コラム

今度の参議院選挙で審判を受けるのはむしろ「野党」

2022年06月23日(木)11時06分

今回の参院選でむしろ問われるのは野党のあり方 Issei Kato-REUTERS

<参院選が始まった。当初は「ほぼ無風」と見られたが、インフレと円安で微妙に与党・岸田政権への風向きが変わりつつある。しかし今回の選挙で有権者の審判を受けるのはむしろ野党だ>

参議院選挙が22日に公示され、7月10日の投開票日まで18日間の選挙戦が始まった。岸田首相は勝敗ラインを「非改選を含めて与党で過半数」としているが、自民党優位が伝えられている現状からすればかなり低いハードルだ。むしろ「比例区で最多得票を得る野党は立憲民主党か日本維新の会か」、「立憲民主党の泉健太代表は選挙後に交代に追い込まれるのか」といったような野党側の事情に関心が集まっているが、それは今回の選挙の本質を示しているとも言える。

参議院選挙は、首相指名で優越する衆議院の総選挙と異なり、政権「選択」選挙ではない。しかし今回の参議院選挙は、2021年10月の発足直後に解散総選挙に踏み切り勝利を収めた岸田政権にとって、通常国会での予算編成や法案審議を踏まえた実質的に初めての政権「評価」選挙となる。

ところが岸田政権はこの半年間、国会運営で安全運転に徹し、国論を二分するような課題と対峙することを避ける策を取ってきた。野党第一党である立憲民主党が「政策提案」型へ路線転換し、政権与党・霞が関を糾弾する「野党合同ヒアリング」スタイルを止めたこともあって、国会では奇妙な均衡状態あるいは単なる弛緩が漂っていた感すらある。今国会では内閣提出法案(閣法)61本が全て可決・成立したが、これは26年ぶりだ。会期末の内閣不信任案と衆議院議長不信任案も大きな関心を集めなかった。

他方で4月23日の知床観光船遭難事故で岸田首相は熊本の日程を急遽切り上げて自衛隊機で帰京し、6月に発覚した自派閥若手議員のスキャンダルではシンガポールに向かう政府専用機の中から茂木敏充幹事長に電話をかけて指示している。機敏な対応は危機管理の要諦を外していない。情報漏洩等の疑念が報じられた内閣官房経済安全保障法制準備室長に対する「怒りの即時更迭」劇とも併せ見ると、「のらりくらり」の国会対応は作為的なものであり、財務省と外務省等が中心となって支える岸田首相の政権運営スタイルと広報体制は存外周到に練られたものであることが分かる。第二次岸田政権発足時の外相人事や防衛事務次官の帰趨が注目された今夏の各省人事異動も、安部・菅政権時代との違いを浮き彫りにしている。

官邸と自民党との関係も、高市早苗政調会長の立ち位置の問題があるにせよ、概ね良好に保たれ大きな火種があるとまでは言えない。「令和の元老」とも言うべき麻生太郎副総裁を頂く自民党は、昨秋の総選挙で成果を上げた野党分断策を更に推し進めた。連合との政策懇談が進み、国民民主党は予算案に賛成し内閣不信任案に反対した。6月20日開票の杉並区長選挙では、市民団体が擁立し立民、共産、れいわ、社民の推薦を受けた野党系新人候補が4選を目指した現職に187票差で競り勝ったが、今回の参議院選挙では、32ある1人区のうち野党共闘を実現し候補者を一本化できたのは11選挙区に過ぎない。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中マドリード協議2日目へ、TikTok巡り「合意

ビジネス

英米、原子力協力協定に署名へ トランプ氏訪英にあわ

ビジネス

中国、2025年の自動車販売目標3230万台 業界

ワールド

トランプ氏、首都ワシントンに国家非常事態宣言と表明
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story