コラム

三原議員「八紘一宇」発言は笑えない問題

2015年03月19日(木)12時53分

 3月16日の参議院予算委で、与党議員として内閣に対する質問を行った自民党の三原じゅん子議員は「八紘一宇」という大戦中のスローガンを肯定的な意味で使用したばかりか、「日本が建国以来、大切にしてきた価値観」という発言までしています。

 すでにこのニュースには色々な論評がされていますが、念のため確認をしておきますと「八紘一宇」とは元来は日本書紀の中で、神武東征伝説に関連付けて「日本全国を1つに」というニュアンスで登場した言葉です。それが、戦時中にはいわゆる「大東亜共栄圏」という構想と結びつけられて「全世界をひとつの家のようにする」という意味に拡大されています。これでは日本軍の侵略のスローガンだとされても仕方がありません。

 三原議員の発言ですが、話題としては大企業が「タックスヘイブン」、つまり租税回避地を使って「節税」をする問題を批判する文脈で飛び出したようです。「八紘一宇の理念の下に、税の仕組みを運用していくこと」を安倍総理が「世界に提案すべきだ」と語ったというのです。

 この発言ですが、私はまったく笑えないものを感じました。発言した三原議員には、そんなに深い考えはないのかもしれませんが、幾層にもわたる政治的・歴史的経緯を踏まえる中で、この発言はしっかりと批判がされるべきと思います。

 まずタイミングが最悪です。オバマ政権は、日韓関係が悪化したことで、日米韓台の軍事同盟が有名無実化し、アメリカの東アジアにおける紛争抑止戦略が根本から崩壊することを真剣におそれています。例えば、キャロライン・ケネディ大使への脅迫事件は、NBCなど一般のTVニュースでもトップ扱いになっていますし、ミシェル夫人の訪日も、この問題への取っ掛かりを探す意味合いがあると思います。

 そのような中で、しかも戦後70周年の「追悼の年」に、与党議員から第2次世界大戦中に「大東亜共栄圏」拡大のスローガンに使用された言葉が抵抗感なく使われる、しかもそれが直ちに厳しい批判に晒されないというのは重大なことだと思います。

 例えば、日米韓台の同盟の中で、価値観を共有していないのは日本ではないのかという批判に結びつけられる可能性があります。更には中国やロシアから見ても日本が「枢軸国のアイデンティティー」を捨てられずに孤立へ向かう兆候だとして、功利的に解釈されかねない、そのような危険性もあります。

 この発言は「用語とその背景のイデオロギー」が問題であるだけではありません。

 現在の日本経済は、アベノミクス「第3の矢」である構造改革、国際競争力の回復が急務です。例えば、この2年強の間に1ドル79円であった円相場は、120円まで下げることに成功しています。ですが、その一方で貿易収支は32カ月連続で赤字であり、通商取引に関して言えば「円安の方が辛い」状況に陥ってしまっています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米政権「トランプ氏の交渉術の勝利」、カナダのデジタ

ワールド

EU、米関税一律10%受け入れの用意 主要品目の引

ビジネス

ECB総裁「世界の不確実性高まる」、物価安定に強力

ワールド

トランプ氏、7月7日にネタニヤフ首相と会談 ホワイ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 8
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 9
    自撮り動画を見て、体の一部に「不自然な変形」を発…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story