コラム

ワグネルに代わってカディロフツィがロシアの主力に? チェチェン人「TikTok兵」の危険度

2023年06月05日(月)15時05分
ラムザン・カディロフ

ウクライナ派兵を宣言するチェチェンのカディロフ首長(2022年2月25日、グロズヌイ) Chingis Kondarov-REUTERS

<戦争当初からウクライナでの活動が確認されていたチェチェン人部隊だが、ワグネルに比べて目立たなかったのはなぜか? いったい何をしていたのか>


・これまでロシアの主力だったワグネルがバフムトから撤退したことをきっかけに、チェチェン人部隊の存在感が急浮上している。

・チェチェン人部隊はこれまでもウクライナに展開していたが、戦闘よりむしろ映像発信に力を入れていたとみられる。

・そのチェチェン人部隊が主力となることは、ウクライナ軍への攻撃よりむしろ民間人への残虐行為がこれまで以上に増える懸念を招く。

人権侵害や戦争犯罪などの悪評でチェチェン人部隊はワグネルに勝るとも劣らないが、その一方で戦闘任務を担う能力には疑問の余地もある。

ワグネルに代わるロシアの主力

米シンクタンク、戦争研究所は6月1日、最新報告書を発表し、チェチェン人部隊がウクライナでの戦闘任務の中心になる可能性を示唆した。

ウクライナ戦争でこれまでロシア軍の主力だった民間軍事企業ワグネルは5月末、東部ドネツク州の要衝バフムトから撤退した。

そこにはロシアからの補給不足、ウクライナ側の攻勢などいくつかの理由があるが、ワグネル兵の士気や練度の低下も見逃せない。

侵攻後、ワグネルは受刑者や移民など戦闘経験のほとんどない者をかき集めて肥大化したが、これがかえってアダになったともいえる。

ともあれ、戦争研究所の最新報告はバフムト撤退がロシアの派閥抗争を加速させたと指摘する。

それによると、もともとワグネルのエフゲニー・プリゴジン司令官はプーチン大統領との個人的な関係を背景に、資金、装備、権限などあらゆる面で優遇され、これが国防省や他の部署の不満を招いていた。その急先鋒が、チェチェン勢力だった。

この背景のもと、ワグネルが「弾薬や装備の不足」を訴えてバフムトから撤退したことは、反ブリゴジン派の中心にいたチェチェン人の存在感を急浮上させたというのだ。その結果、プーチン政権はワグネルに代わってチェチェン人部隊に戦闘任務を命じたとみられている。

プーチン支持のチェチェン人民兵

戦争研究所の報告で言及されるチェチェン人とはそもそも何者か。

その多くはムスリムで、ロシア南部のチェチェン共和国を原住地とする。

この地は冷戦終結後の1990年代、ロシア連邦からの分離独立を求めて全面的な内戦に陥った歴史がある。独立を求めた戦いに、アフガニスタンなどから流入したイスラーム過激派が参入したことで内戦は熾烈を極め、最終的に8万人以上の死者を出すに至った。

このなかで台頭したのが現在のプーチン大統領だった。プーチンは殺傷力の高い燃料気化爆弾まで投入してチェチェン分離派を鎮圧し、ロシア国内で「強いリーダー」として認知を得たのである。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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