コラム

蓮舫氏へ、同じ「元・中国人、現・日本人」としての忠言

2016年09月15日(木)18時10分

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民進党代表選の投票用紙の葉書には「蓮舫」と書き、目隠しシールを貼って投函する直前だった(撮影のために目隠しシールを剥がす筆者)

釈明のために「一つの中国論」を持ち出した

 私も民進党員だ。もともとは蓮舫氏に投票するつもりだった。2010年当時、外務大臣として尖閣諸島沖中国漁船衝突事件の対応を誤り、日中関係を悪化させた前原誠司氏に投票する気にはなれなかったし、玉木雄一郎氏が代表選候補者討論会で涙を流す姿を見て「こんなナイーブな人では政権は取れない」と思った。消去法とはいえ彼女を選び、葉書に「蓮舫」と名前まで書いていた。だがウソと時間稼ぎの説明を見て失望し、投票を断念した。

 日本は開かれた多様な社会を目指すべきであり、そのためにも「元・外国人」の政界進出は歓迎すべきだ。私も政治家として日本に貢献したいという志は捨ててはいない。一部では批判が暴走し、蓮舫氏の子どもの名前が中国風だからなどといちゃもんをつける人までいるようだ。そうした差別的なバッシングには断固反対する。だがしかし、蓮舫氏に問題があったことは明らかだ。本来ならば代表選は国民に民進党とその政策を知ってもらう絶好のチャンスだったはずだ。それがこんな結果に終わったことは一党員として残念でならない。

 もう一つ、蓮舫氏の問題が日台関係にまで影響していることにも触れておこう。11日の代表選記者会見で、蓮舫氏は「一つの中国論で言ったときに、二重国籍と(いう言葉を)メディアの方が使われることにびっくりしている」と発言した。この発言が台湾では大きな波紋を引き起こしている。台湾メディアが「台湾は国家ではない」と大胆すぎる意訳をしたことが炎上のきっかけとなったが、正しい言葉を伝えられた後も騒動は収まっていない。

 一つの中国論は今、大変敏感な話題だ。5月に誕生した台湾の蔡英文政権は、一つの中国論を確認した「92年コンセンサス」に否定的立場を取っており、台湾市民の多くも支持している。中国は蔡英文政権を翻意させようと、観光客の数を減らすなどあの手この手で圧力をかけているのだが、その最中に日本の国会議員、しかも将来の首相を狙おうという人物が一つの中国論を持ち出した。それも、台湾籍を持っていたことが問題視され、中国とは関係のない人物が自らの釈明のためだけに持ち出したのだ。これでは台湾の人々が不快に思うのも無理はない。台湾にルーツを持つ蓮舫氏に対する期待は高かったが、後ろ足で砂をかけられたような思いだろう。

 自分の身を守る釈明のために、台湾の対日感情を傷つけてしまう......。自分を犠牲にして国益を守るのが本来の政治家だ。彼女のやり方はその真逆。この一点をもってしても政治家としての能力に疑問符を付けざるを得ない。

 法務省は本日(15日)、一般論としてだが、日本国籍を取得した後も台湾籍を残していた場合、二重国籍状態が生じ、国籍法違反に当たる可能性があるという見解を発表した。もう一度言う。蓮舫氏は即刻、民進党代表を辞任するべきだ。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

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