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大学入試「現代文」の人──山崎正和から託されたもの

2020年12月21日(月)16時50分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

ニューヨークで英語版「世阿弥」上演の頃(1964年)、『別冊アステイオン それぞれの山崎正和』322ページより ©サントリー文化財団

<2020年8月19日、86歳でこの世を去った山崎正和。「戦後最後の知識人」などと訃報が報じられたが、「劇作家」が唱えた「社交」、そして「公徳心」という私たちへのメッセージとは何だったのか>

あなたが山崎正和の名を初めて見聞きしたのはどこであっただろうか。政府・行政機関の有識者として新聞などメディアを通じて知っている人もいるだろうが、多くの人にとっては「水の東西」『社交する人間』『柔らかい個人主義の誕生』など、大学入試や模試の「現代文」での出合いだったのではないだろうか。

その「現代文の人」は今年8月19日、86歳でこの世を去った。「戦後最後の知識人」「知の巨人」など各メディアで訃報が報じられたが、山崎正和ほどいったい何者であったかを一言でいい表すことが難しい人はいない。

その山崎自身が1986年に創刊した論壇誌「アステイオン」が、『別冊アステイオン それぞれの山崎正和』(CCCメディアハウス)を刊行した。60名を超える執筆者が山崎の業績や思い出を綴っている。

こだわり続けた「劇作家」という肩書き

「劇作家」「文筆家」、政府・行政機関での「提言者」、社会事業の「貢献者」としての山崎を章立てにしているが、一括りにはできない難しさがあったのだろう。その功績が章をオーバーラップしている箇所が多く見受けられる。しかし、特筆に値するのは、劇作家としての山崎を論じた「第1章 創作者」ではないだろうか。

山崎は自分の肩書きを「劇作家」とし、名刺やプロフィールにそう記していた。しかし、1970年半ば以降は論壇の論客として活躍していたため、多くの人にとって「劇作家」はあまりピンとこないのも事実であった。

おそらく今、この記事を読んでいる読者の中で、山崎が劇作家として華々しくデビューしたことを記憶している人はほとんどいないだろう。それもそのはず、1960年代前半の話だからだ。その山崎がなぜ「劇作家」という肩書きにこだわり、「意地」で名乗り続けたかという理由が山崎自身の言葉で綴られた貴重な証言の史料と写真に収められている。

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