最新記事

日本企業

検査データ改ざんはBtoBビジネスへの甘え? 契約軽視の日本的風潮

2017年11月28日(火)19時20分

11月28日、経団連会長の出身企業にまで及んだ製品検査データの改ざん問題。神戸製鋼所、三菱マテリアルの子会社に続き、東レの子会社でも起きた同様の事例で、会社側から口をそろえて出てくるのは「安全性に問題はない」という言葉だ。写真は子会社の検査データの改ざん問題で記者会見する東レの日覚昭広社長(2017年 ロイター/Issei Kato)

経団連会長の出身企業にまで及んだ製品検査データの改ざん問題。神戸製鋼所<5406.T>、三菱マテリアル<5711.T>の子会社に続き、東レ<3402.T>の子会社でも起きた同様の事例で、会社側から口をそろえて出てくるのは「安全性に問題はない」という言葉だ。そこには、BtoBビジネスにおける契約軽視の風潮が見えてくる。

データかい離は僅差、安全性に問題なしは共通

一連の製品検査データの改ざん事案に共通するのは、納入先と契約した数値を外れたため数値を改ざんしたものの、安全性確保に必要な数値はクリアしており、製品として問題はないとされる点だ。

契約した数値を下回っていても、納入先の了解を得て納入する「特別採用(トクサイ)」。製造業では当たり前の取引だという。ただ、神戸鋼でも東レでも、納入先の了承を得ておらず「トクサイの悪用」(神戸鋼幹部)とも言える。

東レの日覚昭広社長は28日の会見で「大きく数値が離れたものは全部没にしている。(今回の事例は)僅差だ。以前にそれよりも低い数字のモノで、顧客にきちっと話をして採用され、問題がないという経験があり、顧客への説明や相談なしに勝手に改ざんした」と、今回の事案の原因を分析。そのうえで「測定誤差や品質性能のバラつき、使用時の安全係数などを考えれば、全然問題のない数字と判断できる」と述べた。

東レの発表リリースでは「例えば、コードの強さに関する検査項目である強力について、規格値が260ニュートン以上であるのに対し、検査値が258ニュートンとなった場合に260と書き換えていたなど、何れも規格値からのかい離がごくわずかであり、規格内製品と実質的な差はないと考えている」と、安全性とともに、僅差を強調する記述がある。

民間同士の契約

「民間の・・・という言葉はショックだった。この言葉が一連の問題を象徴している」──。中島経営法律事務所代表弁護士の中島茂氏はこう話す。今回不正が明らかになっている企業は、法令や日本工業規格(JIS)の基準を満たすことが目的化しており、民間同士の契約順守の姿勢が甘くなっていたとみている。「納入先から求められていたスペックはオーバースペックかもしれないが、川下メーカーが何故、こうした余裕を持った基準を求めたかということを厳密に契約時に話し合うべきだった」とし、エンドユーザーの視点が希薄になっていたと指摘する。

実際、神戸鋼の勝川四志彦・常務執行役員は「素材メーカーは複雑なサプライチェーンの一番上流にいて、顧客がどういう風に作って、次の工程に流通させて、最終消費者にどう届くか、なかなか分かり難い。非常に複雑」と話している。最終製品に対する想像力の欠如が、素材メーカーが部品メーカーと結ぶ民間同士の契約の軽視につながっているとも言える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、新誘導技術搭載の弾道ミサイル実験

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年に2%目標まで低下へ=E

ビジネス

米国株式市場=ダウ終値で初の4万ドル台、利下げ観測
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中