コラム

出版不況でもたくましいインディーズ出版社の生き残り術

2016年05月18日(水)16時40分

シカゴ・レビュー・プレスの総括責任者を務めるシンシア・シェリー氏(筆者撮影)

 日本と同様、出版不況に直面するアメリカの出版業界――。そんな中でインディーズ(独立系)出版社は、大手出版社と一線を画し、トレンドに流されずに「とことんニッチにこだわる」姿勢を貫いてこの苦境をたくましく生き抜いている。

 アメリカ最大のブックフェア「Book Expo America(BEA)」は、おもに大手出版社が図書館や書店の関係者を対象にその年に注目作品を紹介するお祭り的な要素が大きいイベントだ。そのほかにも、デジタル出版や自費出版、書店で発売する小物の展示などもあり、ネットワーク作りも盛んに行われている。

 筆者は2001年からBEAに参加しているが、かつて大きなスペースを購入してARC(Advance Review Copy)と呼ばれる書評用のガリ版を大量に参加者に配っていた大手の出版社が次々と姿を消している。出版不況の影響で、イベントへの出費ができなくなっているのだろう。

 2001年から現在までの大きな変化は、ノンフィクションやシリアスな文芸作品の存在感が薄れ、若者を対象にしたYA(ヤングアダルト)作品が幅を利かせるようになったこと。もともとは14~18歳の高校生を対象にしたジャンルなのだが、『トワイライト』や『ハンガー・ゲーム』といった人気タイトルが爆発的に売れ、読者層は成人にまで広がっている。映画化されることも多く、出版不況でもよく売れるジャンルなので、近年は大手出版社が特別に部門を作って力を入れている。

 また、キンドルなどの電子書籍とオーディオブックとの組み合わせも、近年のトレンドだ。生き残りのためだから仕方がないとはいえ、こうした風潮を嘆く業界人は少なくない。

【参考記事】こんまりの魔法に見る「生と死」

 その一方で、トレンドとは関係なく生き残っているインディーズ(独立系)出版社もある。大手出版社の傘下に入らず、独自路線を貫く小規模の出版社のことだ。

 今年のBEAはシカゴで開催されたので、この機会にシカゴ周辺で40年以上続いている2つの出版社から話を聞いてみた。

 まずは、シカゴの代表的なインディーズ出版社であるシカゴ・レビュー・プレス (Chicago Review Press)。

 シカゴ大学の学生新聞「シカゴ・レビュー」の詩の書評を担当していた大学生カート・マシューズが、卒業後の1973年に妻と一緒に始めた出版社で、大学からの許可を得て大学新聞の名前を使ったという。初期に宮沢賢治の詩を翻訳出版してまったく売れなかったという残念な歴史もあるそうだ。

 大手出版社では、通常社員の責任範囲は細かく分かれているのだが、シカゴ・レビュー・プレス総括責任者のシンシア・シェリー氏は、出版タイトルの選択から、編集、ビジネスのすべてに関わっている。そのシェリーによると、シカゴ・レビュー・プレスの成功の理由は次の4つに集約される。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人

ワールド

プーチン氏、対ウクライナ姿勢変えず 米制裁期限近づ

ワールド

トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命令 メ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    ニューヨークで「レジオネラ症」の感染が拡大...症状…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story