コラム

年明けのオバマ支持率「回復」をどう見るか?

2015年01月08日(木)11時43分

 年明けの2日から始動しているアメリカ社会では、早速新年の世論調査データが出始めています。注目されるのは、オバマ大統領の支持率です。昨年は「いったいどこまで下がるのか?」といった下降トレンドが続き、「不支持が支持を大きく上回る」のが常態化していたのですが、一部の調査では上昇に転じているのです。

 例えば、ラスムセン(1月4〜6日)では支持が51%、不支持が47%。ギャラップ(1月4日〜6日)では支持が45%、不支持が48%ということで、昨年より大きく改善しています。ロイター・イプソス(12月31日〜1月4日)では、支持39%、不支持55%と、依然として悪い数字のものもありますが、政治サイトによくある全体の平均をグラフ化したものでは、上昇トレンドに転じているのは明らかです。

 1つの理由は、昨年末に政治的なリスクを取って踏み切った、キューバとの国交回復、不法移民の合法化といった政策が支持されていることがあります。中間選挙で負けるまでのオバマは、野党共和党が優勢な議会に遠慮していたのですが、選挙で大敗した「開き直り」から、こうした政策を「大統領令(エクゼクティブ・オーダー)」で強行したのです。

 共和党としては「議会軽視」だとカンカンですが、怒りすぎて「民主主義を否定する独裁オバマはヒトラーだ」的な言い方になると、さすがに中道層から「良いことをやっているのに、ヒトラーはないだろう」という違和感が来るわけで、急速にオバマの支持が戻っているという動きが出てきています。

 しかし、何と言っても「景気」が大きいと思います。歳末商戦も良かった、雇用統計は連続してどんどん改善が見えてきている、年明けの株も下がらなかったということで、「長い間待たされていたが、ようやくアメリカ経済が良くなっている」という実感が出てきた、これが一番だと思います。原油安でガソリン代が下がっているのも生活実感としては好材料です。

 この先、このトレンドが続き、例えば「利上げ」も市場が受け入れていくようですと、ドル高で世界中から資金が集中する中で、更に株が一段高となっていく、つまり98~99年のような現象が起きないとも限りません。そうなると、オセロの大逆転のようにオバマは「最高の状態で8年の任期を全うする」可能性も出てきます。

 要するにアメリカ国民は、オバマのことが心の底から嫌いではなかったし、民主党も嫌いではなかったのだと思います。さらにこうした好景気のトレンドが続く限りは、仮に2016年にヒラリーが出馬すれば、相当に有力な候補になるということは言えそうです。

 共和党のジェブ・ブッシュが、ここへ来て急速に人気を集めているのも、景気が良い中では、政治的なギャンブルはしたくないという有権者の心理を計算してのことだと思われます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀ピル氏、QEの国債保有「非常に低い水準」まで

ワールド

クラウドフレアで障害、数千人に影響 チャットGPT

ワールド

イスラエル首相、ガザからのハマス排除を呼びかけ 国

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story