コラム

河野太郎大臣、貧しさの責任は母親たちではなく政府にこそある

2021年05月31日(月)16時05分
河野太郎

Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<子供の貧困率の高さについて、河野氏が「いかに若い人の妊娠率を下げるか」「母子世帯の発生を抑える」などと発言した。私の生い立ちからすれば侮辱にしか感じない>

5月13日に河野太郎沖縄担当大臣が、沖縄県における子供の貧困率の高さについて「若いうちの妊娠が引き金」「いかに若い人の妊娠率を下げるか」「母子世帯の発生を抑える」などと発言した。

問題は若年妊娠や母子家庭であり、それらを減らしたり抑えたりすることが重要だという見方を披露したわけである。率直に言って、同意できない。

ひとり親家庭の貧困率が高いのは事実だ。というか、日本のそれは約5割とOECD諸国の中でも突出した高さであることが知られている。

働いていないからではない。働いているのに貧しいのだ。日本におけるひとり親の就労率はOECD平均よりかなり高く、8割を超えている。

日本の母子家庭では非正規雇用の割合が非常に高く、低賃金と不安定就労が当たり前になっている。本来的にはもう一人の稼ぎ手である元パートナーからの養育費に期待したいところだが、その受け取りは母子家庭で4人に1人にとどまっている。

さらに、支出面を考えれば、子供の存在は必然的に教育費と結び付く。特に塾や習い事など学校の外で必要になる教育費の負担は重く、逆に言えばその領域を介して家庭間の経済格差が子供間の進路や学力の格差へと結び付きやすい構造になっている。

ここまでで明らかなように、仕事と子育てを一手に担う日本全国のひとり親たち、特に母親たちの多くは、常に自らの限界を突破するようにして頑張り続けている。にもかかわらず経済的には貧しいわけである。

こうした現状は政府の対策が失敗していることの否定できない証左であり、貧しさの責任は母親たちではなく政府にこそある。

政府がすべきなのは、「ふつうの家庭」から外れると一気に貧しくなってしまう社会の在り方にテコを入れ、「ふつうの家庭」でないことに烙印を押すようなまなざしへの固執を捨てることだ。

それは「ひとり親を選ぶ自由」を保障するということでもある。経済的な理由などから離婚を選び切れない人だってたくさん存在する。統計には表れなくても、「母子家庭の発生」は既に強く抑制されているのだ。

だが、河野大臣が示した考え方はそこから遠く離れているように見える。「若い人の妊娠率を下げる」にしても「母子世帯の発生を抑える」にしても、彼の言う「責任を持って子育てできる世帯」という「ふつう」へと強力に誘導し、それ以外のあり方に「無責任」のレッテルを貼るような言葉だ。

プロフィール

望月優大

ライター。ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。著書に『ふたつの日本──「移民国家」の建前と現実』 。移民・外国人に関してなど社会的なテーマを中心に発信を継続。非営利団体などへのアドバイザリーも行っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエル・イラン停戦支持 核合意再交渉

ワールド

マスク氏、トランプ氏の歳出法案を再度非難 「新政党

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで約4年ぶり安値、米財政

ワールド

米特使「ロシアは時間稼ぎせず停戦を」、3国間協議へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 8
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 9
    自撮り動画を見て、体の一部に「不自然な変形」を発…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story