コラム

株価下落、政権幹部不和......いきなり吹き始めたトランプへの逆風

2025年03月12日(水)14時45分

リセッション突入の可能性を否定しなかったトランプ Kevin Lamarque-REUTERS

<物価高の中の不況「スタグフレーション」という悪夢を市場はおそれ始めている>

就任以来のトランプ政権は、政府組織の急速なリストラに加えて、軍事外交政策の大転換を続けています。1期目と違って、司法省や裁判所を味方につける一方で、議会共和党に対しては「造反すれば刺客を送る」という脅しが効いているようで、抵抗を封じた上での攻勢というわけです。ここまでは、とにかくトランプ流の「変革」が怒濤のように進んでいるように見えます。

これに対して、野党の民主党には勢いが感じられず、トランプ政権には「向かうところ敵なし」という感じでした。とりあえず「最初の100日」の期間内は、各メディアも批判を控えていたということもあります。ところが、就任から2カ月になる前の、この3月中旬の状況としては、既に政権の勢いが「逆風」に晒されているのを感じます。


まず株価の動揺が始まっています。3月7日の金曜日までに既に市場は下降をはじめていましたが、この週末に大統領のインタビューが放映されると、週明けからは下落が加速しています。というのは、週末にトランプ大統領は、FOXビジネスニュースのインタビューに出演、キャスターのマリア・バートロモ氏の質問に答える中で、「リセッション(不況)」突入の可能性を明確に否定しなかったのです。

トランプ改革の中身ということでは、過激な関税政策にしても、移民排斥にしても物価を押し上げる懸念については指摘されていました。ですが、改革の副作用として「リセッションもあり得る」という議論は、これまでは聞かれなかった議論です。そして、大統領が、その可能性を否定しなかったわけですから、これは大変な発言です。以降、週明けの株式市場も混乱が続いており、現地10日(月)、11日(火)と下げが止まりません。

マスクとルビオが口論?

逆風ということでは、DOGE(政府効率化省)を率いて、連邦政府に対する過激なリストラに猛進しているイーロン・マスク氏も直面しています。例えば、政府のリストラ案をめぐって、マルコ・ルビオ国務長官と舌戦になったともっぱらの噂です。どうやら、自分の所轄の国務省、そして問題のUSAID(国際開発庁)などにマスク氏が介入して来ることに対して「指揮命令系統の乱れ」を問題視したようです。

ただ、ルビオ氏に関しては、元々が中道右派の政治家であり、トランプ路線とは是々非々の関係になるのは予想されていました。ですから、タイミング的には少々早いとはいえ、マスク氏との対立が浮き彫りになったのは、それほど驚くような話ではないとも言えます。

マスク氏に関しては、それ以上に大きな問題となっているのが、自分が創業したテスラ株の下落です。テスラ株は、アメリカを代表する巨大時価総額を誇る優良株でした。そして、マスク氏のトランプ政権入りが確定した昨年12月にはほぼ480ドルという高値をつけていました。

ところが、その後、余りにも過激な政策を打ち出す中で、世界各国でのテスラ車の売り上げは激減しました。欧州やカナダでは半減、国によっては7割減というところもあります。特にマスク氏が欧州各国の政局に介入するかのような発言を繰り返したことは、事実上の不買運動を招いています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story