最新記事

韓国事情

輸出規制、韓国政府の無策を非難する韓国メディア

2019年7月9日(火)17時15分
佐々木和義

G20サミットで来日時の文在寅大統領 Jorge Silva-REUTERS

<日本の輸出規制に対し、韓国メディアは日本を非難するのではなく、以前から取り沙汰されてきた経済報復に無策だった韓国政府や日本に過度に依存してきた企業への批判が目につく......>

日本政府の韓国向け輸出規制を受け、韓国のマスコミは批判の矛先を韓国政府に向けている。韓国大法院が日本企業に賠償金を命じる判決を下して以降、取り沙汰されてきた経済報復に政府が対策を講じていなかったのだ。

2019年6月25日の国会で経済報復が議論された際にも康京和(カン・ギョンファ)外交部長官は「報復措置には黙っていない」と答弁したが、実際に輸出規制がはじまると今後の状況を見て研究するという無策ぶりで、韓国産業資源部も最も影響を受けるサムスン電子やSKハイニックス、LGディスプレイなどの役員を呼び、事前に動向を把握できなかったのかと叱責した。韓国中央日報 は国民の生命と財産を守るべき政府が役割を果たしていないと批判している。

韓国政府はWTOへ提訴する?

世界の半導体市場におるシェアはサムスン電子とSKハイニックスの2社で半数を超え、ディスプレイもLGディスプレイとサムスン電子が3割を占めている。いずれも韓国の輸出産業を支える屋台骨だが、今回、日本政府が輸出を規制したエッチングガスは43.9%、レジストは91.9%、フッ化プリイミドは93.7%を日本からの輸入に頼っている。いずれも日本が世界の70%から90%のシェアを持つ材料で、日本企業に代わる輸入先を見つけることは不可能な品目だ。

青瓦台の金尚祖(キム・サンジョ)政策室長は、日本から輸入する必要があるロングリストの1番目から3番目の品目を日本が規制したと述べている

韓国政府は世界貿易機関(WTO)への提訴を検討するとしているが、専門家は疑問視する。日本は安全保障上、軍事転用の可能性がある品目の輸出を規制し、信頼関係にある27か国をホワイト国に指定して輸出手続きを簡素化している。当該品目をこの恩恵対象から除外して輸出ごとに個別審査を義務付けるといった内容で、日本が安全保障を前面に打ち出せば、韓国の勝訴は難しい。

それ以上に、訴訟手続きや2審まで続く時間的な余裕はない。韓国企業の在庫は短いもので1か月、長くても半年ほどで、仮にWTOに提訴をしても決定が下されるまでに韓国企業が被る損害は甚大だ。

日本製品不買運動が起きてはいるが......

韓国中小商人自営業者総連合会が日本製品の販売を中止すると発表し、ネットには日本旅行の中止を呼びかける書き込みや日本出身のK-POPアイドルを追い出そうという声も載せられている。しかし、経済専門家は日本経済に与えるダメージは小さく、感情の溝を深めるに過ぎないと懸念する。長期化すれば韓国企業の損害が拡大し、仮に、たとえば韓国でユニクロの売上げが急減したとしても、被害をかぶるのは店舗と韓国人従業員なのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 5
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 10
    女教師の「密着レギンス」にNG判定...その姿にネット…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 4
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中