最新記事

ウクライナ戦争

2014年には良かったロシア軍の情報収集・通信が今回ひどい理由

2022年4月22日(金)16時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
ロシア軍

ウクライナ軍が奪ったロシア軍の戦闘車両のそばに残されていたロシア兵のブーツ(ウクライナ北東部ハルキウ〔ハリコフ〕、3月29日)

<プーチン大統領がこんな自滅への道を歩むとは思わなかった――。外交官を務め、50年以上ソ連・ロシア観察を続けてきた河東哲夫氏が今回のウクライナ侵攻の序盤に見たもの>

日本は民主主義のもと、平和と自由が守られている。それだけに、ロシア軍のウクライナへの軍事侵攻に今、多くの人が衝撃を受けている。

1つの国家が国際社会の秩序を無視すれば、戦争が起こる。その現実を前にし、私たちは、ただ声高に「戦争反対!」と叫んでいるだけでいいのだろうか? 

あるいは、超国家主義に傾けば日本を護ることができるのだろうか?

国防をめぐる不安が高まるなか、外交官として、在ロシア公使や、在ウズベキスタン・タジキスタン大使を務め、50年以上にわたりソ連・ロシア観察を続けてきた河東哲夫氏が、『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)を緊急出版した。

ロシア・ウクライナ戦争の背景と現状を、歴史・軍事・地政学に基づいて解説し、日本の安全保障を考えていくうえで知っておくべきことを伝える本書から、一部を抜粋する。

◇ ◇ ◇

2022年2月24日、それまでウクライナとの国境に集結していたロシア軍は、ウクライナへの侵入を開始した。その数、初めはおよそ10万人と推定される。

同時にウクライナ北方のベラルーシで「演習していた」ロシア軍も、60キロ余もの車列を組んで、わずか100キロメートル南のウクライナの首都キエフをめざす。

キエフ近郊のホストーメリの空港にはロシア軍ヘリコプターが8機ほど押し寄せて、防空設備を破壊した。

(※2022年3月31日、政府はウクライナの地名表記を、ロシア語を基にした表記からウクライナ語に沿った表記に変更する方針を定めたが、本書では執筆時の表記に従っている)

怒濤の進軍で圧勝、のはずが......

ウクライナに侵入したロシア軍の作戦はこうだっただろう。

これまで半分しか抑えていなかったウクライナ東部、つまりロシア語人口も多いドネツ州、ルガンスク州の全部(ロシアへの編入を望む住民は全体の20%もいない)、そしてこれまでウクライナの右派勢力に阻まれていたハリコフ州も制圧する。

さらには、黒海の北の袋のようなアゾフ海への出口マリウポリ、黒海への出口ヘルソン、オデッサを制圧することで、ウクライナと海外の交易路をふさぐ。そして首都キエフを制圧することで、ウクライナを降伏に追い込む。

さすが、柔道家プーチン。いざしかけるとなると矢継ぎ早なのだ。

それはまるで昼日中、強盗が隣の家のドアや窓を蹴破って侵入するのを見ているようなシュールな光景。世界中の専門家で、このように大胆な侵略を予想した者はほんのわずかだった。

僕も、プーチン大統領がこんな自滅への道を選ぶとは思わなかった。なんで自滅なのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円一時10カ月ぶり安値、片山財務相の

ワールド

イスラエルがガザ空爆、25人死亡 停戦違反巡る応酬

ワールド

米・サウジ、2700億ドル規模の新ビジネス契約=ト

ビジネス

エヌビディア、第4四半期売上高見通しが予想上回る 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中