最新記事

尖閣諸島

中国漁船300隻が尖閣来襲、「異例」の事態の「意外」な背景

2016年8月12日(金)15時46分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

China Daily-REUTERS

<8月に入って突然、尖閣諸島をめぐり日中関係が緊迫化している。エスカレートする異常事態に日本政府も危機感を募らせているが、中国はなぜこれほどの強硬姿勢に出ているのか。実は尖閣だけでなく、対韓国、南シナ海でも中国外交は"異例"尽くしの状態。その原因は、河北省の避暑地で行われている"夏休み中の井戸端会議"にある> (写真:後ろから、元総書記の胡錦濤と江沢民、現総書記の習近平、2014年撮影)

 2016年8月、尖閣諸島をめぐる情勢が風雲急を告げている。300隻もの中国漁船が尖閣諸島近海に来襲した。その漁船を守るかのように中国公船も多数随行している。今までにない数の襲来に日本政府も態度を硬化、強い抗議を繰り返している。突然の日中関係緊迫は何を背景としているのだろうか。

 この間の尖閣情勢については海上保安庁の文書「尖閣諸島周辺海域における中国公船及び中国漁船の活動状況について」(2016年8月9日付)が詳しい。一部を引用しよう(ちなみにその前に出された緊急通達は「Pokemon GO利用者の方々へ」。防波堤を歩いている時や操船中のゲームはやめようという呼びかけである。中国とポケモンという2つの注意喚起が縦並びになっている図はなかなか見られるものではない)。


 平成28年8月5日午後1時30 分頃、中国漁船に続いて、中国公船(中国政府に所属する船舶)1隻が尖閣諸島周辺領海に侵入した。その後、8日午後6時までに、最大15隻の中国公船が同時に接続水域に入域、延べ17隻が領海に侵入した。
 約200~300 隻の漁船が尖閣諸島周辺の接続水域で操業するなかで、最大15隻という多数の中国公船も同じ海域に集結し、中国漁船に続いて領海侵入を繰り返すといった事象が確認されたのは今回が初めてである。

 文書が率直に記すとおり、今回の事態はきわめて"異例"だ。中国は毎年初夏に東シナ海の禁漁期をもうけている。禁漁期あけに大量の漁船が尖閣諸島近海に出没するのはいつものことだが、今年は接続水域にまで接近する漁船が多い。8月5日から8月8日までに日本領海に侵入し退去警告を受けた中国漁船はのべ43隻。2015年通年で70隻だったが、わずか4日間で昨年の半数以上という異常な数を記録している。また、中国公船は尖閣諸島に定期パトロールを行っているが、今回は定期パトロールではなく漁船の随行が目的のようで、領海・接続水域での侵入数は過去に例のないレベルに達している。

 この異常事態に日本政府も危機感を募らせている。外務省は怒りの抗議ラッシュを展開。まずは外務省アジア太平洋局長から始まり、次第にポジションを上げながら抗議を行っている。抗議レベルを引き上げていくという外交手法である。もっとも、抗議などどこ吹く風と次々に中国公船が領海に侵入してくるため、レベルは驚くべきペースで上がってきている。

 そのスピード感を如実に示すのが8月7日の郭燕・在京大公使への抗議だろう。午前8時29分に外務省の金杉アジア大洋州局長に抗議され、午後2時に滝崎アジア大洋州局審議官から2発目。午後8時10分に石兼総合外交政策局長から3発目。わずか1時間後の午後9時20分には同じく石兼氏から4発目の抗議。そして午後11時15分に朝一で会った金杉氏から5回目の抗議を受けている。仕事だから仕方がないと言えばそれまでだが、朝一から日付が変わる直前まで怒られ続けるのはせつない仕事としか言いようがない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中