最新記事

北朝鮮拉致問題

ジェンキンス死去、波乱の人生の平穏な最終章

2017年12月21日(木)12時00分
山田敏弘(ジャーナリスト)

倒れている父を娘が発見

さらに追い打ちをかけるように、17年4月には自宅で転倒して足首を骨折した。手術をしてボルト2本を入れなければいけないほどのけがで、それからは右手で杖を突いて歩くように。もともと丈夫ではなかった足腰がさらに弱くなった。

ただそんな中でも曽我家にはうれしい知らせが届いた。8月、次女に男児が生まれたのだ。すぐに夫婦そろって新潟県西部に暮らす次女の元を訪ね、初孫の誕生を祝った。結果的に、これが曽我夫婦にとっては、最後の旅行になった。本間は「目元がジェンキンスさんそっくりだね」と言われて相好を崩す姿が今も脳裏に焼き付いている。

骨折の後、今も同居する長女の美花は帰宅が少し遅くなると自宅で一人きりのジェンキンスのことを心配し、帰りの車では気をもんだ。「自宅に着いて何も異常がないとホッとする」と知人に漏らしていた。

しかし12月11日、恐れていたことが現実になった。自宅前でジェンキンスが倒れているのを最初に発見したのは美花だった。ショックは大きいはずだが、通夜の日、知人に連絡して「心配をおかけしてすみません」と気丈に振る舞ったという。

帰国直後から曽我の専属ソーシャルワーカーを務めた伊藤環は、「また家族と『離れ離れ』になったひとみさんが気の毒でならない」と言う。曽我は、ジェンキンス死亡のニュースを受けて、「今は何も考えられません」とコメントするのが精いっぱいだった。

ジェンキンスは曽我と再会して日本に渡り、ようやく人間らしい生活を送ることができた。そして不自由のない穏やかな暮らしの中で、人間らしいささやかな喜びや悲しみを感じながら、数奇だった人生を全うした。

<本誌2017年12月26日号[最新号]掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中