コラム

灯油ランプの健康被害から救う、重力で発電するライト

2015年10月23日(金)06時30分

1.8mの落差があれば内蔵LEDを20分間点灯させられる

 壁のスイッチを入れれば灯りがつき、電池が切れたら近くのコンビニで買ってくる(あるいは、コンセントから充電する)。そんな生活が当たり前となっている私たちからすると、なかなか想像がつきにいくいが、この地球には依然として約13億人が電気のない地域で暮らしている。

 そうした人々の多くは、日没後に、電球の代わりにケロシン(灯油)ランプによる薄明かりの中で夕食をとったり読書や勉強をし、ラジオの電池が切れると、場合によっては数十キロ以上も離れた町まで買い出しに行かなくてはならない。そして、貧しい家庭ではランプの燃料代だけで家計の3割を占めることもある。

 しかも、その弊害は不便さや経済面だけでなく、深刻な健康被害にもつながっている。世界銀行の調査では、それらの地域に住む約7億8千万人もの女性や子どもたちが、室内に置かれたケロシンランプから1日に40本のタバコと同等の煙を吸い込んでいるものと推定され、喫煙者ではないにもかかわらず呼吸器疾患の発症率が異様に高かったり、ランプの転倒によって重度の火傷を負う人の数がインドだけでも年間1500万人に上るという。

 こうした状況から、クリーンな再生可能エネルギーの利用が急がれる一方、たとえば風力発電や太陽光発電は、設備投資の問題を別にしても設置場所が限定されたり天候によっては機能せず、安定した電力を得にくいという問題もある。つまり、発電量は小さくともメンテナンスフリーで、晴雨・昼夜問わずに使え、長期にわたって劣化しないエネルギーソースが求められるのだ。

 この問題に正面から取り組んだのがGravityLightであり、その名の通り、グラビティ(重力)を利用して発電する。重力エネルギーは、常に利用でき、完全に無料で、廃棄物も一切ないという、この種の応用には理想的な特性を備えている。



 その基本原理は鳩時計と同じで、巻き上げた錘がゆっくりと下降する力を利用する仕組みだが、錘自体に無駄な配送料をかけずに発送できるように、現地で12kgの砂や小石を詰められる丈夫な袋が付属している。発電力はわずか1/10Wに過ぎないものの、約1.8mの落差があれば内蔵LEDを20分間点灯させられるほか、外付けの補助灯やラジオなどにも電源を供給可能である。手回し発電機などと違って、発電中に誰かが機材に張り付く必要もなく、巻き上げにかかる時間はごく短時間で済むため、基本的に最小限の労力で半永久的な灯りと音声による情報や娯楽を手に入れられることになる。

1.GL_First_Gen.jpg


 初代モデルもクラウドファンディングによって資金を調達したが、2016年に出荷予定の第2世代モデルも無事にファンディングに成功し、ケニアでの生産体制の整備を行っての現地雇用創出や、より合理的な設計による低コスト化に成功している。

 実は、イギリスのロンドンに本拠地を置くこの製品のメーカー名はデシワット(Deciwatt)。デシリットルが100cc(=0.1リットル)を示すように、デシは1/10を意味する。つまり、GravityLightの発電量を誇らしく社名にしているのであった。

GravityLight GL01 installation guide

プロフィール

大谷和利

テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー、NPO法人MOSA副会長。アップル、テクノロジー、デザイン、自転車などを中心に執筆活動を行い、商品開発のコンサルティングも手がける。近著に「成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか」(現代ビジネスブック)「ICTことば辞典:250の重要キーワード」(共著・三省堂)、「東京モノ作りスペース巡り」(共著・カラーズ)。監修書に「ビジュアルシフト」(宣伝会議)。

今、あなたにオススメ

キーワード

ニュース速報

ビジネス

カナダ中銀、利下げペースは緩やかとの想定で見解一致

ワールド

米制裁が国力向上の原動力、軍事力維持へ=北朝鮮高官

ワールド

韓国GDP、第1四半期は前期比+1.3% 市場予想

ビジネス

バイオジェン、1―3月利益が予想超え 認知症薬低調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story