コラム

なぜ脳は、日本的「美」に反応する? 欧米の美とは異なる「共存」と、AIが処理できない「無」

2026年03月07日(土)11時50分

0304mn_fba01.png

神経美学から見た「日本的美」──真・善・美をつなぐ脳の働き

まずは石津氏が、自身が専門とする「神経美学(neuroaesthetics)」の立場から、本SIGの問題意識を説いた。近年、経営やリーダーシップの文脈において「美意識」の重要性が語られる場面が目立つが、多くは西洋的価値観に基づいた抽象的議論にとどまっているという。対して日本は長い文化的蓄積を持ち、日本人が身体的・感覚的に共有してきた固有の美意識があるはずであり、それを科学的に捉え直すことが必要だというのが出発点である。

なぜ「美」は重要なのか

「美は趣味や贅沢の問題ではない」。石津氏は、化粧品・広告・美術館などが生み出す巨大な経済効果や、同じ履歴書でも「美しい」体裁の方が評価されやすいといった実証研究を例に挙げ、人間の判断や行動が美に強く影響されていることを示唆した。

さらに、美は外見だけに限られない。他者を思いやる行為を「美しい心」と感じたり、数学者が数式の簡潔さに美を見いだしたりするように、人間は真実や善行と結びついた価値にも美を感じる。これは古代ギリシャ哲学で語られた「真・善・美」の三位一体の考え方とも通じる。絶対的な正解がない状況で意思決定を迫られるとき、美の感覚が判断を支える可能性がある、として、石津は論を進める。

0304mn_fba02.png

神経美学とは何をしているのか

神経美学は、美的体験に伴う心と脳の働きを、心理実験と脳計測によって研究する分野である。fMRI(脳の血流変化を測る装置)や脳波、心拍、視線、表情筋活動などを用い、「美しい」と感じている瞬間に身体と脳がどう反応するかを客観的に測定する。

研究の蓄積から、音楽・絵画・顔・自然風景・数学的真理、さらには道徳的な美しさなど、対象が異なっても、美を感じたときには共通して活性化する脳領域があることが分かってきた。その中枢が、前頭葉の奥にある「内側眼窩前頭皮質「内側眼窩前頭皮質(ないそくがんかぜんとうひしつ)」だ。眉間の奥あたりにある部位で、「報酬(報酬系)」、つまり脳が価値を感じ、喜びや快楽を処理する中心地だ。

プロフィール

南 龍太

共同通信社経済部記者などを経て渡米。未来を学問する"未来学"(Futurology/Futures Studies)の普及に取り組み、2019年から国際NGO世界未来学連盟(WFSF・本部パリ)アソシエイト。2020年にWFSF日本支部創設、現・日本未来学会理事。主著に『未来学』(白水社)、『生成AIの常識』(ソシム)『AI・5G・IC業界大研究』(いずれも産学社)など、訳書に『Futures Thinking Playbook』(Amazon Services International, Inc.)。東京外国語大学卒。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン戦争は2週目に、トランプ氏「無条件降伏」求め

ビジネス

アングル:欧州で若者向け住宅購入の新ビジネス、価格

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 2
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 3
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 4
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園…
  • 7
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 8
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story