コラム

例えば、F-16戦闘機... スウェーデンのNATO加盟承認に転じたトルコが欧米に期待すること

2023年07月19日(水)16時30分
NATO首脳会合に先立って会見したトルコとスウェーデンの両首脳

NATO首脳会合に先立って会見した両首脳(7月10日、リトアニア・ビリニュス) REUTERS/Yves Herman/Pool

<問題をできるだけエスカレートさせ、譲歩を取引材料にする──突然の方針転換は、欧米各国からの軍事、経済両面での支援を引き出すための外交手法だ>


・トルコは聖典コーランの焼却を合法化したスウェーデンがNATOに加盟することに反対してきたが、一転して賛成に転じた。

・この方針転換は、対立をエスカレートさせ、要求を引き上げておいて、譲歩することを取引材料にする外交手法といえる。

・それによってトルコは欧米各国から軍事、経済の両面での支援を期待しているとみられる。

トルコがスウェーデンの加盟を支持したことで、NATO(北大西洋条約機構)は32カ国体制になる道が拓けた。

 
 
 
 

「サプライズ」の方針転換

今月初旬に筆者が示した「スウェーデンのNATO加盟はほぼ絶望的」という予測は、完全に外れた。

それまでスウェーデンのNATO加盟に強硬に反対し、外交的に断絶寸前まで至っていたトルコが7月10日、スウェーデンの加盟承認に向けた手続きを約束したからだ。

NATOのストルテンベルグ事務局長は「歴史的な日だ」と述べ、アメリカのバイデン大統領もこれを称賛した。

とはいえ、アルジャズィーラが「サプライズ」と呼んだように、筆者のみならず多くのウォッチャーにとってエルドアンの決定は予想外だった。

トルコはもともとスウェーデンがトルコ国内で分離独立を要求するクルド人などを難民として受け入れていることを「テロリストを擁護している」と批判し、NATO加盟に反対してきた。さらに今年4月、スウェーデンで聖典コーランを抗議デモのなかで焼く行為が法的に認められたことで、両国関係は極度に悪化していた。

そのなかでトルコは突然、方針を転換したのだ。

予測を誤ったのを認めるのは無念だが、スルーすることもできない。

急転直下の方針転換はなぜ生まれたのか。

結論的にいえば、トルコのエルドアン大統領はスウェーデンのNATO加盟を認めるのと引き換えに、欧米からさまざまな協力を引き出そうとしたとみられる。

アメリカからF-16提供

例えば、スウェーデンの加盟が一つの焦点になったNATO首脳会合に先立って、バイデン政権で外交・安全保障を担当するサリバン補佐官は「議会との協議を踏まえてトルコに戦闘機F-16を提供する用意がある」旨を発表した。

ロッキード・マーティン製F-16はアメリカ軍の主力戦闘機の一つ。 

これまでエルドアン政権は40機のF-16購入を希望していたが、アメリカ議会の反対によって実現してこなかった。トルコがNATO加盟国でありながらロシアから地対空ミサイルS-400を購入したことに加えて、スウェーデンのNATO加盟に反対していることが主な理由だった。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ハマス、人質のイスラエル軍兵士の遺体を返還へ ガザ

ワールド

中国外相、EUは「ライバルでなくパートナー」 自由

ワールド

プーチン氏、G20サミット代表団長にオレシキン副補

ワールド

中ロ、一方的制裁への共同対応表明 習主席がロ首相と
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 10
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story