで連絡してくるとは!
最初に案内が来た時、実はわたしは体調があまりよくなかった。たまにくる一時的な花粉症かなとは思ったけれど、レターに同封されていたパンフレットにも接種は体調がいい時にと書いてあったので、念のため少し様子を見ることにした。すると2、3日して診療所から、「ぜひ予約してくださいね」とやんわりした催促メールを受信。予約の状況もしっかり管理している。やっぱり本気だ。ちなみに接種は義務ではないので、勧めはするが強制はしていない。

1週間後、元気になったところで予約を取った。予約の基本はオンライン、できなければ電話とのこと。診療所から案内された会場は徒歩15分ぐらいのボーイスカウト集会場一択なのに、レターの方はおもしろいくらい遠いところばかりだった。一番近くてバスで約15分の集会所、中には家から車で約45分、公共交通機関なら1時間以上はかかる北ロンドンのウェンブリースタジアム(世界的なイベントが開かれますね!)や南の郊外にあるエプソム競馬場もあった。いろいろな事情の人のために選択肢を増やしているのかもしれない。
ロンドン中心部のサイエンスミュージアムあたりで接種したらいい思い出になるかもと夢が広がったが、ぐっと我慢して徒歩圏を選択。予約が取れたのは8日後の20日。他の会場も一応確認したが、どこもほぼ1週間後だった。
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すべてスムーズな接種会場
予約時間の朝10時に住宅街の集会所に到着すると、入り口に人が立っていた人たちが「注射に来たの? こっちからどうぞー」と温かく迎えてくれた。
手指の消毒ジェルを使い、プレハブのような簡単な造りの建物に入ると、中は体育館のようなところだった。入り口に受付、その奥には簡単な仕切りで作ったブースが10か所ほど設置されている。受付で名前を言うと、ボランティアらしき女性が予約時間ごとに積み重ねられた紙の束から1枚を選んだ。わたしの名前、生年月日、バーコード(QRコードだったかも?)などが印刷されている。ここで「今こういう症状はありますか?」「あてはまる人種を選んでください」と質問を2つ受けたのだけど、どちらもあらかじめリストに書き出されていて効率がよい。人種の質問は意外に感じるかもしれないが、今後の研究や統計のために人種別の摂取率や副反応の出方を記録するんじゃないかと思う。NHSの登録でも記入した記憶がある。

受付で受け取った紙を持って奥に進むと、すぐに人が立っていた。どこでも必要なところに必ず人がいて、これまた効率がよい。その人の後ろに置かれたブースの大きさは3メートル四方ぐらい。それぞれのブース前には椅子が置いてあったが、誰も待っていなかったので、すぐに2番に行ってください、と案内された。
注射の針は突然に
2番のブースには、にこにこした30代ぐらいの男性が2人待っていた。Tシャツ姿だけれど、マスクをつけて手には医療用の手袋。手前に立っていたお兄さんが明るく自己紹介し、奥に座っていたお兄さんも元気よく手を振ってくれた。会場にいる人たちはみんな親切だったけれど、この2人は特に陽気で、話を聞いているとディズニーランドにでもいる気分だった。
「ワクチン接種は初めて?」「これまでコロナになったり自己隔離したりした?」「最近他のワクチンを受けた?」「薬のアレルギーは?」と次々に問診を受けたが、あまりに感じがいいので、お兄さんと世間話でもしている気分。日本だとこういう問診は紙になりそうだし、NHSでも紙に書くこともあるけれど、手間を省くために口頭にしたのかもしれない。一気にいろいろ聞かれたので、わたしは抗生物質に弱いことを伝えそびれてしまった。まあ、これまでその話をして何かが変更になったことはないのでたぶん大丈夫(と祈る)。わたしは問診にひっからなかったけれど(本当はひっかるけど!)、アレルギーがある人などはその場で専門家に相談できるようなので、心配な方はぜひ忘れずに。
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じゃあ腕を出してくださいと言われ、慌ててコートを脱いだ。特に案内はなかったが、下に半袖を着て行ったのであわてずに済んだ。何も考えずに左の袖をたくし上げていたが、どちらの腕にするか聞かれることもあるようだ。わたしがもそもそしている間、お兄さんはますますにこやかに接種後の注意を始めていた。副反応が出る可能性があります、まずはパラセタモール(薬局で手に入る解熱鎮痛剤)を飲んで安静にしてね、4日経っても症状が続いたら登録した診療所に連絡してね、それからワクチンを打ったからってリスクがゼロになるわけじゃありません、ソーシャルディスタンスやマスクをやめないでね。すらすらと話しながら、お兄さんはまるでついでのように、はい、これを刺すんだよ、と注射器を見せてくれた。と、次の瞬間、ぷすりとわたしの腕にそれを突き刺した! えっ、腕の消毒とかしないの?
本当は苦手なのに、あまりにびっくりして針の刺さった腕をガン見してしまった。うわさどおり、針は腕に対して直角に突き刺さっている。痛みはなく、ちくりという軽い感触があっただけだ。筋肉注射の針は細いというのをなんとなく体で感じた。ワクチンを入れている2、3秒間に痛みはなかった。針を抜くとさすがに綿を当ててくれたが、大きくてもこもこ丸い形の綿だったので、それをテープで腕に止めるとそこだけ不器用にこんもり盛り上がってしまう。平べったい綿の方がいいんじゃない? ぷっと吹き出してしまわないように、使った注射器が机の上の袋に入れられるのを見ていた。
「はい、終わり」とディズニーランド風に宣言するお兄さん。「あっという間だね」「そうなんだよ、だから周りの人に簡単だよ、痛くなかったよってどんどん話してね。2度目の接種はまた連絡を待ってね」そう話している間に、奥のお兄さんが日付や名前をカードに書き込んでくれていたので、それを受け取って終了。

ブースを離れると、間隔をあけて椅子が並んでいる待機所に案内された。接種後にアレルギー反応が出ないか様子を見るために15分ほど待つと聞いている。だが、椅子に座ろうとすると、「帰りに運転するんじゃなければ帰っていいよ」と感じよく話しかけられた。接種後の待機は会場によって違うようで、全員がしっかり待たされたという話も聞く。でもこの会場では待機はなしなので、これで本当に終わり。
建物を出る時、Well done!(お疲れさま)と声をかけられ、コートの襟にシールをつけてもらった。「コロナワクチンを接種しました」と書いてある。なんとなく恥ずかしくて、すぐにかばんの内側にそっと貼り直した。時計を見ると、到着してから建物を出るまで15分もかかっていない。何をするにも待たされることが多いこの国では驚きの効率のよさだ。「英国の人たちはやればすごいのに、なかなかやる気にならない」と言った友人の言葉を思い出した。
副反応は眠いだけ
そして多くの方がご興味あるだろう副反応のお話。簡単に言うと、わたしの場合はとてもとても軽く、ほとんどなかったに等しい。1月の記事でも大騒ぎしたのが恥ずかしい(告白すると、熱が出た時に備えて体温計も新調していた)。具体的に書き出してみると:
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接種は朝10時。2時間後ぐらいに腕が少し重くなったが、すぐに薄れた。
8時間過ぎたあたりで眠くなった(症状の出始めは8時間前後が多いらしい)。水分を摂れといううわさを思い出して、水をふだんより多めに飲んでみた。
夜までに眠気は覚めたものの、その日は早めにふとんに入った。夜中、注射したあたりがじんじんしたが、日曜の朝にはすっきり。
が、午後になって(接種から約29時間後)まぶたが自然に閉じてしまうほど眠くなり、2時間以上昼寝。すっきり目覚めた。
接種3日めは少し眠さがあったものの、翌日からはもうまったく何ともなく、接種から1週間経った今は腕のだるさも消えて、すっかり元気。
ただ眠いだけなんてのんきな話だけれど、接種から3日間眠くて仕方なかったという友人もいたので、これも疲労感という副反応のようだ。
本当に副反応は人によってまちまちだ。BBCの健康・科学担当の記者が自分の経験をもとにまとめたこの記事(英語のみ)によると、副反応は遺伝子の個人差によって違いが出るが、一般には若い人、コロナに感染したことがある人ほどひどくなりやすいそう。
ボランティアの大活躍
接種当日、会場で働いている人たちはみんな親切で感じがよく、会場全体が明るく和やかだった。もちろん医療関係者もたくさんいるだろうし、受付や案内役はボランティアも多い。受付で話した女性は、わたしが日本人であることがわかると、「去年、本当なら日本に旅行に行くはずだったの。残念だわー」と親しく話しかけてくれた。こちらもつい、「わたしも日本行きキャンセルしたの! お互い早く行かれるようになるといいね」と話を続けることになってお互いにっこり。一気に緊張がほぐれた。
ワクチンの接種にくる人たち、特にお年寄りは、外出自体も誰かと話すのも何か月ぶりという状況が予想される。だからボランティアたちは明るく温かく対応するように心がけているそうだ。なんて行き届いた配慮!
フラット(共同住宅)暮らしで、ほぼ毎日ご近所の誰かと顔を合わせているわたしでも、この日会場でやさしく微笑みかけてもらったり、友だちのように話しかけてもらったりしてずいぶんほっとした。にっこり微笑み合うことで、みんなで一緒にウィルスに立ち向かっている気持ちになれる気がして心強かった。
コロナワクチン大作戦はとても順調で、英国の接種率は現在イスラエルに次いで世界第2位。これで成人の半分以上が少なくとも1回はワクチンを打ったことになるそうだ。政府や医療関係者の働きに加えて、現場を盛り上げているボランティアさんたちの功績も大きい。
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海外旅行はいつ
1月の記事にも書いたように、ワクチン推進派が多い英国では、「ワクチン怖い」とはずっと言いにくい雰囲気だった。が、接種する年齢層が50代に下がった3月あたりから副反応を怖がる声が以前より耳に入り始め他ので、もともと慎重派のわたしはこれでますます緊張してしまった。そして実は接種を受けた今も、長期的な影響についてはにやはり不安を感じている。幸い副反応も軽くて済んだので、そちらの方が気になるくらいだ。
それでもワクチンを打ったのは、そうしなければ旅行ができない、日本の家族や友人に会いに行かれない可能性が高いからだ。ワクチンを接種したらパスポートを発行する制度をもうけて、持っていない人の行動を制限するという話は前から出ていたが、最近は旅行どころかパブに入るのにも必要かという議論が始まっていて、接種を受けないと社会生活にも影響がおよぶかもしれない。それから、ワクチンを受けずに知らない間に他の人を感染させてしまうのもとてもいやだ。
ロックダウンとワクチン大作戦の効果で、ピークだった1月に比べると今では感染者や死者の数が10分の1以下に減っている。それでも政府は夏休みの海外旅行は難しいと見ていて、正当な理由なく海外旅行に出ると5000ポンド(75万円弱)の罰金が課されることになった。夏休みの旅行先として人気のヨーロッパ大陸ではワクチン接種はあまり進んでいないし、外からまたウィルスを持ち込んでしまっては作戦がだいなしだからだ。
少しずつ緩和されつつあるものの、まだロックダウン中の英国。最初のロックダウンから今週で1年が過ぎた。日本に行けるようになるのはいつだろう。
おまけ:アストラゼネカは評判が悪い?
現在、英国で承認されているワクチンはアストラゼネカ、ファイザー、モデルナの3社。わたしが打ったのはアストラゼネカだった。どれを打つのか事前にわかる地域もあるようだが、わたしの場合は接種後にカードをもらうまでわからなかった。今思えば、注射をする前に聞いたら教えてくれたかものかもしれない。初期の頃は周囲でファイザーの名前をよく聞いたが、最近はアストラゼネカが多い印象だ。
ご存じのとおり、アストラゼネカは血栓を作る可能性が指摘されて話題になっていた。WHOは否定したものの、ヨーロッパの一部では使用を一時中止(現在はほとんどが再開)。その間ずっと接種を続けていた英国でも、接種するのがアストラゼネカとわかってキャンセルする人が出たそうだ。
アストラゼネカ問題は、英国ではワクチン自体ではなく政治がらみだと言われていたし、1700万人に40人という血栓のできる確率があまり高いと思えなかったので、わたしはあまり気にしていなかった。この騒動についてご興味のある方は、BBCの日本語の特集記事をじっくりどうぞ(→アストラゼネカ製ワクチンをめぐるEUとイギリスのもみ合い悪化)。供給の契約やブレグジットをめぐるあれこれを英国とEU両方の視点から解説している。
わたしが接種を受けた前日、ジョンソン首相もアストラゼネカのワクチンを受けたそうだ。彼には文句がいろいろあるけれど、同じ船に乗って運命を共有していると思うと少しだけ親しみがわく。