コラム

アレッポ陥落、オバマは何を間違えたのか?

2016年12月20日(火)14時00分

Abdalrhman Ismail-REUTERS

<アレッポ陥落に際して対シリア外交の失敗を認めたオバマ。アサド政権に対するもっと強力な外交攻勢が必要だったが、それが可能だったかどうか現時点で評価するのは困難>(写真:反政府勢力が支配する別の地域を目指して東アレッポから避難する家族)

 シリアのアレッポ東部では、アサド政権に抵抗する反政府勢力に対して、政府軍やロシアによる空爆が続いていましたが、今月14日前後にほぼ組織的な抵抗は終了し、事実上陥落したアレッポは政府軍のコントロール下に置かれました。

 その時点で、問題は東アレッポの住民を「安全に脱出させる」ことに移っています。つまり、政府軍やその同盟軍であるシーア派武装組織、ヒズボラなどの暴力から保護して、シリア北部もしくはトルコ領内へ移動させる作戦です。

 この「脱出作戦」に関しては、アサド政権は「テロリストを逃がすことは許容できない」と反対していました。確かにアサド政権に抵抗した人間は、アサド政権から見れば「テロリスト」なのでしょうが、さすがに安保理ではロシアも「脱出作戦」には反対しませんでした。最終的に18日には、戦火の止んだアレッポに、大量のバスが派遣され、各国の報道陣に公開されています。

 どうしてロシアは国連安保理の「脱出作戦決議」に対して拒否権を発動しなかったのでしょうか? それはこの事態、つまりアレッポが「陥落」して、負けた反政府勢力とその支配下の住民が「追放される」状況それ自体が「オバマの政治的敗北」だからです。住民を移送するためにバスが行列している「絵」それ自体が、アメリカの「負け」を描き出しているからです。

【参考記事】世界が放置したアサドの無差別殺戮、拷問、レイプ

 オバマ大統領は、19日の記者会見で「(自分のシリア政策は)成功したとは言い難い」と述べ、ハッキリと失敗を認めていました。オバマとしては、アレッポ陥落の事実だけでなく、この事態に至るまでの人道危機を止められなかったこと、さらに「ロシアやアサド政権を支持し、シリア政策でオバマ=ヒラリー路線を批判」したドナルド・トランプが当選したことで、二重三重の政治的敗北となりました。

 では、オバマは何を間違ったのでしょうか?

 3つの要素に分けて考えたいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ビジネス

英財政赤字、2月としては過去最高 エネ高支援策支出

ビジネス

独ZEW景気期待指数、3月は予想以上に低下 不透明

ビジネス

BIS、スイス・米中銀の銀行システム不安対応を支持

ビジネス

銀行システム安定重視、預金者保護に一段の措置も=米

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:グローバル企業に学ぶSDGs

2023年3月21日/2023年3月28日号(3/14発売)

ダイキン、P&G、AKQA、ドコノミー......。「持続可能な開発目標」の達成を経営に生かす

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    大事な部分を「羽根」で隠しただけ...米若手女優、ほぼ丸見えドレスに「悪趣味」の声

  • 2

    女性支援団体Colaboの会計に不正はなし

  • 3

    「この世のものとは...」 シースルードレスだらけの会場で、ひときわ輝いた米歌手シアラ

  • 4

    プーチンの居場所は、愛人と暮らす森の中の「金ピカ…

  • 5

    「ベッドでやれ!」 賑わうビーチで我慢できなくなっ…

  • 6

    事故多発地帯に幽霊? ドラレコがとらえた白い影...…

  • 7

    「セクシー過ぎる?」お騒がせ女優エミリー・ラタコ…

  • 8

    「気の毒」「私も経験ある」 ガガ様、せっかく助けた…

  • 9

    復帰した「世界一のモデル」 ノーブラ、Tバック、シ…

  • 10

    「そんなに透けてていいの?」「裸同然?」、シース…

  • 1

    大事な部分を「羽根」で隠しただけ...米若手女優、ほぼ丸見えドレスに「悪趣味」の声

  • 2

    【悲惨動画3選】素人ロシア兵の死にざま──とうとう長い棒1本で前線へ<他>

  • 3

    「この世のものとは...」 シースルードレスだらけの会場で、ひときわ輝いた米歌手シアラ

  • 4

    プーチンの居場所は、愛人と暮らす森の中の「金ピカ…

  • 5

    事故多発地帯に幽霊? ドラレコがとらえた白い影...…

  • 6

    復帰した「世界一のモデル」 ノーブラ、Tバック、シ…

  • 7

    「ベッドでやれ!」 賑わうビーチで我慢できなくなっ…

  • 8

    女性支援団体Colaboの会計に不正はなし

  • 9

    「セクシー過ぎる?」お騒がせ女優エミリー・ラタコ…

  • 10

    少女は熊に9年間拉致され、人間性を失った...... 「人…

  • 1

    大事な部分を「羽根」で隠しただけ...米若手女優、ほぼ丸見えドレスに「悪趣味」の声

  • 2

    推定「Zカップ」の人工乳房を着けて授業をした高校教師、大揉めの末に休職

  • 3

    バフムト前線の兵士の寿命はたった「4時間」──アメリカ人義勇兵が証言

  • 4

    訪日韓国人急増、「いくら安くても日本に行かない」…

  • 5

    「ベッドでやれ!」 賑わうビーチで我慢できなくなっ…

  • 6

    【写真6枚】屋根裏に「謎の住居」を発見...その中に…

  • 7

    これだけは絶対にやってはいけない 稲盛和夫が断言…

  • 8

    1247万回再生でも利益はたった328円 YouTuberが稼げ…

  • 9

    交尾中の極太ニシキヘビが天井裏から降ってくる悪夢…

  • 10

    ざわつくスタバの駐車場、車の周りに人だかり 出て…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story