最新記事

通貨

人民元をSDR構成通貨にさせた習近平の戦略

2015年12月2日(水)16時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

習近平の賭け SDR構成通貨入りを果たした人民元は円を抜き世界3位に axz66-iStock

 11月30日のIMF理事会は人民元の国際通貨入りを決定。構成比率は日本円を凌駕し第3位に。習政権の反腐敗運動の目的の一つは「金融の透明化」だが、今般の決定を自国の国有企業改革の外的圧力にするつもりだ。

円を上回った人民元

 IMF(国際通貨基金)は、11月30日に開かれた理事会で、外貨不足に陥った加盟国に外貨を融通する「特別引き出し権(Special Drawing Rights:SDR)」の構成通貨に、人民元を採用することを決定した。11月1日付けの本コラム「南シナ海、米中心理戦を読み解く――焦っているのはどちらか?」でも述べたように、ドル、ユーロ、ポンド、日本円に次ぐ、第5の国際通貨(準備通貨)として人民元を認めたのである。

 そればかりではない。

 SDR構成比率において、人民元は10.92%と、ドル(41.73%)、ユーロ(30.93%)に次ぐ3番目の構成通貨として、日本円(8.33%)を凌駕した。この構成比率は貿易と金融取引の度合いをベースに算出される。つまり国際社会における貿易と金融取引において、中国が日本を抜いたということである。

反腐敗運動は「金融の透明化」をアピールするため

 筆者は、胡錦濤政権時代のチャイナ・ナインにおいては激しい権力闘争が起きていたことを『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』で描いた。一方、習近平政権のチャイナ・セブンにおいては、習近平総書記&国家主席自身が江沢民の推薦によってのし上がってきた男であるため、反腐敗運動は権力闘争ではないと主張し続けてきた。

 しかし日本のメディアや中国研究者は、筆者が植え付けてしまったチャイナ・ナインの権力闘争という概念から抜け出すことができず、習近平政権になってもなお、この「権力闘争説」で中国を分析しようとして、日本人を喜ばせた。その方が面白いし、「ああ、習近平政権はダメだなぁ」と思うことができるので、痛快になるからであろう。

 これがいかに間違っているかは、今般のIMFが出した結果を見ても明らかだ。

 これまで何度も随所で書いてきたが、反腐敗運動は権力闘争ではなく、その第一の目的は共産党一党支配体制をなんとか崩壊させないようにするためだが、もう一つの大きな目的は、腐敗を撲滅しようとする姿勢を見せることによって「金融の透明性」を国際社会にアピールしようとしたことにある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ブラジル失業率、8─10月は7.6% 7期連続で改

ビジネス

米FRB、高金利長期間維持なら緩やかな景気後退も=

ビジネス

寄り付きの日経平均は続伸、ハイテク株軟調で小幅安に

ビジネス

失業率10月は2.5%に改善、有効求人倍率1.30
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ間に合う 新NISA投資入門
特集:まだ間に合う 新NISA投資入門
2023年12月 5日号(11/28発売)

インフレが迫り、貯蓄だけでもう資産は守れない。「投資新時代」のサバイバル術

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ミャンマー分裂?内戦拡大で中国が軍事介入の構え

  • 2

    米空軍の最新鋭ステルス爆撃機「B-21レイダー」は中国の次世代超音速ミサイルにかなわない?

  • 3

    最新の「四角い潜水艦」で中国がインド太平洋の覇者になる?

  • 4

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不…

  • 5

    「大谷翔平の犬」コーイケルホンディエに隠された深…

  • 6

    男たちが立ち上がる『ゴジラ-1.0』のご都合主義

  • 7

    <動画>ロシア攻撃ヘリKa-52が自軍装甲車MT-LBを破…

  • 8

    働けるのに「あえて働かない」人たち...空前の「人手…

  • 9

    1日平均1万3000人? 中国北部で「子供の肺炎」急増の…

  • 10

    なぜアメリカは今、ウクライナのために「敗戦」を望…

  • 1

    <動画>ロシア攻撃ヘリKa-52が自軍装甲車MT-LBを破壊する瞬間

  • 2

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不意打ちだった」露運輸相

  • 3

    「超兵器」ウクライナ自爆ドローンを相手に、「シャベル1本」で立ち向かうロシア兵の映像が注目集める

  • 4

    「大谷翔平の犬」コーイケルホンディエに隠された深…

  • 5

    下半身が「丸見え」...これで合ってるの? セレブ花…

  • 6

    ミャンマー分裂?内戦拡大で中国が軍事介入の構え

  • 7

    米空軍の最新鋭ステルス爆撃機「B-21レイダー」は中…

  • 8

    ヨーロッパに「鉄のカーテン」が復活──ロシアの新種…

  • 9

    またやられてる!ロシアの見かけ倒し主力戦車T-90Mの…

  • 10

    最新の「四角い潜水艦」で中国がインド太平洋の覇者…

  • 1

    <動画>裸の男が何人も...戦闘拒否して脱がされ、「穴」に放り込まれたロシア兵たち

  • 2

    <動画>ウクライナ軍がHIMARSでロシアの多連装ロケットシステムを爆砕する瞬間

  • 3

    「アルツハイマー型認知症は腸内細菌を通じて伝染する」とラット実験で実証される

  • 4

    戦闘動画がハリウッドを超えた?早朝のアウディーイ…

  • 5

    リフォーム中のTikToker、壁紙を剥がしたら「隠し扉…

  • 6

    <動画>ロシア攻撃ヘリKa-52が自軍装甲車MT-LBを破…

  • 7

    ここまで効果的...ロシアが誇る黒海艦隊の揚陸艦を撃…

  • 8

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不…

  • 9

    <動画>ウクライナ軍ドローンが、「奪還」したドニ…

  • 10

    また撃破!ウクライナにとってロシア黒海艦隊が最重…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中