コラム

就任半年のトランプ政権、顕著になる「指導力」の不在

2017年07月28日(金)16時15分

突然トランスジェンダーの米軍採用禁止を打ち出したトランプに反発が広がる Carlo Allegri-REUTERS

<オバマケア代替法案は進展する見通しがなく、税制改革は具体策が定まらない。さらに為替政策、外交方針でもトランプ政権は一貫性を欠いている>

就任6カ月を過ぎたトランプ政権ですが、ここにきて「指導力」つまりリーダーシップの不在、あるいは不明確という問題が顕著になってきています。時間軸によるブレもあるのですが、正確に言えば、時間によって変わってきただけでなく、現在形で二重性を抱えていたり、いまだに指導力が定まっていなかったりしているのです。

1つには、議会でのバトルが続いている「オバマケアの廃止と代替」です。この問題ですが、オバマ大統領が実現した医療保険改革について、反対党だった共和党が政権を取ったことから「リピール&リプレイス」つまり廃止して、別案に置き換えるのが新政権の政治目標になっていました。

廃止して置き換えると言っても、国民に取って重要な医療保険の問題ですし、巨額な医療費と医療業界が関係する中で、大幅な改革は物理的に不可能です。そこで、(1)個人の強制加入(加入しないと罰金)を止め、(2)雇用主への強制加入(雇用したら付保しなくてはならない)を止める、(3)財源としての富裕層課税を止める、(4)付随している貧困層向け公営保険を州に移管する、といった「マイナーチェンジ」を盛り込んだ法案を作ったのですが、上院を通る見込みは立っていません。

というのは、州によっては「廃止と代替」を行うことで膨大な無保険者を出す可能性があるからで、そもそも党議拘束のない米議会では、共和党が過半数を制している上院であっても、多くの造反が出ているのです。そのために、「代替案がまとまらない」以上は、2年後に「オバマケアを廃止」することだけ法律として決めておいて、代替案は「その2年間に討議して決める」という案も出てきましたが、これも本稿の時点では可決の見通しは立っていません。

【参考記事】セッションズ司法長官をクビ!にトランプ支持層が激しく動揺する理由

問題は、トランプ大統領が、細かいことはどうでもいいから公約に掲げた「廃止(リピール)」を実現すれば政治的成果になるという、柔軟というか無定見な姿勢を取っていることです。その一方で大統領は「可決しないと議会を支持しない」などと強圧的なことを言うばかりなので、指導力の不在を指摘されても仕方がありません。

2つ目は、税制改革の問題です。4月末に発表された案では、大胆不敵な減税を行うことで、景気浮揚を図るとしていました。ですが、その後はロシア疑惑、そして医療保険改革の迷走などで時間を空費し、一向に審議に入ることができていません。

そのうちに、景況感は微妙に弱くなってきており、4月末とは経済環境が変わってきています。仮に景気がさらに弱まる中で減税を行えば税収不足になる危険もありますし、一方で減税をすれば再び景気をプラスの方向に戻せるという考え方もあるでしょう。ですが、明らかに4月時点とは環境が異なるにも関わらず議会に丸投げし、その間は何もしなかったわけで、ここでも大統領の指導力は不在です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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