最新記事

米軍事

トランプ、米国防費「歴史的増強」の財源はどこにあるのか

2017年2月28日(火)18時00分
ジョン・ハドソン、モリー・オトゥール

米ワシントン郊外の国防総省ビル(2005年)

<トランプは米国防費を大幅に増やす意向。その増加分だけで、ロシアの年間国防費に相当する。一方で世論への配慮から社会保障費は削らないと公約しており、犠牲になるのは、政治的に削りやすい外交予算や対外援助費かもしれない>

アメリカのドナルド・トランプ大統領は2月27日、2018年度の国防費を前年度比10%、540億ドル増やすという「歴史的拡大」を約束し、米外交官や安全保障専門家を驚かせた。増額分は、国務省およびそのほかの連邦政府機関の予算を削減して充てる予定だという。

当局者の話では、国務省は48時間以内に予算削減案をホワイトハウスに提出し、最大で30%のカットを目指さなければならないようだ。この大胆な要請を受けて、国務省は対外援助プログラムの廃止と省内の大規模再編を余儀なくされるだろう。

【参考記事】米国防費の膨張が止まらない!

ホワイトハウスによる今回の予算案は、政府と連邦政府機関の間で交わされる予算折衝の第一弾にすぎない。また、折衝が終わった後、議会で承認を受けなくてはならない。しかし、トランプによる初の予算案の大筋は、米外交官と対外援助推進団体に再び疑いを抱かせた。主席戦略官スティーブ・バノン率いるホワイトハウスは、外交や国務省が広い意味で安全保障に果たす役割をほとんど重視していないのではないか、という疑いだ。

「ホワイトハウスは国務省に対して、基本的にこう告げている。『これからはもっと小さい靴を履きなさい。さて、どの指を切り落とそうか?と」。対外援助を推し進める非営利団体ベター・ワールド・キャンペーンのプレジデントを務めるピーター・ヨーは本誌に語った。

【参考記事】トランプ政権の国防を担うクールな荒くれ者

外交なら政治的に削減可能

ホワイトハウスは国防費の大幅増額に伴い、財政赤字が膨らまないよう政府内の他部門で予算を削減したい考えだ。ただし、トランプはすでにメディケア(高齢者向け公的医療保険)や社会保障の削減は行わないと公言しているため、予算削減は政治的に可能な分野で行うことになる。

とはいえ、それでやりくりが可能かどうかはわからない。国務省などの政府機関の規模は、国防総省とは比べものにならないくらい小さいからだ。

「外交や開発の予算を大幅に削減して軍事費増分を埋め合わせようとするのはばかげているし、数字を見ても不可能だ。国務省予算と開発予算は連邦政府支出全体の1%にすぎない」とデラウェア州選出の民主党上院議員クリス・クーンズは話す。

【参考記事】トランプを追い出す4つの選択肢──弾劾や軍事クーデターもあり

連邦政府機関は一般的に、大統領に厳しい予算要求を突きつけられても何とか対応している。しかし、トランプの予算削減要求はあまりにも大きい。エクソンモービルのCEOだったレックス・ティラーソン国務長官は自前の人脈も経験も不足している。

「ティラーソンは人材の配置もまだ途中。これは難しい課題だ」と、ヨーは言う。そもそも、右腕となる国務副長官がまだ決まっていないのだ。「ティラーソンはどの程度削減するのだろうか。削減要求に従うのだろうか。48時間で答えを出せというのは極めて異例だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド総選挙、2回目の投票始まる 与党優位揺るがず

ワールド

米中関係の「マイナス要因」なお蓄積と中国外相、米国

ビジネス

デンソーの今期営業益予想87%増、政策保有株は全株

ワールド

トランプ氏、大学生のガザ攻撃反対は「とてつもないヘ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中