最新記事

ポストコロナを生き抜く 日本への提言

ロバート キャンベル「きれいな組織図と『安定』の揺らぎ」

JAPAN TURNS FLAT

2020年5月4日(月)10時35分
ロバート キャンベル(日本文学研究者、国文学研究資料館長)

平常時には職位の順に並んで座っていた会議がフラット化した EVENING_T/ISTOCK

<電子媒体で「多声化」する打ち合わせ――。コロナ禍を機に日本社会は変わるかもしれない。日本文学研究者で国文学研究資料館長のキャンベル氏による、本誌「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集への寄稿より>

それなりに人数の多い研究所の館長を務めている。わたくしは館長というよりも艦長みたいに、今年の3月は静かな海が戻るまで甲板の上にずっと立っていたかった。
2020050512issue_cover_200.png
職員が在宅勤務をするために館内ネットワークへのアクセスを確保することや、全員の通信環境が在宅に耐えられるかを確認すること、どうしても出て来なければ業務が回らないという人に対しては出勤ローテーション表を確定すること等々、われらが船体を襲ってくる日々の波を受けながら「確」という漢字と睨めっこしていた。

4月に緊急事態宣言が出され、出勤者の数をほぼ7割削減せよ、出退勤はラッシュを避けよ、等々に対応した上で、全ての業務をメールまたは電話あるいはテレビ会議に切り替えることを率先して行った。艦長がいつまでも甲板の上にいては具合が悪いので中旬以降は自宅にいて会議やメールなどの海を泳いでいる。

ご多分に漏れずズーム(Zoom)を使ってもろもろの打ち合わせを重ねている。平常時であれば7、8人ほどを館長室に呼び、大きな木の机を囲みながら報告し合ったり、ディスカッションを繰り広げる。館長は一番奥まった席に座るのが通例で、わたくしの両隣を副館長や部長が陣取り、続いて職位の順に課長、係長と下り、一番入り口に近い席には係員が居並んでいる。メンバーが代わっても、上から下へと、きれいな組織図を描いて埋まっていく。

そもそも、日本語の「きれいに」という言葉は、そのように個体が一個一個あるべき姿に整えられ、表面をびっしり覆う状態を言う。一家全員のソックスが1つの抽出(ひきだし)にビシッと「きれいに」仕舞われているようなイメージである。

Zoomだと逆である。手前と奥、上と下という遠近法や秩序は存在しない。ミーティングは二次元のモニターの中では完全にフラットである。入ってくる順に各自の画像が並び、操作次第ではまた順番がスクランブルされてしまう。7人なら7人、各画像の下に表示される名称で本人が登録し、「部長」だとか「係長」だとかいう呼び方は現れない。

昇進も独立も望まない人たち

不思議なことに、電子媒体で均等な距離に「座っている」と声が出しやすいらしい。若手も最初はいつものごとく黙って聴いているだけである。だが1人、また1人が手を上げ「発言してもよろしいですか?」と聞くので、はい、と返事をする。自分の発声で画像の周りに黄色い枠がともると、質問も感想も、違うと思っていることも話すようになる。発言するのに許可を求めなくてもいいよ、とこちらが言うと打ち合わせの場がどんどん多声的になり、加速化し、質も上がることが実感できる。館長のお誕生日席からはよく見えなかった表情は、ディスプレイをさっと見渡しただけで合意ができているかどうかまで、分かる瞬間もある。

三菱UFJフィナンシャル・グループ
幅広いニーズに応える新NISAの活用提案──MUFGが果たす社会的使命
今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、イスラエル向け砲弾緊急売却を承認 議会審査省略

ワールド

ロシア、ガザへの国際監視団提案 「パレスチナ人懲罰

ワールド

COP28大詰め、化石燃料問題でなお意見隔たり大き

ワールド

フィリピンと中国が非難の応酬、南シナ海の船舶衝突巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イスラエルの過信
特集:イスラエルの過信
2023年12月12日号(12/ 5発売)

ハイテク兵器が「ローテク」ハマスには無力だった ── その事実がアメリカと西側に突き付ける教訓

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「未来の王妃」キャサリン妃が着用を許された、6本のネックレスとは?

  • 2

    ショッピングモールのデザインが「かつての監獄」と同じ理由

  • 3

    「ホロコースト」の過去を持つドイツで、いま再び「反ユダヤ」感情が上昇か...事件発生数が急増

  • 4

    下半身が「丸見え」...これで合ってるの? セレブ花…

  • 5

    中身が「透けすぎ」...米セレブ、派手なドレス姿で雑…

  • 6

    大統領夫人すら霞ませてしまう、オランダ・マキシマ…

  • 7

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 8

    英ニュースキャスター、「絶対に映ってはいけない」…

  • 9

    キャサリン妃の「ジュエリー使い」を専門家が批判...…

  • 10

    完全コピーされた、キャサリン妃の「かなり挑発的な…

  • 1

    「未来の王妃」キャサリン妃が着用を許された、6本のネックレスとは?

  • 2

    シェア伸ばすJT、新デバイス「Ploom X ADVANCED」発売で加熱式たばこ三国志にさらなる変化が!?

  • 3

    下半身ほとんど「丸出し」でダンス...米歌手の「不謹慎すぎる」ビデオ撮影に教会を提供した司祭がクビに

  • 4

    反プーチンのロシア人義勇軍が、アウディーイウカで…

  • 5

    下半身が「丸見え」...これで合ってるの? セレブ花…

  • 6

    周庭(アグネス・チョウ)の無事を喜ぶ資格など私た…

  • 7

    「傑作」「曲もいい」素っ裸でごみ収集する『ラ・ラ…

  • 8

    英ニュースキャスター、「絶対に映ってはいけない」…

  • 9

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 10

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不…

  • 1

    <動画>裸の男が何人も...戦闘拒否して脱がされ、「穴」に放り込まれたロシア兵たち

  • 2

    <動画>ウクライナ軍がHIMARSでロシアの多連装ロケットシステムを爆砕する瞬間

  • 3

    <動画>ロシア攻撃ヘリKa-52が自軍装甲車MT-LBを破壊する瞬間

  • 4

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不…

  • 5

    ここまで効果的...ロシアが誇る黒海艦隊の揚陸艦を撃…

  • 6

    最新の「四角い潜水艦」で中国がインド太平洋の覇者…

  • 7

    またやられてる!ロシアの見かけ倒し主力戦車T-90Mの…

  • 8

    レカネマブのお世話になる前に──アルツハイマー病を…

  • 9

    完全コピーされた、キャサリン妃の「かなり挑発的な…

  • 10

    「超兵器」ウクライナ自爆ドローンを相手に、「シャ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中