最新記事

アメリカ社会

米製薬大手、中毒性のオピオイド「密売」でCEOら逮捕

2017年10月27日(金)19時04分
メリナ・デルキック

アメリカでは鎮痛剤オピオイドの中毒患者や過剰摂取による死者が急増している Brian Snyder- REUTERS

<トランプ米大統領が非常事態を宣言した「オピオイド危機」の背景には、製薬会社の過剰な売り込みがあった>

米捜査当局は10月26日、医師らに賄賂を渡し、鎮痛剤「オピオイド」を必要ない患者にまで処方させたとして、米製薬会社大手インシス・セラピューティクス(Insys Therapeutics)のジョン・カプール最高経営責任者(CEO)らを逮捕した。

アメリカではオピオイドの乱用による死者が急増しており、ドナルド・トランプ米大統領は同日、全米を蝕む「オピオイド危機」に対して公衆衛生上の非常事態を宣言した。乱用の背景にあるとされる製薬会社の過剰な売り込みに対し、当局も取り締まりを強化していた。

オピオイドは、ケシを原料に作る医療用鎮痛剤の総称で、モルヒネ、コデイン、フェンタニルなども含まれる。がんの強い痛みに効果があるが中毒性も強い。それが怪我や関節痛など通常の痛みに対しても安易に処方されてきたせいで中毒になる人が続出。米疾病対策センター(CDC)によれば、中毒患者数はざっと200万人、過剰摂取による死者は2016年だけで6万4000人に達している。

今回逮捕されたインシスの創業者でビリオネア(富豪)のカプールの容疑について、米司法省は「本来はがん患者の痛みを抑えるために処方されるオピオイドの一種、フェンタニル・スプレーを過剰に処方させ、不当な利益を得た」と発表した。医師に賄賂を渡し、フェンタニルを有効成分とする鎮痛剤「サブシス(SUBSYS)」を患者に処方させた罪に問われている。

「麻薬密売人も同然」

裁判所の記録によれば、カプールとマイケル・バビック元CEOは、医師や薬剤師に対し、講演料やマーケティング費、食費、娯楽費などの名目で、リベートや賄賂を渡していた。

同社のアレック・バーラコフ元営業担当副社長は、講演を依頼する医師について、「講演の質は問わない」と部下へのメールに書いていた。「必要なのは、大量の処方箋を書いてくれる医者だ」

がん以外の患者にはオピオイドを認めない保険会社には、従業員が身元を偽って電話をかけ、患者の病状や痛みの程度などについて嘘の説明をさせた。

「がん患者のための鎮痛剤で中毒性が高いオピオイドをがんでもない患者に売りつけるのは、麻薬密売人と変わらない」と、米連邦捜査局(FBI)ボストン支局主任特別捜査官ハロルド・ショウはインシス幹部を非難した。

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米小売業者、感謝祭用にお得な食事セットを宣伝

ワールド

カナダ、はしか排除国認定を30年ぶり失う=汎米保健

ワールド

米国は「経済的大惨事」に、関税違憲判断なら トラン

ワールド

ロシア、戦争終結の取り組み「行き詰まり」 ウクライ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 7
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中