最新記事

株式市場

株価崩壊は当然だ──アメリカの好景気はフェイクだった 

2018年2月9日(金)17時30分
ジョナサン・ニューマン

米株価が過去最大の暴落を演じた2月5日のニューヨーク証券取引所 Brendan McDermid-REUTERS

<10年も続いた株高が、実体経済の反映のはずがない。ここから落ちたからといって驚くにはあたらない>

米株価は2009年に底を打ってから、ボラリティー(価格変動率)もほとんどなく安定して上昇を続けてきたが、2月に入って急落した。1月に付けた最高値から、ダウ工業株30種平均は2200ポイント以上も下落(-8.5%)、スタンダード&プアーズ(S&P)500社株価指数も7.9%下落した。

投資家心理を測る指標とされるアメリカ株の変動性指数(VIX)、別名「恐怖指数」は、2009年や2011年以来のレベルに急騰し、株価急落に拍車をかけた。

金融アナアリストや専門家は、暴落の要因を主に3つ挙げた。

・米税制改革であらゆる企業に対する先行き不透明感が強まった。

・債券市場で米長期金利が上昇し、インフレへの警戒感が広がった。

・インフレ懸念に加え、米労働省が2月2日に発表した1月の米雇用統計で賃金の伸び率が市場予想を上回ったことから、FRB(米連邦準備制度理事会)がそれを口実に利上げペースを上げる、との観測が高まった。


だが株価暴落の真相を突き止めるには、2007~2008年の金融危機まで遡ってFRBの対応を振り返る必要がある。

■前例のない金融政策

サブプライム危機からリーマン・ショックにつながった2007~2008年の金融危機が実体経済にも壊滅的な影響を及ぼすなか、FRBは前例のない行動に出た。大規模な量的緩和で市場にお金を供給するとともに、FRBが銀行に資金を貸し付けるときのフェデラルファンド(FF)金利を事実上ゼロにした。

FRBは数兆ドルの資金を金融市場や銀行に供給し、企業がかつてなく低コストで資金を調達できるようにすることで、投資と雇用を刺激した。

住宅価格や資産価格(株価を含む)の下落に歯止めをかけ、2000年代半ばまで続いた上昇基調に戻ることを目指した。

FRBを大胆な政策に踏み切らせたのは株価暴落と住宅バブル崩壊だ。それは病気の原因や進行具合を教えてくれるX線画像のようなもので、画像を加工して病気を消してしまっては、医者も患者も正しい治療はできない。

FRBは、異例の大胆な金融政策をとることにより、この2つの病巣を世間から覆い隠してしまった。米経済に必要だった健全な調整の機会を奪ったのだ。

■市場金利の重要性

オーストリアのルートヴィヒ・フォン・ミーゼスは、中央銀行が「景気循環」の元凶だと初めて指摘した偉大な経済学者だ。彼によれば、企業はどの事業に取り組み、従業員を何人雇用して、どのような資本財が必要か、市場金利に基づいて判断している。中央銀行が介入しなければ、借り手と貸手の間の需給バランスを取るうえで重要な役割を果たすのが金利だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾閣僚、「中国は武力行使を準備」 陥落すればアジ

ワールド

米控訴裁、中南米4カ国からの移民の保護取り消しを支

ワールド

アングル:米保守派カーク氏殺害の疑い ユタ州在住の

ワールド

米トランプ政権、子ども死亡25例を「新型コロナワク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 8
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中