コラム

AIに奪われない天職の見つけ方 「本当の仕事 自分に嘘をつかない生き方、働き方」(榎本英剛著)

2016年09月23日(金)17時15分

 ときどき「何をしたいのか分からない」と言う若者に出会う。小さい頃から「ゲームばかりしちゃダメ」「テレビばかり見ちゃダメ」などと怒られ、自分の「好き」を我慢し続けた世代だ。その結果「何が好きなのか分からない」ほどに、自分の心のアンテナが鈍ってしまっているのではないかと思う。心のアンテナが鈍っているので、本当は好きでもないものを、好きだと頭で思い込んでいるケースもある。

 まずは日常の中で自分の心のちょっとした動きに注意を向け、自分の心は本当は何が好きで、何が嫌いなのかを再認識していくという作業が必要なのかもしれない。あとは、できるだけ多くの場所にでかけ、できるだけ多くの人に会い、できるだけ多くのことを経験して、自分の心のアンテナがどちらの方向を向くのか見定める必要がある。それを続けていくうちに、心のアンテナが研ぎ澄まされていくのではないかと思う。引きこもって、頭であれこれ考えているだけでは、心のアンテナは研ぎ澄まされない。

「好きな仕事」で生計を立てるには

 一方で好きなことが何なのかは分かっているが、どうやってそれで生計を立てればいいのか分からない、という質問を受けることがある。答えは、別の仕事で生計を立てながら、好きなことをやり続けるしかない、ということだ。諦めずに試行錯誤を続け、心を明るく持って、多くの人とつながるようにしていれば、だれかがチャンスを運んできてくれるかもしれない。チャンスは人が運んできてくれることが多いからだ。

 ただ時代は明らかにそうした人たちの味方だ。これからAIとロボットのおかげで生活コストが低下する傾向にある。いろいろなテクノロジーが、起業を手助けしてくれるようにもなるだろう。諦めずに続けていれば、いずれ「好きな仕事」で生計を立てられるようになるのだと思う。そのときまで「好き」を諦めないことが、今一番大事なことなのだろう。

 こうした僕の主張に近い話が「本当の仕事」の中に、より詳しく、より明確に解説されている。僕の主張とは比較にならないほど、完璧な主張だと思う。名著といえば学者先生の難解な文章が多いが、この本は非常に読みやすい文体で書かれているものの名著であることに違いはないと思う。

【関連記事】AIが招く雇用崩壊にはこう対処すべき。井上智洋著「人工知能と経済の未来」【書評】

 これから起こる未曾有の大変化に向けて指針となる本を推薦しろと言われれば、僕は迷うことなく井上 智洋氏の「人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊」と、榎本 英剛氏のこの本「本当の仕事 自分に嘘をつかない生き方・働き方」の2冊を推薦したいと思う。井上氏の本は、「社会制度をどうすべきか」というマクロの視点、榎本氏の本は「個人はどう生きるべきか」というミクロの視点を提供してくれる。この2冊は、雇用大崩壊時代に向けてのバイブル的な本になると思う。

2歩先の未来を創る少人数制勉強会TheWave湯川塾主宰
有料オンラインサロン

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ」が物議...SNSで賛否続出
  • 4
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 9
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 10
    高市首相の「台湾有事」発言、経済への本当の影響度.…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story