最新記事
シリーズ日本再発見

幻の音源も収録された、大滝詠一の新作ノベルティ作品集はただごとではない

2023年03月21日(火)12時00分
湯浅 学(音楽評論家)
大滝詠一

福生45スタジオ隣のミーティング棟にて。壁のドーナツ盤とお気に入り盤収納のジュークボックスが光る。貼ってあるポスターはLP『Buddy Holly Box』の付録だったもの。©THE NIAGARA ENTERPRISES INC.

<初公開の新曲や提供曲のセルフカヴァーなど、未発表音源が多数収録された『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK/NIAGARA ONDO BOOK』がついに発売。コミックソングやユーモア溢れる楽曲満載の新たな作品集の魅力とは? 『Pen Books 大滝詠一に恋をして。』より抜粋>

大滝詠一に対して、メロディー・タイプとノベルティ・タイプの両方をつくりわけていた人という印象をもつ方も少なくないと思う。

中には、大滝はメロディー・タイプの曲だけつくっていればよかったのに、という感想を抱く方もいる。逆に大滝の才能はノベルティ・ソングで最大限に発揮されているという方もいる。

結論としては、どちらの作品においても異彩を放った人物であった。だからこそ、そのような感想や見解が生じる。それは間違いない。

 

1970年代は暗中模索期、80年代が充実期、というように大滝の活動を区分する人もいる。それには異論がある。大滝は生涯を通じて研究と実験を続けた人だったからだ。70年代と80年代とでは、大滝の活動の態勢、状況が異なっていた。そのために作品の様相は違っている。

しかし音楽に対するまなざしは変わらなかったと思う。70年代の『ナイアガラ・ムーン』や『ナイアガラ・カレンダー'78』は、ノベルティ・タイプの作品を中心とした傑作である。これらのようなアルバムを80年代につくらなかったのは、その二つがすでに完成されたものだったからだ。

そこで得られた創作上の確信は80年代以降の作品群にも多々活かされている。本邦初公開の新曲や提供曲のセルフカヴァーなど、未発表音源を多数収録する新作ノベルティ作品集『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK/NIAGARA ONDO BOOK』を聴けば、ノベルティ曲の深さや魅力がわかるだろう。

大滝は他のアーティストに提供する作品でも、自分の中の引き出しのいちばん良好なところ、そのときどきのベストなネタで曲づくりをしていた。常に相手の座付作者的な姿勢で制作している。その上で、それまでに試していなかったことをそこでやってみたりする。

相手をポジティヴに解析したうえで実験を加えている。そのこともこの新作コンピレーションでよくわかる。

ノベルティ・ソングではユーモアのセンスが問われる。笑いは脳をリフレッシュする。ユーモアを伝えるためには自分自身が快活で、好反応状態にいる必要がある。その点で、大滝の好奇心は衰えることがなく、精神は常にタフだった。と同時に敏感だった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

11月百貨店売上は0.9%増で4カ月連続プラス、イ

ビジネス

物価目標「着実に近づいている」と日銀総裁、賃上げ継

ビジネス

午後3時のドルは155円後半で薄商い、日銀総裁講演

ワールド

タイ11月輸出、前年比7.1%増 予想下回る
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中