最新記事

アメリカ社会

孤独なオタクをのみ込む極右旋風

2017年12月15日(金)17時30分
ウィリアム・ヒックス

magw171215-us02.jpg

シャーロッツビルでの白人至上主義者の集会にはオルト・ファーリーも参加したという Samuel Corum-Anadolu Agency/GETTY IMAGES

それでも、ファーリーのイベントから仲間が締め出されるのは意外でないと言う。「社会正義を振りかざす連中が取り仕切っていることが多いから」

もっとも、オルト・ファーリーと白人至上主義者、そしてシャーロッツビルの事件の間には現実につながりがある。

ディオが暴露したディスコードのチャット記録によれば、ダイアニシャスは前述の作品を、シャーロッツビルにおけるオルト・ライトの有名な指導者、クリストファー・キャントウェルに送っている。彼のYouTube番組で取り上げてもらおうとしたのだ。

白人至上主義者とオルト・ファーリーのつながりを体現する人物と言えば、若いオルト・ライトでネオナチのネーサン・ゲイトだろう。

彼は自分のことをファーリーだとは思っていないが、ディスコード上のオルト・ファーリーのグループ立ち上げに参加。カリフォルニア州でのファーリー・イベントへの反対運動を展開したりしている。

シャーロッツビルでのデモでは2時間半に及ぶネット中継を行ったが、ゲイトの周囲には白いポロシャツを着たネオナチや武装した民兵、著名な白人至上主義者のデービッド・デュークらがいた。

狙われる「孤独な人々」

ゲイトの18歳の恋人、KKキューティーはネオナチに取り込まれたファーリーの好例だ。数カ月前まで普通のファーリーだった彼女はディスコードで非常に過激な投稿を繰り返しており、ディオを殺すために殺し屋を雇うと提案したのも彼女だ。

「多くのファーリーに、オルト・ファーリーはある種の脱出をもたらす」とKKキューティーは語っている。「右傾化が進めば身も心も成熟を始め、ファーリーから卒業し、本物の政治活動に身を投じることになる。私もそうだし、友人たちも同じ道をたどってきた」

彼女はオルト・ライトの影響で過激な白人至上主義者になったと述べている。だがチャット記録からは、ファーリー向けの作品制作で金を稼ぐ話をする一方で、彼女のファーリーに対する蔑視が膨らんでいくさまが見て取れる。「私がファーリーのポルノを描けば、連中はお金をくれる。そして財布が空っぽになって飢えて、サヨクも変態も死んでいく」

こうした発言はオルト・ライトに対する自分の見方の正しさを裏付けているとディオは言う。「彼ら(白人至上主義者)はオタク集団を利用する。苦々しく悲しい思いを抱えた孤独な人々がたくさんいる『草刈り場』だからだ」

冒頭のジュニアスが配った反ファシズムのステッカーはすぐに品切れになった。シャーロッツビルの被害者支援基金への寄付も集まった。入場を禁止されたオルト・ファーリーたちと比べ、はるかに支持を集めている印象だ。

それでもオルト・ファーリーをめぐる議論や対立は今も渦巻いている。もふもふの毛皮もぎすぎすした空気を和らげるには役立っていないようだ。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!

気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを

ウイークデーの朝にお届けします。

ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年12月12日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、金利据え置き インフレ巡る「進展の欠如」指

ビジネス

米3月求人件数848.8万件、約3年ぶり低水準 労

ビジネス

米ADP民間雇用、4月は19.2万人増 予想上回る

ビジネス

EXCLUSIVE-米シティ、融資で多額損失発生も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中