最新記事

ロシア

プーチンがイラン核合意を支持した思惑

デメリットもある対イラン経済制裁解除で譲歩したのは地政学的な理由から

2015年8月5日(水)17時30分
ジョシュア・キーティング

協力的 オバマが感謝の電話をするほど素直?だったプーチン Alexei Druzhinin-REUTERS

 イランの核問題をめぐる協議が終了した翌日、オバマ米大統領はロシアのプーチン大統領に電話をかけた。合意成立に協力したプーチンに感謝するためだ。近頃の欧米とロシアのとげとげしいムードからすればロシアの協力姿勢は、イランが制裁解除の条件をすんなり受け入れたこと以上に、驚くべき展開だった。

 ロシアを含む国連安全保障理事会は先週、イランとアメリカなど6カ国が取り決めた核合意を正式に承認した。これにより安保理決議による制裁は、イランの合意内容履行が確認され次第、解除されることになる。

 核合意にはいわゆる「スナップバック」条項が含まれている。イランが合意内容に違反したら、安保理の決議を経ずに自動的に制裁が復活するというものだ。

 この異例の条項が設けられたのは、安保理の常任理事国にイラン寄りのロシアと中国が含まれているからだ。再びイランに制裁を科す必要が生じたときに、ロシアか中国が拒否権を行使すれば困った事態になる。 

 プーチンにとって安保理における拒否権は大国の証しだ。みすみすそれを放棄するような条項をなぜ認めたのだろう。

 中国が核協議で欧米と歩調を合わせた理由は分かる。中国はイランの最大の貿易相手国であり、イランの制裁が解除されれば大きな経済的メリットがある。だが、ロシアの場合はそれほど単純ではない。制裁解除でイランがエネルギー輸出を再開すれば、ロシア経済の息の根を止めてきた原油と天然ガス価格の下落は一段と進む。

 おそらくプーチンは自国の経済的な利益よりも地政学的なメリットを重視しているのだろう。制裁を解除すれば、イランは再び中東でアメリカとサウジアラビアに対抗する地域大国になる──米議会のタカ派はそう主張して核合意に反対してきた。プーチンも彼らと同じ意見のようだ。ただしプーチンにとっては、イランの影響力拡大は脅威ではなく、好都合な事態なのだ。

© 2015, Slate

[2015年8月 4日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ベゾス氏、製造業・航空宇宙向けAI開発新興企業の共

ワールド

米FEMA局長代行が退任、在職わずか6カ月 災害対

ビジネス

米国株式市場=大幅安、雇用統計・エヌビディア決算を

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロ・円で上昇、経済指標の発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中