コラム

ワグネルはアフリカからウクライナへ向かうか──「再編」が本格化

2023年10月10日(火)20時40分
アンドレイ・トロシェフ(右端)とプーチン

トロシェフ氏(右端)と会談するプーチン大統領(9月28日) Sputnik/Mikhail Metzel/Pool via REUTERS

<ウクライナ東部で戦闘を再開した500人のワグネル兵はアフリカから来た可能性があると、ワグネルに近い情報筋は言う。アフリカ大陸全体で6000人に上るワグネルの兵力は、今後さらにウクライナにやってくるのか>


・ロシア政府は6月に反乱を起こした民間軍事企業「ワグネル」に新しい司令官を据えて再編成しようとしている。

・プーチン政権はワグネルを含む傭兵あるいは非正規兵を統合した新たな組織を構想している。

・こうした背景のもと、中東やアフリカなどで活動してきたワグネル兵の一部はウクライナに移動し始めたとみられる。

6月の反乱後、ワグネルにはロシア軍に非協力的な態度が目立っていたが、プーチンはその再編を本格化させている。

「ワグネル新司令官」の登場

プーチン大統領は9月28日、アンドレイ・トロシェフ氏と会談し、「ウクライナを含む戦場で戦闘任務をこなせる'義勇兵'の編成」について協議した。

この'義勇兵'は、ロシアにいくつかある政府系の非正規部隊を統合するという意味で、そのなかにはワグネルも含まれるとみられる。

プーチンとこの協議を行なったトロシェフは実質的に、ワグネルを含む非正規部隊のヘッドに認知されているといえる。

それではトロシェフとは何者か。

1953年生まれのトロシェフは諜報機関出身で、1980年代にはアフガニスタン、1990年代からはチェチェンと、ソ連末期から現代のロシアに至る多くの戦争にかかわってきたといわれる。

2015年からはシリアで活動し、2016年にワグネルに「移籍」したとみられている。

その軍務によってロシア連邦英雄勲章などを授与された経歴をもつが、シリアでの民間人虐殺などに関与した疑惑により、その他のワグネル幹部とともにウクライナ侵攻以前からEUなどが資産凍結といった制裁の対象にしてきた。

しかし、トロシェフはワグネルが6月に起こした反乱に加わらなかった。そのため、8月にエフゲニー・プリゴジン司令官とその一派が飛行機「事故」で死亡した時も一緒にいなかった。

生き残ったワグネル幹部のなかで恐らく最高クラスのトロシェフと、プーチンはワグネル反乱の翌7月、早くも'義勇兵'編成について協議していた。その後、トロシェフは国防省に所属している。

プリゴジン時代のワグネルは、プリゴジンとショイグ国防相の個人的確執から、ロシア軍と「冷戦」状態にあった。

これに対して、トロシェフが司令官になる新ワグネルは、政府直属となる公算が高い。9月28日のプーチンとトロシェフの会談にエフクロフ副国防相も出席していたことは、これを示唆する。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:中国の再利用型無人宇宙船、軍事転用に警戒

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story