最新記事

ウクライナ情勢

国際社会から同情されるウクライナも、一歩間違えれば反感を買う──ポーランド着弾が問う世界大戦リスク

Looming Escalation Risks

2022年11月22日(火)16時34分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ベルファーセンター国際関係論教授)
プシェボドゥフ

2人が死亡した、ウクライナ国境に近いポーランド東部のプシェボドゥフ村の着弾現場 Agencja Wyborcza.pl-REUTERS

<世界を凍り付かせたミサイルのポーランド着弾。戦闘が長引けば、同じ事態は必ず繰り返される。エスカレーションと世界大戦リスクは?>

ウクライナ戦争がエスカレートするリスクを過小評価していた人たちは再考を迫られている。きっかけはポーランドの国境地帯に11月15日、ミサイルが着弾し、2人の男性が亡くなった悲劇だ。

当初「ロシア製」と発表されたこのミサイルは、その後の調査でロシアのミサイルを迎撃するためにウクライナが打ち上げた旧ソ連製ミサイルだったと分かった。

いまウクライナで起きているのは本格的な戦争だ。こうした戦争には、たとえ両陣営が慎重を期していたとしても、多くの不確定要素と意図せぬ結果が付きまとう。

兵器の不具合も起きるし、現地の指揮官が司令部の命令に従わないこともある。戦闘の最中では状況がよく分からず、敵の意図を簡単に読み違えてしまう。今回は即座に冷静な判断がなされて事なきを得たが、この悲劇で偶発的なエスカレートの危険性が浮き彫りにされた。

ポーランド領内にミサイルが着弾したとの第一報を受け、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はロシアによる「重大なエスカレート」だと述べ、ポーランド当局はNATO加盟国が攻撃を受けた場合の協議と集団防衛を定めた北大西洋条約第4条と第5条の発動要請を検討すると発表した。

ミサイルがウクライナから発射されたことが分かると、西側は即座にウクライナに悲劇の責任はないとの見解を発表した。そもそも戦争を仕掛け、ウクライナの領土を不法に占拠したのはロシアなのだ。

エスカレートの危機を回避できたのはアメリカとポーランド当局の賢明な対処のおかげだ。しかしこれで一件落着とはいかない。

もしこれがロシアの発射したミサイルの流れ弾だったら、どうなっていたか。ロシアは関与を否定するか、偶発的な事故だと主張するだろう。それが事実であっても西側は信じるだろうか。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が核攻撃に踏み切る前に観測気球を上げたのではないか、ウクライナ周辺の重要な兵站拠点をたたいても報復されないか試したのではないか──そんな臆測が飛び交い、NATOの集団防衛の「抑止力を回復」するために、ロシアに報復攻撃を行うべきだとの声が高まるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有

ビジネス

FOMCが焦点、0.25%利下げ見込みも反対票に注

ワールド

ゼレンスキー氏、米特使らと電話会談 「誠実に協力し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中