コラム

中国で日本人拘束...「恣意的捜査」によって日本企業は情報提供の「義務」に直面する

2023年04月01日(土)19時37分
日本と中国の国旗

btgbtg-iStock

<アステラス製薬の社員である日本人男性を、中国当局が「スパイ容疑」で拘束。中国側の「狙い」に対抗できない日本の現状>

また中国で日本人が拘束された。

今回拘束されたのは、日本の製薬会社であるアステラス製薬の50代幹部。日本に帰国する直前に、国家安全当局に「スパイ容疑」で拘束されたことが判明している。

近年、日本人がスパイとして拘束されるケースが後を断たない。2022年10月にも、スパイ容疑で2016年に逮捕・起訴され、6年間の刑期を終えた日中青年交流協会の元理事長が帰国したばかりだ。投獄の理由を元理事長は、「日本の情報機関の任務でスパイ活動をした」という身に覚えのない容疑だったと述べている。

■【解説】スパイではない日本人ビジネスマンが拘束されることの本当の危なさとは?

中国では習近平体制になってから、スパイ対策を強化するため、2014年に反スパイ法(防諜法とも呼ばれる)を制定している。中国政府はその後も、国家情報法(2017年)、インターネット安全法(2017年)、データセキュリティ法(2021年9月)、個人情報保護法(2021年11月)など、様々な情報・データ関連の法律を施行していて、特に外国人については、当局が恣意的に日本人を含む外国人をいつでも拘束できるような体制を取っている。

2021年には中国のスパイ機関である国家安全部(MSS)がスパイ摘発への協力を求める規定を発表したり、2014年の反スパイ法も昨年からさらに対象を広げるべく改正を目指して議論されてきた。

政府は「遺憾」「解放を求める」と言うのみ

そうした取り組みにより、2015年以降に今回の件を含めて17人の日本人が中国で拘束されてきた。そのうち10人は逮捕・起訴され、1人(70代男性)は獄中で死亡していたことが2022年に明らかになっている。またそのうちの4人は刑期を終えて帰国し、別の5人は不起訴で帰国している。

日本の政府関係者に取材をすると、「過去に中国でスパイとして捕まった日本人の中には、実際に日本の情報当局のスパイをしていた者がいる。すでに帰国している人の中にもいるが、政府としてはもちろん認めることはできない。中国で拘束後には外務省がその邦人に接触していくことになるが、海外で活動する組織的な情報組織を持たない日本では、国としてどのように機能的に対応していくのかも決められていないため毎度混乱が起きている」と述べる。

そんなことから、政府としては「遺憾である」「解放を求める」と言うしかできないのが現状だ。筆者の取材では、過去に中国で捕まった日本人の元協力者の中には、帰国後に「マスコミにすべてをぶちまける」と情報当局に抗議を行い、邦人を守る役割を担う外務省の対応についても憤りを隠さない人もいる。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 4
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 9
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story