──月や火星の探査時代になると、地球に戻って治療するのが難しいだけでなく、通信で地上にいる宇宙航空専門医に相談する時間もない状況に陥るかもしれませんね。月・惑星探査時代の宇宙臨床医学について、もう少し詳しく教えて下さい。

古川 究極の遠隔地で、遠距離になると通信にも遅れが生じますので、現場で判断して治療しなければなりません。たとえば宇宙飛行士のサバイバル訓練には、医師がスタッフとして、使う頻度が高そうな医療用品をバックパックに詰めて同行してくれます。現場に医務室を持っていくような感じですね。

惑星探査時代は、その延長線上のようにして、おそらく「ここまでは現場で対処する」っていうラインを決めて、宇宙現場用の医療機器を持っていくのではないかと思います。おっしゃるように、地上に聞いてる暇がないという状況にもなるので、自分たちで判断して使うことになるのではないでしょうか。

だから、宇宙飛行士に対する医療処置の訓練も重要になります。なので、月の場合はわかりませんが、火星を目指すときには、クルーの中にはきっと医師が入るのではないかと個人的には思っています。それが日本人になるのかはわかりませんが。

──そのような時代まで長くご活躍をして、ぜひ古川さんがいらっしゃってください。

古川 (笑顔で)そうですね、高齢になりますと放射線を浴びても影響がほとんどなくなるというのは強みになりますので。

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東大安田講堂で行われた一般向けのミッション報告会で、参加者からの質問を真剣な表情で聞く古川さん(6月23日) 筆者撮影

日本の宇宙飛行士の宇宙活動は現在ISSを中心に行われており、古川さんから来年2月に出発予定の大西さんに引き継がれます。

古川さんのミッション報告会に寄せたビデオメッセージで、大西さんは「事務所では古川さんの部屋が隣で、僕の部屋が奥にあるのでどこに行くにも古川さんの前を通る。古川さんがいると、つい色々と聞いてしまう」と話し始めました。

「面倒見が良いので、何を聞いてもすごく丁寧に教えてくれる。さらに、後から思い出したことがあれば、メールで補足までしてくれる。訓練に関して、自分用の勉強資料を作っていらっしゃるのだけれど、それを惜しみなくメールで送ってくれる。とても後輩思いの先輩で色々と教えていただいたので、その知見を受け継いで我々も頑張りたい」

大西さんの同期で、ヒューストンで訓練を続ける油井さんも、「ISSでのミッションを見て、本当に誠実に丁寧に仕事をされていたので見習いたい。古川さんは(宇宙での仕事に臨むときに)すごく準備をしたので『宇宙でしか見つけられないもの』を見つけられたのだと思う」と語っています。

<後編に続く:古川聡さんに聞いた宇宙生活のリアル...命を仲間に預ける環境で学んだ「人を信じること」の真価

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