日本でも報道されているように、感染力の高い新型コロナウィルスの変異種が英国で見つかった。英国からの渡航を禁止する国が増えて、ユーロトンネルでつながっているフランスも規制を始めたので、約4,000台の大型トラックがドーバー海峡を渡れずに立ち往生している。
それでなくてもヨーロッパ大陸との物資の行き来は今、繊細な問題だ。今月末が期限のEU離脱の交渉がはかどらず、1月からの食料不足が心配されるからだ。英国はEUから食料を大量に輸入しているため、離脱前から物流が滞ると先行きがどうしても不安になる。
変異種の発見で、もちろん国内の規制も強められた。突如としてこれまでの3段階の警戒レベルになかったTier 4という最強レベルが現れて、ロンドンやイングランド南東部などは実質上のロックダウン。イングランドで予定されていた特別なクリスマスの規制緩和も5日間から当日だけに減らされて、家族や友人と集まる計画がクリスマスのたった6日前に台無しになった。
ジョンソン首相は、この発表の3日前まで「クリスマスを家族と過ごせないなんて人道的ではない」と専門家からの反対を押し切って緩和を進めていたのに、これは本当に急な方向転換だ。変異種の感染力が想像以上に高かったとはいえ、もう少し前に決めてくれたら心の準備ができたのにと、みんながっかり。
たとえば、同じフラット(集合住宅)に住むインドの90代のおばあさん。許可されていた5日間めいっぱい、お嬢さんのところに泊まってお孫さんやひ孫さんと過ごす予定で、もう1か月ぐらい前から会うたびに嬉しそうに話してくれていた。ところが首相発表の翌日に庭でばったり会った彼女は、もう目も当てられないほどしょんぼり。「何か月も会っていない孫の好きなインド料理も作ってあったのに」と泣き出しそうになったので、明るい話題を探すのに汗をかいてしまった。
(今年はもともとネット上の買い物が増えていた中、クリスマスプレゼントの買い物も加わって配達が急増。配って歩く配達員がまるでサンタのように見えた。クリスマスカードの配達もあるので、郵便は例年以上に遅れている。筆者撮影)ロックダウン不況、コロナの変異種、クリスマスの中止、はかどらないEU離脱交渉。今の英国はまさに泣きっ面に蜂状態のまっただなかだ。それでも、それでも人はたくましく生きている。そんな人たちに出会うとどれほど励まされることか。
よく晴れたクリスマスイブの朝、散歩先の緑地ですれちがった人たちは、ほぼ全員が「メリークリスマス!」と言い合っていた。知らない人があいさつしあうのは毎年のことだが、今年は確実にいつもより多くの人が口に出している。みんな心配で、みんな励ましあいたいのだ、きっと。
ここからは、不安の中でプラスに意識を向けて明るく生きる人たちのニュースをご紹介しよう。
まずはタクシー運転手のデイルさん(動画ではロンドン市内のイルミネーションも見られます)。
この記事はBBC日本語版で日本語字幕付きでも見られます(ロンドンのブラックキャブでイルミネーションツアー 「ロックダウンでも活路」)。
ロンドン市内のすべての道路を完璧に覚えなければならないブラックキャブの運転手になるには、超難関の試験が必要だ。ロックダウン中もタクシーはずっと営業していたものの、外出する人自体が少ないので厳しい状況だった。このデイルさんはこの間、宅配の仕事を見つけてなんとかつなぎ、クリスマス時期の今は市内のイルミネーションを巡るツアーをしている。
実質ロックダウンのロンドンで、タクシーに乗ってイルミネーションを見るのは認められるの? という疑問はあるけれど、国営放送で報道するからには許可されているのだろう。実際、ビジネスに関する規制は、業界や地域によって細かい決まりがあるようで、一般に報道される規制だけでは簡単に判断がつきにくい。このイルミネーションはクリスマスで終わらず新年まで続くので、デイルさんもしばらくは安心だろうか。
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お次は今回の実質ロックダウンの前に2時間で結婚式の手はずを整えたユダヤ人カップルのお話(下のリンクをクリックすると英語の記事と写真が見られます)。
クロエさんとジェイミーさんは、もともと9月に予定していた結婚式をコロナ規制でなんと3回も延期したそうだ。突然の実質ロックダウンで翌日に控えた結婚式ができなくなると知り、2時間であちこち連絡を取って、午後10時にシナゴーグ(ユダヤ教会)で式を挙げた。今回の規制自体も夕方の発表から約8時間後というこれまでにないスピード実施だったのだ。もともとは130人を招く予定だった彼らの式にこの日参列したのは規制ぎりぎりの15人。ご夫妻はそれでもとても幸せで、結婚後は驚くほどたくさんの人から「すごいね! おめでとう!」というメッセージを受け取って嬉しいそう。
続いての動画には、念のためティッシュのご用意を。
"This really made me cry"
-- BBC Breakfast (@BBCBreakfast) December 23, 2020
In the first lockdown staff at Court House care home moved in to keep Covid out.
With the help of #BBCBreakfast their relatives formed this secret choir as a thank you https://t.co/MlvbsJTNt1 pic.twitter.com/fa57gZxuxC
サマーセット州のこの老人ホームに勤めるスタッフは、最初のロックダウンでは家に帰らず備品室に泊まり込んだりして献身的に働いている。そこでクリスマスのサプライズに、入居者とスタッフの家族が内緒でZoomで集まって合唱団を結成。クリスマスの歌をホームで披露した。家族からのメッセージは、「スタッフの皆さん、本当にありがとう」「ママ、メリークリスマース!」「おばあちゃん、大好き」と胸が熱くなるものばかり。
そしてこのHave Yourself a Merry Little Christmasという選曲もいい。「もうトラブルは終わり、昔のようにまた会えるから、明るく楽しいクリスマスを」という優しい歌詞に、それぞれの心の内を想像してしまい、つい自分のことまで考えてぐっとくる。
最後はスコットランドの仲良しご近所さん。
"It's just wonderful community spirit"
-- BBC Breakfast (@BBCBreakfast) December 22, 2020
Eight months after the first visit, @BBCScotNine has caught up with former rugby player @ScottHastings13 and his neighbours in Edinburgh to see how they're still keeping healthy with street aerobics. https://t.co/G2l06EenD2 pic.twitter.com/fRQqm6soTT
クリスマス風に着飾って路上でエアロビクスをしているのは、エジンバラに住むご近所さんたち。最初のロックダウン中に始まったこの路上エアロビクスがずっと続いていているのだ。みんな表情がいきいきしていて、「あいさつぐらいしかしたことがなかったけど、今じゃみんないい友だちよ」と話すお年寄りも嬉しそう。外に出られない時に、近所に親しい友人のいるありがたさはわたしも今年しみじみと感じた。デジタル時代ではあるけれど、やはり生身の人間と話ができるのは画面とは違う温かい喜びがある。
そしてここでも、ほとんどの人がばかばかしいほど派手ないでたちをしている。クリスマスになるとサンタの帽子やクリスマス模様の編み込みセーターを身につけた人によく出くわすが、彼らからは「見た目なんて気にしない、自分が楽しければいい」という精神がにじみ出ていて愉快でたまらない。しょんぼりしてないで元気出しなさい! と言われている気さえする。
英国では世界に先駆けてコロナウィルスのワクチン接種が始まっている。今は医療従事者や高齢者が優先で、ご近所のおばあさんの知り合いのご高齢者9人がすでに接種を受けたそうで、ひとり頭痛が出た以外はみんな元気にしているとのこと。ドーバー海峡で足止めされているトラックの運転手たちには一般の人の好意で食事が届けられ、今後は運転手が検査で陰性とわかれば入国できるという。それにこのブログを書いている間になんとEU離脱の条件が合意に達したという速報まで入ってきた。
そうだ、最後の明るいニュースとしてこれもご報告しなければ。前回のブログを読んでくださった方は、わが家のクリスマス問題を覚えておいでかもしれない。この問題はもちろん、何週間も悩んだのがうそのように首相会見で一瞬にして解決された。ロンドンから娘の住む郊外に行くことはできないのだ。電話で娘に「残念だよねぇ」と言いながら、心の中で軽くガッツポーズをしてしまったわたしを、神さま、お許しください。
*おまけ*
最後までお読みいただいて、ありがとうございました。
今年は本当に変な年でしたね。ロックダウンで外に出られず、もちろん日本にも帰れず、じれったい思いもありましたが、その反面、ロンドンに住む自分に意識を向けることができました。日本人として感じる違和感やロンドン人としての戸惑い、その間で揺れる今をお伝えしていけたらと思っています。よかったら来年ものぞいてみてくださいね。
みなさま、メリークリスマス&どうぞよいお年を。
来年は自由に明るい気持ちで過ごせますように。