コラム

21世紀はバイオの時代 出るか夢の新素材

2015年10月15日(木)16時11分

生物学とテクノロジーの交差点で次の大革新は起こるとジョブズは言った gmutlu-iStockphoto.com

 Appleの故スティーブ・ジョブズ氏は「21世紀の最大のイノベーションは、生物学とテクノロジーが交差するところで起こる」と予測した。確かに例えばDNAは、4種類の塩基のうちの2つがペアをなし30億個連なった組み合わせ。その数が膨大過ぎて、情報技術の助けなしに人間は扱うことができない。DNAに限らず生命の複雑なメカニズムは、情報技術の進化とともに解明されていくのだと思う。

 事実、バイオxITの取り組みは、いろいろなところで始まっている。

 東大発の人工知能ベンチャーPreferred Networksは、京都大学のiPS細胞研究所に協力。ゲノムのシークエンシングのデータや、遺伝子発現のデータに、どのように機械学習を利用すればいいのかを模索している。

 同じく東大発バイオベンチャーのLPixelは、画像認識技術を生物学の実験結果に応用する技術を用いて、大学や企業の研究を支援している。

細胞分裂速度30分に1回の生物をどうIT化するか

 こうしたITとバイオの両方の領域にまたがるベンチャー企業の関係者によると、バイオが今後大きく進化するために克服しなければならない課題が幾つか存在するという。

 1つは、計算結果が瞬時に出るITと違って、バイオは結果が出るまでに時間がかかるという問題がある。

 例えば長寿の薬の効果があるのかどうかを判断するためには、その薬を飲んだ人が100歳以上生きるかどうか待たなければならない。ハーバード大のバイオ研究者の佐々木浩氏は「ITの分野では半導体チップの速度がどんどん速くなっていってるのに、生物の成長のサイクルが速くならないんです。細胞分裂は生物実験に一番よく使われる大腸菌でも30分に1回程度。実験の結果が分かるまで時間がかかり過ぎるんです。それを短縮できないということが、一番のボトルネック。このボトルネットをどう超えていくのかが課題です」と語っている。

 超えなければならない2つ目の課題は実験の自動化。生物学の実験は、いまだに人手を使うものが主流。研究者が一定期間の間、薬物を試験管にスポイトで一滴ずつ垂らしていくという作業を行っている。

「研究者が作業者化しているんです」と、ライフサイエンス分野のベンチャー企業、エルピクセルの島原佑基社長は指摘する。実験そのものが自動化されていないという問題もあるが、実験で得たデータの簡単な処理作業が膨大になっていて、その作業に研究者の時間が奪われているという問題もあるという。

 3つ目の課題は、ゲノムに関する論文の検索が困難だという問題。世界中のゲノム研究者が実験で発見したことを論文として発表し続けているが、論文の数が多過ぎて、勉強熱心な研究者であったとしてもすべての論文に目を通すことは無理。また関連する論文を検索しようにも、論文用の検索技術が洗練されていないのだという。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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