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泣けて笑える『オーケストラ!』の人生讃歌

Music Is My Life

ロシア人演奏家たちのちょっぴりおかしくて、感動的な再起の物語を作り上げたラデュ・ミヘイレアニュ監督に聞く

2010年4月16日(金)14時45分
大橋希

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 ボリショイ交響楽団でユダヤ人が排斥され、彼らをかばったロシア人が解雇される。ソ連時代のそんな史実がベースになった映画『オーケストラ!』では30年後、今や落ちぶれたロシア人元演奏家たちが偽オーケストラを結成しパリで公演する(日本公開は4月17日)。

 コメディタッチで、人生をやり直す人々の物語を作り上げたラデュ・ミヘイレアニュ監督に聞いた。

----既に脚本があったとか。

脚本じゃなくて、粗筋のメモだよ。「香港で偽オーケストラが公演」という実話に基づくものだったけど、そのアイデアだけもらってあとはゴミ箱に捨ててしまった。
それから脚本家のアランミシェル・ブランとモスクワに行って、1から脚本を書いた。

----悲しい題材をユーモアをもって描くことの効果を意識した?

 私は「絶望的な楽観主義者」。悲劇的な困難をユーモアで乗り越えていくことが人生では大事だと思っている。それこそが美しい。

----楽団員たちの再起にどんなメッセージを込めたのか。

 人間誰でも裏切られたり、困難にぶち当たることはある。それは病気だったり、家族や愛情問題だったり、政治的・社会的規制によるものだったりするかもしれないが。そうした逆境をどうやって尊厳をもって乗り越えて行けるのか、愛を取り戻すことができるのかというのは人間にとって永遠の課題だ。
 
 世界的な経済危機が言われているが、それは経済危機ではなく人間が自信を喪失したことの危機だと私は思っている。この映画は、自己愛や他人への愛、問題解決能力といったものを人々が取り戻すための応援歌だと言っていい。

----ロシア人がかなりやぼったく描かれている。あなたが現地に行って感じた印象だろうか。

 ロシアを訪れてみて、いろんな要素、いろんな人々が絡み合う複雑な社会だと分かった。旧共産圏の国々で見られることだが、特に50、60代の人たちは「旧共産圏の過去」「現在と未来」の2つの世界を行ったり来たりしている。時代遅れの服を着せることで、矛盾の中に生きる彼らの姿を表現したかった。

 反対に、彼らが公演を行うフランスはモダンで色鮮やかで、表面的には非常に洗練されている。でも、人々の魂は眠っているようなところもある。逆にロシア人は流行遅れの服を着ていても、心の中には強いエネルギーを秘めている。その対比も引き出したかった。

----ロシア人たちのフランス語の「言い間違いシーン」がおもしろかった。

 私自身の体験が基になっている。私は80年代にフランスに渡ったが、本で読んだ、つまり19世紀フランス文学で学んだようなフランス語をしゃべろうとしていた。そうすると言葉の取り違えがよくあって、周りのフランス人にもよく笑われた。

 19世紀には高貴でチャーミングな言い回しも、今ではまったく別の意味にとられることがある。映画の中でもそうした言葉のズレによって、周囲とのズレやユーモアを表現したんだ。

----あなたは楽器をやったりしないのか?

 音楽は私にとって崇高な芸術であり、国境のない表現手段。クラシック以外にもさまざまなジャンルの曲を聴くし、音楽を「想像」したりもする。

 映画を撮る上で音楽は非常に重要な要素なので、作品のイメージに合った音楽を頭の中で想像するんだ。それを担当の作曲家に伝えて、「この楽器を使う」「こういったリズムで」と話し合いながら曲を作っていく。私は作曲家を通して自分が楽器を弾いているような、実際に合奏しているような気持ちでいる。

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